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東洋医学における夏バテ予防の最大のポイントは、「胃腸や内臓を冷やさないこと」です。
近年の猛暑をしのぐためには体を上手に冷やす工夫が不可欠ですが、冷たい飲食物で直接内臓を冷やすのではなく、食べ物が持つ「性質」を利用することが大切です。
例えば、緑茶やカニは体を冷やし、紅茶やエビは体を温める性質を持っています。中でもスイカは、体にこもった熱を冷まして潤いを与えるため「天然の白虎湯(漢方薬)」と呼ばれるほど夏に最適な食材です。ただし、冷蔵庫でキンキンに冷やして食べると胃腸が弱り、下痢や夏バテの原因になってしまいます。少し常温に戻してから食べ、さらに効能が高い「皮」の部分もスープや漬物にして活用するのが理想的です。
※白虎湯とは「熱冷まし」「喉の渇きを鎮める」「汗を止める」作用を目的とされた漢方処方で、3世紀からある中国でも最も古い医学書にも掲載されています。
冷たいもの(アイスなど)の摂りすぎによる過度な冷えは、食欲低下や生理痛の悪化など様々な不調を招きます。エアコンの効いた部屋では温かい飲み物を口にし、夜には薄着のパジャマでも良いのでお腹だけは「湯たんぽ」で温めるのがおすすめです。夏の隠れ冷え性が改善され、朝からしっかり食事が摂れるようになって好循環が生まれます。
また、スパイスを利用するのも効果的です。内臓の冷えを取り、発汗による体温調節や食欲増進を助けてくれます。ただし、過剰摂取は体に熱がこもったり秋口の空咳に繋がったりするため適量を心がけましょう。外仕事で疲れやすい方や夏バテを繰り返す方は、胃腸や心肺機能を高める漢方薬も上手に頼りながら、内臓をいたわる夏の過ごし方を意識してみてください。
厳しい暑さが続く夏。
夏バテせずに乗り切るための漢方養生法において、特に注意したいのが「塩分補給」と「食の組み合わせ」です。
夏は汗とともに水分だけでなく、塩分(ナトリウム)も失われます。健康のためにと過度な減塩を心がけるとナトリウム不足に陥り、だるさや疲労感、めまい、立ちくらみ、筋肉のけいれんなどを引き起こして夏バテや熱中症を悪化させる危険があります。
日本人は欧米に比べて塩分摂取量が多いとされますが、これには理由があります。日本は高温多湿で汗をかきやすい気候であることに加え、和食はカリウムを多く含む野菜中心の食事だからです。カリウムにはナトリウムを体外へ排出する働きがあるため、野菜をよく食べる(カリウムをよく摂る)方ほど、熱中症対策として適度な塩分補給が必要になります。
塩分摂取で重要なのは「塩の種類」にこだわることです。精製された食塩(塩化ナトリウム)の過剰摂取は、腎臓への負担や血圧上昇、むくみのリスクを伴います。一方、海塩や岩塩などの「自然塩」は異なります。
海水から取れる自然塩のミネラル構成比は人間の血液のミネラルバランスと類似していると言われています。自然塩にはマグネシウムやカリウムなどの必須成分がバランス良く含まれているため、体内成分のバランスを崩すことなく、安心して栄養を補給できます。
日常的な食事の工夫として、漢方や薬膳の「酸味と甘味を組み合わせる」という考え方がおすすめです。この組み合わせは、単に水を飲むよりも体内に水分を浸透させやすくし、汗で失われた体液をいち早く補う効果があります。
ここで言う「甘味」は砂糖ではなく、食材本来の甘味を指すのがポイントです。
おすすめのメニュー例:
豚肉の甘味とお酢を合わせた「酢豚」、甘味と酸味を併せ持つ「トマト」、「はちみつレモン」など
夏の不調を防ぐためには、良質な自然塩でミネラルを補い、「酸味×甘味」の食事を意識することが大切です。日々の食卓から、熱中症に強くバテない体づくりを始めましょう。
東洋医学の見地から夏バテを防ぐには、
・「胃腸機能を落とさないこと」と
・「体のなかの除湿を行うこと」
の2点が重要です。
