AMIとは?
アースロマッスルインヒビション(Arthrogenic Muscle Inhibition) 「関節原性筋抑制」の略。損傷した関節の周りにある、損傷していない筋肉の神経的な抑制のこと。例えば、膝の靭帯を損傷してしまった時に、治った後も膝を曲げたり伸ばしたりする運動をしたいのにチカラが入りにくくなってしまう現象。これはAMIによって起こる可能性があります。
* 関節を起源とする筋肉の抑制
* 急性外傷(ケガ)をした時に起こる二次的な現象で、傷害は関節で起こっていて筋肉そのものは無傷だったとしても、筋肉にチカラが入りにくくなる
* 目に見える形では「筋出力の低下」長期的には「筋委縮」を引き起こす可能性がある
AMIは機械受容器が引き起こす防御反射の一種だと考えられています。
防御反射は時にExcitatory(興奮性)で、時にInhibitory(抑制的)。つまり、過緊張を引き起こす場合もあれば、逆にチカラが入りにくくなる場合もありますが、AMIの場合はカラダを守る防御システムが抑制的に働いたと考えられます。
AMIを引き起こす要素
直接的な原因はまだ不明ですが、急性のケガの後に起こりやすいことが分かっています。そして急性のケガに関係するのは、炎症反応。これがAMIを引き起こす可能性が高いと考えられます。では、下記の炎症反応のうち、どれが一番AMIに関係していると考えられるでしょうか?
* 発熱
* 発赤
* 腫脹
* 疼痛
* 機能障害
結論は、特に「腫脹」が関係していると考えられています。
その理由を消去法で考えると、まず機能障害はAMIそのものなので除外。次に発赤と発熱ですが、これらはチカラが入りにくくなることと直接的には関係ないので除外。次に疼痛ですが、これは大いに関係しています。ただ疼痛の場合はチカラが入りにくくなることもあれば(抑制的に働くこともあれば)、過度にチカラが入ってしまう興奮性の反応が起こる場合もあります。AMIは抑制的に働く反応なので、疼痛も除外。
残ったのが腫脹。膝関節に生理食塩水を注入した実験で、健康な人に意図的に腫脹を作ると明らかに大腿四頭筋にチカラが入りにくくなったことが確認されています。このメカニズムは、腫脹が起こることで異物を検出するセンサーが刺激されて、その情報が神経を通じて脳に伝わり「修復が必要なトラブルが起こっている」と解釈された可能性が考えられます。脳としては問題が起こったところの修復を優先したいので、できるだけ負担をかけないようにあまり動かさないように抑制の信号を送る、ということです。
まとめると、AMIを引き起こす要素として最も関連性が高いと考えられるのは「腫脹」、すなわち腫れです。
AMIの問題点
効果を見込める運動量がこなせない
↓
筋力や機能が回復しない
↓
治療が行き詰まる
ということになる可能性があります。関節をケガすることで固定する。固定すると筋委縮が起こる。筋委縮が起こることで筋力が落ちる。筋力が落ちることで関節をケガしやすくなって、またケガをする。また固定して筋力が落ちて…という負の連鎖が起こる可能性があります。
さらに、AMIによって動きが悪くなったところをカバーするために、他の筋肉が頑張りすぎてしまって、悪い運動パターンを代償動作によって身につけてしまう可能性があります。そうなると、例えば膝をケガした方が後になって坐骨神経痛などを発症してしまうかもしれません。
AMIを治療し改善する方法
* 寒冷療法
* 運動療法
* TENS(テンズ=経皮的電気刺激療法)
これらが有効であるということが、2019年のスコーピングレビューや、2014年のシステマティックレビューで分かっています。
治療の基本的な考え方として、問題の根源である「関節」そのものと、反射が起きている「脊髄」、そして全ての反応に関係している「脳」、これらすべてにアプローチすることが重要。
具体的には、アイシングと運動療法を組み合わせたアプローチ。アイシングで関節を治療し、脊髄反射による抑制を解除した状態で、運動によって筋肉を起動させる。
* 20分、アイスバッグふたつをそれぞれ膝の前と後ろに固定して冷やす
* 治療効果(抑制が解除される効果)は少なくとも45分は持続するため、解除されている間に運動療法(リハビリ)を行なう
このようなアプローチが考えられます。
普通、運動前はカラダを温めるのが基本です。でもAMIの場合は、冷やすことで抑制を解除してから動かすというのが大きな違いです。
徒手療法(術者が患部を他動的に動かす施術)はどうかというと、直後に症状が改善することはあっても、効果の程度は小さく、60分後にはほぼ無くなることが分かっています。むしろ悪化したという結果もあるくらいなので、基本的には施術よりも運動療法を積極的に行なうほうが有効です。
寒冷療法(アイシング)は被験者が少ないもののすべての研究で大きな効果があり、運動療法もすべての研究で著しい効果が認められています。
---
stand.fmでは、この放送にいいね・コメント・レター送信ができます。
https://stand.fm/channels/64c02334d4e2cbde2663bb17