
Sign up to save your podcasts
Or
【一枚の写真に宿る物語】#03「風に揺られ、光と話す葉っぱ」この日はバスツアーで訪れた観光地の1つ、富士山と忠霊塔で有名な景勝地での物語。自由時間はわずか70分。行きと帰りの20分を引けば撮影できる時間はたったの50分。どこを見ても人、人、人。カメラを構える人お土産を探す人ソフトクリームを頬張る人僕もなんとなく富士山と忠霊塔が見える展望台へ長い階段を歩いていた。観光客の流れは途えることを知らない。とても騒がしく、その騒がしさが景色を濁らせていた。そんな折、ふと風が通り抜け、木々の葉を優しく揺らす。その時だった。1枚の葉がふわりと光を受けてこちらに手を振るように揺れていた。それはまるで、もみじが「こっちに来て」と呼んでいるようにも見えた。僕は吸い寄せられるように木の下まで人混みを避け近づいていった。見上げると、透き通るような緑の葉たちが、空を背景にゆらゆらゆらゆら楽しそうに踊っているではないか。背後から光を受け、風と共に動くその姿に僕の胸の奥がふと緩んだ。僕の中に溜まっていた観光の疲れや、少しだけ気を使っていた心がすーっと消えていく。バスツアーは予定も時間もきっちり決まっている。自由があるようでどこか流されてしまうことも多い。でもこのもみじの葉っぱは全く流されずただそこににあった。揺れながら光と話しているようだ。僕はカメラを取り出して、踊る葉っぱがブレないように1枚だけシャッターを切った。その音に驚いたのか葉っぱが一際大きく揺れた。まるでそれは笑っているようにも見えた。集合時間が近づいてきて、バスに戻る道すがら、少しだけ足取りが軽くなっていたことに気づく。たった2、3分、されど2、3分。あの喧騒の中のもみじの葉っぱは、今でも心のどこかで光揺れている。風に揺られ光と話す葉っぱ。それはバスツアーで訪れた賑やかな場所の片隅にあった、奇跡のような出会いだった。
【一枚の写真に宿る物語】#03「風に揺られ、光と話す葉っぱ」この日はバスツアーで訪れた観光地の1つ、富士山と忠霊塔で有名な景勝地での物語。自由時間はわずか70分。行きと帰りの20分を引けば撮影できる時間はたったの50分。どこを見ても人、人、人。カメラを構える人お土産を探す人ソフトクリームを頬張る人僕もなんとなく富士山と忠霊塔が見える展望台へ長い階段を歩いていた。観光客の流れは途えることを知らない。とても騒がしく、その騒がしさが景色を濁らせていた。そんな折、ふと風が通り抜け、木々の葉を優しく揺らす。その時だった。1枚の葉がふわりと光を受けてこちらに手を振るように揺れていた。それはまるで、もみじが「こっちに来て」と呼んでいるようにも見えた。僕は吸い寄せられるように木の下まで人混みを避け近づいていった。見上げると、透き通るような緑の葉たちが、空を背景にゆらゆらゆらゆら楽しそうに踊っているではないか。背後から光を受け、風と共に動くその姿に僕の胸の奥がふと緩んだ。僕の中に溜まっていた観光の疲れや、少しだけ気を使っていた心がすーっと消えていく。バスツアーは予定も時間もきっちり決まっている。自由があるようでどこか流されてしまうことも多い。でもこのもみじの葉っぱは全く流されずただそこににあった。揺れながら光と話しているようだ。僕はカメラを取り出して、踊る葉っぱがブレないように1枚だけシャッターを切った。その音に驚いたのか葉っぱが一際大きく揺れた。まるでそれは笑っているようにも見えた。集合時間が近づいてきて、バスに戻る道すがら、少しだけ足取りが軽くなっていたことに気づく。たった2、3分、されど2、3分。あの喧騒の中のもみじの葉っぱは、今でも心のどこかで光揺れている。風に揺られ光と話す葉っぱ。それはバスツアーで訪れた賑やかな場所の片隅にあった、奇跡のような出会いだった。