夏バテは単なる暑さだけでなく、冷たい飲食物やエアコンによる「冷え」が引き金となるケースが多く見られます。
内臓機能が低下して自律神経が乱れると、食欲不振、だるさ、睡眠の質の低下といった悪循環に陥り、女性の場合は生理痛の悪化を招くこともあります。対策として、夏でもシャワーで済まさず湯船に浸かる、氷入りの飲み物を控える、夜は温かいものを飲むといった心がけが大切です。また、胃腸の働きを高めて温めるスパイスを料理に活用するのも効果的です。食事面ではさっぱりしたものに偏りがちなので、そうめんに温泉卵を加えるなどして意識的にタンパク質を補給し、自然塩や梅干しのお湯割りなどを活用してミネラル不足(熱中症リスク)を防ぎましょう。
もう一つの重要なポイントが「除湿」です。日本海側のように湿度が高い地域では、体の水分代謝が悪い「痰湿(たんしつ)」タイプの人が影響を受けやすくなります。このタイプは、雨の日や湿気が多いと頭痛やだるさ、眠気、胃腸の不調を起こしやすいのが特徴です。やせ型の人にも多く見られ、舌が腫れぼったく苔が分厚い傾向があります。対策として、基本的には温かいものを口にし、冬瓜やキュウリといったウリ科の野菜、ハト麦茶やあずき茶など、体内の余分な水を捌く食材を取り入れるのがおすすめです。
症状が強い場合や外仕事の方、いつも夏バテをするという方には、体の湿気を取り除いたり、胃腸や心肺機能を高めたりする専門の漢方薬を活用するのも一つの方法です。暑さをしのぐだけでなく、「内臓機能を元気に保つ」という視点を持つことが、夏を健やかに乗り切る最大の秘訣となります。
漢方薬は、自然界の植物や鉱物をただそのまま使うわけではありません。「修治(しゅうち)」と呼ばれる独自の加工技術(熱を加える、何かと混ぜるなど)を施すことで、薬効を高めたり、副作用を軽減したりして、より使いやすい薬へと変化させています。
最も身近な例が「生姜」です。風邪薬の葛根湯などに入っている生の生姜は、体表を温めて汗をかかせる働きがあります。一方、腸の手術後などによく処方される「大建中湯」には、蒸して乾燥させた?が使われています。生姜は蒸して乾燥させることで、成分がジンゲロールからショウガオールへと変化し、体表ではなく体の芯(お腹などの中心部)を温める作用へと変わるのです。そのため、冷え性で体の芯から温めたい場合は、一般的な生の生姜よりも、スパイスコーナーにある生姜パウダーやシナモンなどを活用する方が効果的です。
また、修治の技術は「毒を薬に変える」ことも可能です。頻尿や冷えの改善に用いられる「八味地黄丸」には、実は猛毒であるトリカブト(生薬名:附子)が含まれています。特殊な加工技術によって毒性を安全な成分へと変化させ、体を強力に温めて痛みを和らげる薬効を引き出しているのです。ただし、体を温める力が強いため、のぼせやすい体質や熱がこもりやすい人には逆効果になることもあります。
石川県の「フグの卵巣のぬか漬け」が猛毒を無毒化して美味しく食べる知恵であるように、漢方薬もまた、各生薬のクセを調整し、効果を最大限に引き出すための先人の知恵と技術の結晶です。だからこそ、病名だけで判断せず、専門家に相談して自分の体質に合った漢方薬を選ぶことが何よりも大切になります。
漢方薬は特別なものと思われがちですが、実は自然界の動植物や鉱物だけでなく、私たちが普段口にしている「スパイス」も数多く使われています。
シナモン(桂皮)やクローブ(丁子)、ターメリック(ウコン)、生姜など、カレーや七味唐辛子でおなじみのスパイスは、目的や配合を変えることで立派な漢方薬になります。スパイスの多くには、消化を助け、胃腸の働きを良くする「健胃作用」があります。ハンバーグにナツメグを入れるのも、臭み消しだけでなく消化を助けるためです。歴史的にもスパイスは防腐剤や薬として重宝され、中世では金と同等の価値を持ち、日本でも奈良時代に薬として正倉院に保管されていました。
また、漢方薬には「ゆっくり効く」というイメージがありますが、スパイスの効果を活かした即効性のある処方も存在します。
