市場の風を読む

景気後退懸念が市場のワイルドカードに


Listen Later

米国株式市場は予想レンジを突破できるか?弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、刻々と変化するトランプ政権の関税政策およびFRBの不確実性が株価の重石となり続けるのかについて検証します。

このエピソードを英語で聴く。


トランスクリプト 


「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン, 今回のエピソードは、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、米国株式市場が5000-5500ポイントのレンジを突破するには何が必要かについて解説します。

このエピソードは4月21日 にニューヨークにて収録されたものです。

英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

先週は、アップサイドとダウンサイド両方の制約を踏まえ、S&P 500が目先、5000-5500のレンジに留まると見込む、弊社の見解を中心にお話しました。第1に、アップサイドについて弊社は、インデックスが従来のサポートである5500を超えるのは難しいと考えています。これは、最近、業績予想の下方修正が加速しており、関税交渉がどのように進展するか不透明なこと、関税その他の要因がインフレと経済成長に及ぼす影響がより明確化するまでFRBが静観すると見られるためです。

同時に、株式市場はこれらすべての逆風を、コンセンサスが認識しているよりもはるかに長い間、考慮してきたとも考えています。このポッドキャストで、繰り返し取り上げて来たように、ディフェンシブ株に対するシクリカル株の比率が何よりはっきりと裏付けています。実際、シクリカルとディフェンシブの比率は1年前にピークをつけ、現在は40%以上低下しています。

年初の時点で弊社は、上期の経済成長についてコンセンサス予想よりも懐疑的な見方でした。政策の順序を考慮すると、当初は大半が経済成長にとってマイナスになると予想されたため、コンセンサス予想は過度に楽観的と見られたためです。移民法の執行、DOGE(ドージ)および関税といった政策です。また、弊社業界担当アナリストの予想に基づき、前年との比較条件が最も厳しい今年上期を中心にAI向け設備投資の伸びは減速すると弊社は予想していました。1月のDeep Seek(ディープシーク)の発表によって、AI設備投資に関する投資家の懸念はさらに強まりました。経済全体の成長予想におけるAI向け設備投資の重要性を考慮すると、こうした動向は依然として投資家にとって重要な考慮事項となっています。

今回のお話の重要な点の1つとして、年初時点で経済成長に対して過度に楽観的な見方が多かったのと同じように、現在、投資家は特に銘柄レベルについて過度に悲観的になっている可能性があります。シクリカル株の下落が示唆するように、今回の調整は1年近く前から始まり、株価と時間の両面で十分に進行しています。現在、S&P 500は、我々の予想レンジの中間値に極めて近い水準で先週の取引を終えており、同指数は今後の進展に対する懸念から混乱している模様です。株式市場は現在ではなく6ヶ月後がどうなるかを織り込もうとするため、この先の動きが株価を左右します。

いかなる環境でも将来の道筋を予想することは極めて難しく、現在は恐らく通常よりも難しくなっているため、株価のボラティリティが高い理由も説明できます。幸い、現在の株価には景気減速のかなりの部分が織り込まれています。4ヵ月から5ヵ月前に多くが楽観していた規制緩和、金利低下、AIによる生産性向上、政府の効率改善といった要因が、今後のポジティブなカタリストの候補として残っている点は記憶にとどめておくべきでしょう。そして、市場はこれらが明確になる前に織り込むことができるのです。

 ただし、現在、リセッションのリスクは大きくなりました。これは異なる種類の減速で、株価指数には完全には織り込まれていないと弊社は見ています。したがって、このリスクが高まった状態が続く限り、中期的には経済成長や株価がコンセンサス予想を上回ると考えていても、短期的な見解とのバランスを維持する必要があります。このため、株価は引き続きレンジ内で推移すると我々は見ています。

さらに見通しに影を落としているのは、企業が直面する不確実性がコロナ禍の初期以降で最も大きいという事実です。その結果、リセッションの回避を想定すると、業績予想修正の広がりは稀に見る水準にあり、極端なダウンサイドに近付いています。業績予想修正が、S&P 500のピークよりかなり前の1年近く前にピークをつけた点を念頭に置くと、今回の調整はコンセンサス予想が認識しているよりもはるかに進展していると見る、我々の見解がさらに裏付けられます。これが、株価指数がまだ織り込んでいないとしても、既に緩やかなリセッションを織り込み済みの可能性がある銘柄やセクターに、我々が一段と注目している理由です。

 結論としては、景気後退が回避されたなら、2週間前に市場は底をつけたと見込まれます。そうでない場合は、S&P 500は これらの底を割り込むと見られます。弱気ケースのシナリオでは、4800を下回る水準に押し下げる可能性がある他の要因も想定しています。例を上げると、関税が引き起こすインフレを受けFRBが利上げする、またはタームプレミアムが急上昇し、経済成長の改善がない中で10年物米国債利回りが5%を超える、といった要因です。

それでも、現在の市場混乱の要因でもある景気後退の確率は、ワイルドカードと我々は考えています。このリスクが確認されるか、もしくは、最も重要な労働指標をはじめとするハードデータで否定されるまで、S&P 500で言えば5000-5500が妥当なレンジと我々は見ています。それまでは、よりクオリティが高い銘柄の選好を維持するのが良いでしょう。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

...more
View all episodesView all episodes
Download on the App Store

市場の風を読むBy Morgan Stanley