「過労死」という言葉が相談窓口・海外報道・辞書・法律に記録されたことと、一人ひとりの病気と仕事の関係が確かめられたことは、同じではありません。
言葉が広まっても、それだけで原因が確定したり、対策が現場で実行されたりするわけではなく、問われているのは、その問いを誰が受け取り、次へどう受け渡すかです。
Season 1「働く人のからだは、誰のもの?」最終話(第3話)では、1988年に相談窓口(過労死110番)と海外報道(シカゴ・トリビューンの「Karoshi」)に別々に現れた「過労死」という言葉、弁護団・家族の会から2014年の過労死等防止対策推進法までの国内の歩み、そしてオックスフォード英語辞典(OED)に残った英語用例までをたどります。
過度な一般化はしません。
ここでたどる出来事は、原因と結果を一本の筋道に決めつけるためのものでも、社会が一直線に進歩したという話でもありません。
資料で確認できることと区別して、いまの職場・自分ごとへの置き換えを、佐藤将人の産業医としての見立てとしてお話しします。
■ この回で扱うこと
・「過労死」という言葉が広まったことは、一人ひとりの病気と仕事の関係が確かめられたことと同じか?
・1988年に相談窓口(110番)と海外報道(Karoshi)に別々に現れた言葉は、どちらかがもう一方を直接生んだのか?
・過労死110番に約1年で寄せられた約1000件の相談は、約1000件分の「仕事が原因」の確認を意味するのか?
・相談から弁護団・家族の会・2014年の法律へは、一直線に進んだのか?
・法律ができれば過労死は防げるのか──法律が置いたもの
・置かなかったものは何か?
・いまの職場で、病気と仕事の関係や働き方の調整は、誰がどこへ相談できるのか?
■ チャプター
00:00 1988年、相談と報道に別々に現れた「過労死」──110番とKaroshi
01:02 どちらかが直接もう一方を生んだのか──国内と国外の経路を分ける
01:30 産業医・佐藤将人/今日は2つの経路を混ぜずにたどる
02:05 第1話・第2話からの接続──今回は「誰が受け取るか」
02:43 シリーズの問いと、史実・資料・見立ての区別
03:19 1988年11月 シカゴ・トリビューンの記事──工場労働者と家族の事例
04:08 記事をどう読むか──「企業戦士」の比喩と強い言い切りへの注意
04:44 見立て──言葉が国境を越えるとき、伝わるもの・単純化されるもの
05:16 1988年6月 過労死110番──約1年で寄せられた約1000件
05:37 相談件数は因果の確認ではない──記録は別々の場所に残る
06:04 なぜ「入り口」になったか──川人博の後年の回顧という限定
06:48 弁護団と家族の会の結成(1988〜1991年)と綱領
07:23 相談から団体・制度へ──一直線ではない歩み
07:46 2011年 実行委員会と、55万人を超える署名・143議会の意見書
08:09 署名だけでは成立しない──役割の違う人たちの受け取り直し
08:36 2014年5月23日 衆議院厚生労働委員会──6会派案の提出と撤回
09:13 寺西笑子参考人の意見──遺族の言葉が公式記録に残る
09:47 過労死等防止対策推進法案の提出──条文の違いは記事で整理
10:04 衆参で全会一致可決──ひとりの英雄の物語ではない
10:26 2014年6月成立──法律が置いた枠組みと、置かなかったこと
10:55 過労死等防止対策推進協議会──当事者・遺族が検討する側へ
11:32 オックスフォード英語辞典(OED)と1988年の記事──最も早い英語用例
12:14 OED掲載が意味しないこと──「過労死」という一語が運んだもの
13:15 短い言葉にまとめると落ちやすいもの──広がりと理解は別
13:58 3話の見立て──広がった「場所」「時間」「受け取る人」
14:29 一直線の進歩ではない──見落としを「なかったこと」にしない
15:22 いまの職場での相談先──問いの種類で変わる窓口
16:07 管理職へ──「まだ働けます」の一言に判断を預けない
16:34 気づく人・受け取る人・見直す人──次へ受け渡す仕組みと連動記事の予告
17:17 価値判断──「会社のもの」でも「あなただけのもの」でもなく
17:39 労働契約法の安全配慮義務──所有者を決める条文ではない
18:16 最初と同じ問いをもう一度──あなたの体は誰のものか
■ 動画内の用語について
・「企業戦士」など、1988年のシカゴ・トリビューンの記事に見られる軍事的な比喩や、勤務時間・医学的説明の細部は、当時の記事の内容です。
現在の説明としてそのまま使えない強い言い切りを含みます。本編では記事本文をそのまま読み上げず、公開ページで確認できた範囲を佐藤将人の言葉で要約しています。
・法律名は「過労死等防止対策推進法」です。「過労死等」には、脳・心臓疾患だけでなく、精神障害による自殺なども含まれます(第2話で扱った脳・心臓疾患より広い範囲です)。精神障害には脳・心臓疾患とは別の労災認定基準があります。
・「過労死」という言葉は、上畑鉄之丞らによって先駆的に使われ始めた経緯があり、1988年はこの言葉が広く使われるようになる一つの節目です。
言葉の初出や命名者を確定するものではありません。
■ 主な参考資料過労死等防止対策推進法・過労死等防止対策推進協議会(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04739.html
karoshi, n.(Oxford English Dictionary。最も早い英語用例として1988年11月13日 Chicago Tribune「Japanese Live and Die for Their Work」を記載)
https://www.oed.com/dictionary/karoshi_n
過労死110番全国ネットワーク/過労死弁護団全国連絡会議
https://karoshi.jp/
川人博「過労死と法社会学」(法社会学 2005年、J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsl1951/2005/62/2005_62_134/_pdf/-char/ja
国会会議録検索システム(第186回国会 衆議院厚生労働委員会 2014年5月23日)
https://kokkai.ndl.go.jp/
■ 相談先からだの不調について医療機関を探す医療情報ネット(ナビイ)
https://www.iryou.teikyouseido.mhlw.go.jp/znk-web/juminkanja/S2300/initialize
こころの不調や働くことの悩みこころの耳
https://kokoro.mhlw.go.jp/soudan/
労働時間や安全衛生など、働くルールについて相談する労働条件相談「ほっとライン」
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/lp/hotline/index.html
法令違反、事故、労災保険の請求などについて相談する労働基準行政の相談窓口
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kijyungaiyou/kijyungaiyou06.html
※各窓口の役割は異なります。医療機関による診断や治療と、労働関係の相談や行政対応を同じものとして扱っていません。
■ ご注意
この動画は一般的な情報提供を目的としています。個別の診断や治療、働き続けてよいかどうか、法的判断に代わるものではありません。
個別の健康相談について、YouTubeコメント欄では回答していません。
■ 出演・監修
佐藤将人(合同会社SUGAR代表、産業医)
医師・博士(医学)、
労働衛生コンサルタント(保健衛生)、
臨床心理士、中小企業診断士
プロフィール
https://sugarllc.co.jp/staff/masato_sato/
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