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Ep.660 Google「Quantum Echoes」──Willowが示した“検証可能な量子アドバンテージ”(2025年10月30日配信)


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2025年10月22日、Google Quantum AIが「Quantum Echoes」と名付けたアルゴリズムで“検証可能な量子アドバンテージ”を達成したと発表しました。実験は量子チップ「Willow」で行われ、Nature誌に同日公開。量子エコーの測定が、最速級スパコンの最良アルゴリズムより最大13,000倍高速に動作したと説明しています。単なるランダム出力ではなく、別の量子機でも再現可能な“期待値”を答えとする点が今回の肝で、実用問題に近い形で量子の優位性を示した、と位置づけています。


Quantum Echoesは、量子状態を前進(U)させ、途中で一点だけ摂動を与えてから逆進(U†)させる“時間反転の往復運動”を重ね、戻ってくる信号=エコーを拾うという発想です。量子波の“建設的干渉”で信号が増幅されるため、高エントロピーなカオス状態でも有用な情報を引き出せるのが特徴。Nature論文は、この干渉が古典計算では扱いづらい複雑性を生み、しかも分子や磁性体、さらにはブラックホール物理のような系でも役に立つ可能性を示す、と述べています。


ハードウェア面では、Willowの105量子ビット配列全体で、1量子ビットゲート99.97%、2量子ビットゲート99.88%、読み出し99.5%といった高い忠実度・高速動作が報告されました。今回のベンチマークでは回路により65量子ビットなどのサブセットを使い、Frontier級のスパコンで1点あたり数年かかると見積もられる計算を、量子側が現実的時間でこなしたと説明しています。


応用の端緒も示されました。Berkeleyとの共同で、NMRデータとQuantum Echoesを組み合わせた“分子のものさし”の概念実証を報告。15原子分子と28原子分子で、従来のNMRでは得にくい距離情報を引き出せたとし、創薬や新素材探索での活用に道筋をつけたと述べています。


この成果は一夜にして生まれたわけではありません。Willowは2024年に“誤り率をスケールとともに指数関数的に抑える”という長年の壁(いわゆる“しきい値”問題)を突破したと報告され、表面符号の論理メモリで誤り抑圧を実験的に示しました。今回の“検証可能な量子アドバンテージ”は、その延長線上にある“精度×規模”の両立がもたらしたものです。


一方で、外部メディアは現実的な評価も付しています。今回のアルゴリズムは特定タスクでの優位であり、汎用の誤り耐性量子機に至るにはハード・ソフト双方で道のりが残る、との指摘です。それでも“再現可能な形で”古典計算を上回った意義は大きく、量子が材料・ライフサイエンス・エネルギー分野の実問題へ踏み込む土台になり得ると報じられています。


Googleは今後の到達点として“Milestone 3=長寿命の論理量子ビット”を掲げています。論理ビットが安定に回る段階まで到達すれば、今回のような“検証可能”なタスクは、企業の材料設計や創薬探索に向けた実務ツールへと近づきます。量子が“見えない世界を測る望遠鏡”になる──そんな未来像が、今回のEchoesで一段と現実味を帯びてきたと言えそうです。

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名古屋ではたらく社長のITニュースポッドキャストBy ikuo suzuki