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『最強のワタシ』は、雪深い高山市を舞台に、ある少女の生き様を描いたアクション・サスペンスです。
主人公・エミリは、幼い頃の事故で母を亡くし、父は半身不随に。
そんな過去を抱えながらも、彼女はひとりで鍛錬を重ね、やがて“犯罪狩り”を始めることになります。
デジタル迷彩服に身を包み、最新技術を駆使して夜の街を駆ける彼女の目的はただひとつ──
10年前の事故の真相を暴き、仇を討つこと。
しかし、そんな彼女の前に、ある男が現れます。
新しい担任教師として現れたその男は、かつて彼女を襲った犯人なのか?
果たしてエミリは復讐を遂げることができるのか?
この物語は、復讐と家族愛、そして“最強”であることの意味を問いかける物語です。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
そしてこの物語は、Podcast番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトやSpotify、Amazon、Appleなどの各種プラットフォームでも音声で楽しめます。
小説と音声、両方の世界で『最強のワタシ』を体験してみてください!(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
■シーン1(エミリ=8歳)/救急車の車内
■SE/救急車の車内音〜サイレンの音
「パパ!ママ!」
「エミリ、よく聞いて。
これからパパのこと、お願いね。
頼んだわよ、エミリ」
「ママは!?いやだー!ママ!いやー!いかないで!」
■シーン2(エミリ=18歳)/学校の教室(お昼の休み時間)
■SE/学校のチャイム〜教室のガヤ
「ちょっと見て、あの子。また、隠れてお弁当食べてる」
「きっとゲテモノなんじゃない」(クスクスと笑い声)
クラスのみんなが小さな声で、私のことを話してる。
だってしょうがないじゃん。
私、ただでさえ陰キャなのに、料理のセンスがゼロ、というよりマイナスだから・・・
お弁当箱に入っているのは、茹ですぎてブヨブヨになったパスタ。
まわりでガチガチに固まっているけど、これはれっきとしたタマゴ。
そう、カルボナーラなんだ、いやカルボナーラだった、というべきか。
我ながらホントにまずいわ。
パパ、こんな私の手料理、いつもよく食べてるなあ。
まったく、尊敬するよ。
ごちそうさま。
私の自慢は、どんなにひどい料理でも食べ物を絶対に残さないこと。
ママにいつも言われてたもん。
さあてと。
うちの学校ってスマホは禁止なんだけど、腕時計までは止められてないのよね。
今日も残った休み時間で、X(旧Twitter)のハッシュタグを見る。
どんなハッシュタグかって?
ちっちっちっ。
知ったらいま番組聴いているあなたにも危険が及ぶのよ。
絶対に言えないけど、実はこのハッシュタグでリアルタイムの犯罪状況がわかるんだ。
お、今夜41号で暴走族の集会がある?こんな真冬によくやるわ。
よし、今夜の獲物はこいつらだな、決まり。
■シーン3/深夜の高山市内(国道41号あたり)
■SE/国道を走る暴走族
高山市街の西側を南北に走る国道41号。
そこへ爆音を響かせて暴走族がやってくる。
情報によると構成メンバーは15人。
前を走るバイク3台、背後のクルマ4台は情報通りだ。
国道158号と交差する小糸坂のあたり。
自動車ディーラーの影に私は身を隠す。
フルフェイスの特殊なゴーグルとデジタル迷彩服。
私の姿は奴らからは確認できないだろう。
彼らはなんの疑いもなく、交差点に入ってくる。
次の瞬間、タイヤが破裂する音とともに、バイクが次々と転倒していく。
クルマはバーストでコントロールを失い、電柱に突っ込んだ。
やった。直前にばらまいた撒菱(まきびし)が効いたな。
私はゆっくりと深夜の交差点を歩いていく。
撒菱を拾い集めながら、残った構成員たちをチタン製のトンファーで打ちのめしていく。
え?
トンファーって知らない?