安中散(あんちゅうさん): 配合生薬のほとんどがスパイスで構成されており、冷えからくる急な胃の痛みに素早く効くため、常備薬として非常に便利です。
柿蔕湯(していとう): 生姜やクローブなどを配合しており、横隔膜の緊張を緩めることで「しゃっくり」を止める専門の漢方薬です。抗がん剤治療の副作用で止まらないしゃっくり対策として、現代の医療現場でも活用されています。
身近なスパイスの持つ力や漢方薬の得意分野を知り、病院の治療(西洋医学)と上手に組み合わせることで、日々の生活の質はさらに向上します。ただし、胃腸が荒れている方や炎症がある方のスパイスの過剰摂取には注意が必要です。
最近の研究で、豆をよく食べる人はうつ病の発症率が低いことが分かっています。
豆に含まれる食物繊維が腸内で発酵して「短鎖脂肪酸」を作り出し、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌を促すなど、メンタルの安定やストレス軽減に深く関わっているためです。海藻やキノコなどの水溶性食物繊維と一緒に、五目煮豆やサラダなどで日常的に摂り入れるのがおすすめです。
漢方薬でも豆は重宝されています。例えば「白扁豆(はくへんず)」という生薬は、胃腸を元気にして余分な湿気を取り除き、梅雨時や夏場のバテ、頭痛、体の重だるさを改善します。水分代謝が悪く体に水が溜まりやすいタイプには、利水作用のある小豆(あずき茶など)や、熱と水分を調節する緑豆(もやしや春雨)が適しています。
また、豆には冷めると増える「レジスタントスターチ(難消化性デンプン)」が豊富に含まれています。これは胃や小腸で消化されずに大腸まで届き、善玉菌のエサとなって腸内環境を劇的に改善します。お弁当などの冷めたご飯やポテトサラダなども同様の働きがあり、血糖値の上昇を抑え、便通を整えるメリットがあります。
ただし、豆は消化に時間がかかりガスが発生しやすいため、胃腸が弱い方や過敏性腸症候群の方は注意が必要です。豆腐や味噌などの加工品を選んだり、生姜やネギ、クミンなどのスパイスを組み合わせて胃腸を温め、消化を助ける工夫をすると良いでしょう。豆の力を日々の食卓に上手に取り入れ、心と体のバランスを整えましょう。
東洋医学では、エネルギー不足とエネルギーの停滞(気の滞り)は同時に起こることがあります。体力がなく疲れ切っているのに、気力だけで動いているような「全身過緊張状態」の人が現代には多く見られます。このタイプは、疲れているのに頭が休まらない、眠れない、元気がないのにイライラする、胃腸が弱いのにストレスで食べてしまうといった矛盾した状態に陥りがちです。まさに、高速回転して頭から煙が出ているような状態と言えます。
このような脳の疲労や過緊張を和らげるのに役立つのが、生薬(漢方薬の材料)である「人参」です。人参といえば滋養強壮の高麗人参や、血流を良くする田七人参が有名ですが、ストレスケアには「西洋人参」と「シベリア人参」が適しています。西洋人参には鎮静作用があり、体にこもった熱を取るため、頭がのぼせて眠れない時などに有効です。一方、シベリア人参は環境への適応能力を高める働きがあり、宇宙飛行士が過酷なストレス環境下で用いたことでも知られています。
漢方薬は、これらの生薬を複数組み合わせて作られます。緊張や動悸、イライラなど、症状や体質に合わせて専門家に選んでもらうことが大切です。しかし、漢方薬そのものに頼る前に、まずは漢方の考え方を知り、食事や生活習慣を見直す「養生」の視点を持つことが基本となります。
気力だけで無理をして体が壊れてしまう前に、自分の体質を知り、予防や調整の手段として漢方を上手く取り入れて、心身のバランスを整えていきましょう。
東洋医学では、体のエネルギー(気)は量が足りているだけでなく、全身をきれいに巡っていることが健康の条件だと考えます。ストレスや緊張によって体の調整システムが固まり、エネルギーの流れが滞ってしまった状態を「気滞(きたい)」と呼びます。
