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Ep.649 DeepMind×CFS──AIが“点火”へ導くトカマク運転(2025年10月23日配信)


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発表は2025年10月16日、Google DeepMindの公式ブログです。DeepMindはCFSとの研究パートナーシップを明らかにし、実証機SPARCの立ち上げ前からAIで“運転の最適解”を探り、商用化までの時間を縮めると述べました。焦点は三つ──①高速・高精度・微分可能なプラズマシミュレーションの整備、②融合出力を最大化するための運転経路探索、③リアルタイム制御のための新戦略発見、です。


具体的には、JAXで書かれたシミュレータTORAXをコアに据え、SPARCの“仮想実験”を先行実施します。加熱・燃料入射・コイル電流など無数の“つまみ”をAIが組み合わせ、制限内で最大の融合エネルギーを得る運転シナリオを抽出。RLや進化探索(AlphaEvolve)を併用して、数百万通りのパルスを机上で評価し、据付初日から成功確率の高い運転に近づける狙いです。


TORAXは“微分可能”であることが要です。勾配を計算できるため、感度解析や制御器設計をスムーズに回せ、CPU/GPUで軽快に走る設計。CFSの現場ワークフローに組み込まれ、運転計画の検討時間を大幅に節約していると紹介されています。


リアルタイム制御では、DeepMindがEPFLと示した“AIでプラズマ形状を保つ”成果を踏まえ、SPARC特有の課題である熱負荷管理まで同時最適化に踏み込みます。満出力運転時、壁面に集中する排気熱を磁場で掃引して分散するなど、複数制約を同時に満たす高度な運転をAIが学び、従来制御の自動チューニングにも活かす計画です。


CFS側のロードマップでは、SPARCはマサチューセッツ州デベンズで建設が進み、世界初の“商業的に意味のあるスケール”でのネットエネルギー獲得を2027年に掲げています。SPARCで得た技術は商用機ARCに引き継がれ、ARCはバージニア州チェスターフィールド郡で早ければ2030年代初頭の系統連系を狙う構想です。


資金と需要の裏打ちも動いています。Googleは6月、CFSの初号商用炉ARCから200MWの電力を購入するPPAに合意し、追加投資も発表。民間テックが“自社のクリーン電力需要”を梃に、融合の市場性を先回りでつくる構図で、AI時代の電力インフラと核融合の“相互依存”が色濃く見えてきました。


もちろん、融合の商用化は一足飛びではありません。CFS自身もSPARCの達成とARCの立ち上げに多くの科学・工学的ハードルが残ると認める一方、今回の提携には業界メディアも注目し、AIが“エネルギーを消費する側”から“エネルギーを生み出す側を助ける”役回りへ拡張している点を評価しています。


要するに、DeepMind×CFSは“AIで運転と制御の地図を先に描く”アプローチです。GPUクラスタで回すRLと微分可能シミュレータが、装置据付前から運転の当たりを付け、実機では学習済みの制御を即投入する。半導体とAIの強みが、エネルギーという“重い産業”の時間軸を前倒しする象徴的な実験と言えるでしょう。

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名古屋ではたらく社長のITニュースポッドキャストBy ikuo suzuki