超頑丈な特殊警棒だよ。
ほら、るろうに剣心で柏崎が使ってたやつ。
わかんないか。
私を見て最初は驚いたが、まだ元気なやつはすぐに襲いかかってきた。
私は軽く身をかわして、トンファーで脛を思いっきり殴打する。
あっという間にみんな倒れていき、立っている人影はいなくなった。
まあ、生きているだけ感謝するんだな。
転がったクルマたちの前に手際よく三角表示板を置いて、二次災害を防ぐ。
倒れているリーダー格の男のポケットからスマホをとりだす。
ゴーグルのスイッチを入れ、男の声に変声して警察に通報した。
はい、これで、今日の街の美化活動は終了。
あー、疲れた。ちょい眠い。
■シーン4/明け方の自宅
■SE/遠くから朝の小鳥のさえずり
「パパ、おはよう」
パパの電動ベッドを起こして、食事を運ぶ。
「今日もまずいよ。無理して食べないでね」
私は焦げた目玉焼きをパパの口に運ぶ。
パパは笑顔で美味しそうに咀嚼する。
8歳のとき、私は交通事故に遭った。
私をかばったママは亡くなり、パパが半身不随となった。
パパは元自衛官。
事故に遭うまでは高山市内でジムを経営するトレーナーだった。
小学校へ入る前からパパに鍛えられた私は、
事故のあと、血の滲むような自己鍛錬で鋼(はがね)の肉体を作った。
学校は工業高校へ進み、AR内臓のゴーグルとデジタル迷彩服を密かに開発した。
デジタル迷彩は雪の高山に合うよう白色を多めにデザイン。
耐熱性と対赤外線ステルス性に優れた私のオリジナルだ。
パパとママをはねた犯人はまだつかまっていない。
わかっているのは、乗り捨てられたクルマが宝石店強盗に使われたものだということ。
だが、私は覚えている。
私たちをはね、慌てて逃げていくミニバンの助手席。
事故のとき若い男の額に刻まれた大きな傷。
マスクで表情がわからない分、額から流れる血の跡を私は忘れない。
いつか必ず、私のこの手で、犯人を地獄へ送ってやる。
その日まで私は、犯罪狩りを続けていく。
「んじゃパパ、学校行ってくるね」
掃除・洗濯・後片付け。
家事全般をこなして私は家を出た。
■シーン5/学校の教室(朝の始業時間)
■SE/学校のチャイム〜教室のガヤ
その日、私のクラスに新しい担任がやってきた。
彼は、車椅子に乗っている。
自己紹介をしたあと、授業に入った。
退屈な座学の授業。
耳で先生の声を聴きながら、頭の中で昨夜の美化活動を反芻する。
撒菱の数、多すぎたか?
ちゃんと時間内に片付けられるよう、計算したつもりだったけどなあ。
一時限目の授業が終わると担任は感染予防で窓を開けるよう指示した。
震えながら窓をあける生徒たち。
一瞬、担任の前髪が風で浮く。
そこには、稲妻のような傷跡が見え隠れしていた。
え?
気がつくと、担任は私の顔を鬼の形相で睨みつけている。
すぐに表情を戻し、車椅子をこいで私の机までやってくると、
「放課後、残ってくれる?」とドスのきいた声で小さく呟く。
よかった。ほかの子たちには聞かれてないみたい。
■シーン6/学校の教室(終業後)
■SE/夕方のイメージ(カラスの声など)
「高山は真冬だと部活もないのかな」
「生徒も先生方もみんな帰ったみたいだ」
静かな教室で、窓の外を見ながら担任がつぶやく。
生徒たちはみな下校して、教室には私と担任の2人だけ。
粉雪が校庭を白く染めていく。
担任は車椅子から手を伸ばして一番前の窓をあける。
一階にある教室に、校庭に積もった雪が運ばれてきた。
■SE/窓をあける音〜流れ込んでくる雪と風の音
「高山は10年ぶりなんだ」
その言葉は、私を10年前に呼び戻す。
「あの日も、こんな雪が降っていたな」
「だからスリップしたんだ」
「お父さんは元気かい?」
「きさま!」
その言葉がトリガーとなり、私の心に火がついた。授業の合間に自宅から持ってきたトンファーをとりだす。
だが、彼はにやりと笑って、懐から銃を取り出した。
「最近、高山が物騒になっていると聞いたからな。護身用だよ」
「犯罪者にとってだろ」
私は冷静に状況を分析する。
急所を撃たせないようにすれば、やつの首にトンファーを打ち込める。
「急所をはずして相打ちにするつもりだろ」
「無駄だ。銃の腕は百発百中なんだ」
「ちゃんと心臓を貫いてあげるよ」
「やってみないとわからない」
「言葉のトーンが高くなったぞ」
担任の指がトリガーにかかった。
■SE/サイレンサーの銃声
私は目を閉じ、自分の胸に手をあてる。
え?
血は流れていない。
その代わり、目の前の車椅子の上で担任が血を流しうなだれている。
振り返ると・・・
「パパ!」
教室の入口で車椅子に乗ったパパがサイレンサーをかまえていた。
「私が元自衛官だって忘れてただろ」
「いつだって、パパはエミリの味方だよ」
「さあ早く、誰かくる前に家に帰りなさい」
「帰らない」
「一緒に帰る」
私はパパの車椅子を押して教室を出る。
雪が私たちの穢れを真っ白に染めていった。
『最強のワタシ』は、雪深い高山市を舞台に、ある少女の生き様を描いたアクション・サスペンスです。
主人公・エミリは、幼い頃の事故で母を亡くし、父は半身不随に。
そんな過去を抱えながらも、彼女はひとりで鍛錬を重ね、やがて“犯罪狩り”を始めることになります。
デジタル迷彩服に身を包み、最新技術を駆使して夜の街を駆ける彼女の目的はただひとつ──
10年前の事故の真相を暴き、仇を討つこと。
しかし、そんな彼女の前に、ある男が現れます。
新しい担任教師として現れたその男は、かつて彼女を襲った犯人なのか?
果たしてエミリは復讐を遂げることができるのか?
この物語は、復讐と家族愛、そして“最強”であることの意味を問いかける物語です。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
そしてこの物語は、Podcast番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトやSpotify、Amazon、Appleなどの各種プラットフォームでも音声で楽しめます。
小説と音声、両方の世界で『最強のワタシ』を体験してみてください!(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
■シーン1(エミリ=8歳)/救急車の車内
■SE/救急車の車内音〜サイレンの音
「パパ!ママ!」
「エミリ、よく聞いて。
これからパパのこと、お願いね。
頼んだわよ、エミリ」
「ママは!?いやだー!ママ!いやー!いかないで!」
■シーン2(エミリ=18歳)/学校の教室(お昼の休み時間)
■SE/学校のチャイム〜教室のガヤ
「ちょっと見て、あの子。また、隠れてお弁当食べてる」
「きっとゲテモノなんじゃない」(クスクスと笑い声)
クラスのみんなが小さな声で、私のことを話してる。
だってしょうがないじゃん。
私、ただでさえ陰キャなのに、料理のセンスがゼロ、というよりマイナスだから・・・
お弁当箱に入っているのは、茹ですぎてブヨブヨになったパスタ。
まわりでガチガチに固まっているけど、これはれっきとしたタマゴ。
そう、カルボナーラなんだ、いやカルボナーラだった、というべきか。
我ながらホントにまずいわ。
パパ、こんな私の手料理、いつもよく食べてるなあ。
まったく、尊敬するよ。
ごちそうさま。
私の自慢は、どんなにひどい料理でも食べ物を絶対に残さないこと。
ママにいつも言われてたもん。
さあてと。
うちの学校ってスマホは禁止なんだけど、腕時計までは止められてないのよね。
今日も残った休み時間で、X(旧Twitter)のハッシュタグを見る。
どんなハッシュタグかって?
ちっちっちっ。
知ったらいま番組聴いているあなたにも危険が及ぶのよ。
絶対に言えないけど、実はこのハッシュタグでリアルタイムの犯罪状況がわかるんだ。
お、今夜41号で暴走族の集会がある?こんな真冬によくやるわ。
よし、今夜の獲物はこいつらだな、決まり。
■シーン3/深夜の高山市内(国道41号あたり)
■SE/国道を走る暴走族
高山市街の西側を南北に走る国道41号。
そこへ爆音を響かせて暴走族がやってくる。
情報によると構成メンバーは15人。
前を走るバイク3台、背後のクルマ4台は情報通りだ。
国道158号と交差する小糸坂のあたり。
自動車ディーラーの影に私は身を隠す。
フルフェイスの特殊なゴーグルとデジタル迷彩服。
私の姿は奴らからは確認できないだろう。
彼らはなんの疑いもなく、交差点に入ってくる。
次の瞬間、タイヤが破裂する音とともに、バイクが次々と転倒していく。
クルマはバーストでコントロールを失い、電柱に突っ込んだ。
やった。直前にばらまいた撒菱(まきびし)が効いたな。
私はゆっくりと深夜の交差点を歩いていく。
撒菱を拾い集めながら、残った構成員たちをチタン製のトンファーで打ちのめしていく。
え?
トンファーって知らない?
超頑丈な特殊警棒だよ。
ほら、るろうに剣心で柏崎が使ってたやつ。
わかんないか。
私を見て最初は驚いたが、まだ元気なやつはすぐに襲いかかってきた。
私は軽く身をかわして、トンファーで脛を思いっきり殴打する。
あっという間にみんな倒れていき、立っている人影はいなくなった。
まあ、生きているだけ感謝するんだな。
転がったクルマたちの前に手際よく三角表示板を置いて、二次災害を防ぐ。
倒れているリーダー格の男のポケットからスマホをとりだす。
ゴーグルのスイッチを入れ、男の声に変声して警察に通報した。
はい、これで、今日の街の美化活動は終了。
あー、疲れた。ちょい眠い。
■シーン4/明け方の自宅
■SE/遠くから朝の小鳥のさえずり
「パパ、おはよう」
パパの電動ベッドを起こして、食事を運ぶ。
「今日もまずいよ。無理して食べないでね」
私は焦げた目玉焼きをパパの口に運ぶ。
パパは笑顔で美味しそうに咀嚼する。
8歳のとき、私は交通事故に遭った。
私をかばったママは亡くなり、パパが半身不随となった。
パパは元自衛官。
事故に遭うまでは高山市内でジムを経営するトレーナーだった。
小学校へ入る前からパパに鍛えられた私は、
事故のあと、血の滲むような自己鍛錬で鋼(はがね)の肉体を作った。
学校は工業高校へ進み、AR内臓のゴーグルとデジタル迷彩服を密かに開発した。
デジタル迷彩は雪の高山に合うよう白色を多めにデザイン。
耐熱性と対赤外線ステルス性に優れた私のオリジナルだ。
パパとママをはねた犯人はまだつかまっていない。
わかっているのは、乗り捨てられたクルマが宝石店強盗に使われたものだということ。
だが、私は覚えている。
私たちをはね、慌てて逃げていくミニバンの助手席。
事故のとき若い男の額に刻まれた大きな傷。
マスクで表情がわからない分、額から流れる血の跡を私は忘れない。
いつか必ず、私のこの手で、犯人を地獄へ送ってやる。
その日まで私は、犯罪狩りを続けていく。
「んじゃパパ、学校行ってくるね」
掃除・洗濯・後片付け。
家事全般をこなして私は家を出た。
■シーン5/学校の教室(朝の始業時間)
■SE/学校のチャイム〜教室のガヤ
その日、私のクラスに新しい担任がやってきた。
彼は、車椅子に乗っている。
自己紹介をしたあと、授業に入った。
退屈な座学の授業。
耳で先生の声を聴きながら、頭の中で昨夜の美化活動を反芻する。
撒菱の数、多すぎたか?
ちゃんと時間内に片付けられるよう、計算したつもりだったけどなあ。
一時限目の授業が終わると担任は感染予防で窓を開けるよう指示した。
震えながら窓をあける生徒たち。
一瞬、担任の前髪が風で浮く。
そこには、稲妻のような傷跡が見え隠れしていた。
え?
気がつくと、担任は私の顔を鬼の形相で睨みつけている。
すぐに表情を戻し、車椅子をこいで私の机までやってくると、
「放課後、残ってくれる?」とドスのきいた声で小さく呟く。
よかった。ほかの子たちには聞かれてないみたい。
■シーン6/学校の教室(終業後)
■SE/夕方のイメージ(カラスの声など)
「高山は真冬だと部活もないのかな」
「生徒も先生方もみんな帰ったみたいだ」
静かな教室で、窓の外を見ながら担任がつぶやく。
生徒たちはみな下校して、教室には私と担任の2人だけ。
粉雪が校庭を白く染めていく。
担任は車椅子から手を伸ばして一番前の窓をあける。
一階にある教室に、校庭に積もった雪が運ばれてきた。
■SE/窓をあける音〜流れ込んでくる雪と風の音
「高山は10年ぶりなんだ」
その言葉は、私を10年前に呼び戻す。
「あの日も、こんな雪が降っていたな」
「だからスリップしたんだ」
「お父さんは元気かい?」
「きさま!」
その言葉がトリガーとなり、私の心に火がついた。授業の合間に自宅から持ってきたトンファーをとりだす。
だが、彼はにやりと笑って、懐から銃を取り出した。
「最近、高山が物騒になっていると聞いたからな。護身用だよ」
「犯罪者にとってだろ」
私は冷静に状況を分析する。
急所を撃たせないようにすれば、やつの首にトンファーを打ち込める。
「急所をはずして相打ちにするつもりだろ」
「無駄だ。銃の腕は百発百中なんだ」
「ちゃんと心臓を貫いてあげるよ」
「やってみないとわからない」
「言葉のトーンが高くなったぞ」
担任の指がトリガーにかかった。
■SE/サイレンサーの銃声
私は目を閉じ、自分の胸に手をあてる。
え?
血は流れていない。
その代わり、目の前の車椅子の上で担任が血を流しうなだれている。
振り返ると・・・
「パパ!」
教室の入口で車椅子に乗ったパパがサイレンサーをかまえていた。
「私が元自衛官だって忘れてただろ」
「いつだって、パパはエミリの味方だよ」
「さあ早く、誰かくる前に家に帰りなさい」
「帰らない」
「一緒に帰る」
私はパパの車椅子を押して教室を出る。
雪が私たちの穢れを真っ白に染めていった。