気が滞ると、自律神経の乱れから胃腸や食道の筋肉が緊張し、お腹の張り、胸のつかえ、喉の異物感、げっぷなどの症状が現れやすくなります。また、生理前に胸が張る、イライラするといった月経前症候群(PMS)もこの気滞が原因です。漢方薬には、こうした戦闘態勢になって過緊張状態の体をリラックスさせ、交感神経と副交感神経のバランスを整えたり、ホルモンバランスの乱れを同時にサポートしたりする優れた処方がいくつもあります。
この気滞になりやすいのは、真面目で責任感が強い人、気を遣い我慢しやすい人、デスクワーク中心で運動不足の人などです。気が上(頭部)に滞ることで、頭痛や不眠、肩こり、めまい、さらには就寝中の歯ぎしり(食いしばり)なども起こりやすくなります。
日々の対策として、下半身を動かす適度な運動で上に上がった気を下ろし、上下のバランスを取ることが大切です。また、食いしばり対策として耳周りや頭皮のマッサージを行い、あえて硬いものを噛んで脳の血流を促すのも効果的です。薬膳の視点からは、梅干しや酢の物などの「酸味」、皮の部分に薬効がある「柑橘類」、シソやセロリといった香りの強い「香味野菜」を毎日の食事に取り入れることで、気の巡りをスムーズにすることができます。
東洋医学は、「病気ではないが日常生活に支障が出る」といった慢性的な不調や未病のケアを非常に得意としています。特に日本人に多いのが、体のエネルギーが不足している「気虚(ききょ)」という体質です。
一口にエネルギー不足と言っても、弱っている臓器によって現れる症状は異なります。
例えば「肺」のエネルギーが不足する「肺気虚」では、息切れや浅い呼吸だけでなく、皮膚や粘膜のバリア機能が低下し、風邪を引きやすくなったり鼻血が出やすくなったりします。「心(心臓)」の力が落ちる
「心気虚」では、動悸や不安感、不眠などが現れます。また、「腎」が弱る「腎気虚」は、耳鳴り、夜間頻尿、物忘れといった老化現象や、子供の発育遅れとして表れます。なお、「肝(肝臓)」はエネルギーよりも血液量に左右されるため、血が不足することで筋肉のつりや目の疲れ、生理トラブルなどが引き起こされます。
東洋医学の優れた点は、「木ではなく森を診る」ように、臓器同士の繋がりを重視して総合的にアプローチすることです。例えば、風邪を引きやすい「肺」の弱りに対しては、親子関係にある「胃腸」の機能を高めることで、間接的に肺を強化し、免疫力を底上げするという手法をとります。一人ひとりの体質や症状に合わせて、細かく調整できるのが漢方の強みです。
気虚体質の人は、もともと持っているエネルギーが少ないため、体を冷やすことは厳禁です。下がった体温を戻すために貴重なエネルギーが消耗されてしまうため、なるべく体温以上のものを口にするなど、体を冷やさない生活習慣が何よりの養生となります。
東洋医学では、汗をかきすぎてぐったりする、のぼせやすく長風呂ができないといった症状を、エネルギー不足である「気虚(ききょ)」タイプの特徴と考えます。
適度な汗は体温調節やデトックスに有効ですが、気虚タイプの場合、発汗によって水分や電解質が失われ、体を冷やすためのエネルギーを過剰に消費することで「エネルギー切れ」を起こしてしまいます。このタイプはタンパク質不足で筋肉量が少ない傾向があり、毛穴を引き締める力も弱いため、少し動いただけで必要以上に汗が漏れ出てしまう「汗っかき」が多いのも特徴です。
東洋医学では体質を、汗をかいてスッキリする「実証」と、ぐったりしてしまう「虚証」に分けます。余分な水分が溜まっている実証の人は汗をかくことで体調が整いますが、虚証の人はこれからの暑い時期、過剰な発汗による夏バテに注意が必要です。
また、入浴も血圧変動や体温調節などで体力を大きく消耗する行為になります。自律神経の調整力やエネルギー代謝が低い気虚タイプが長風呂をすると、体がしんどくなってしまいます。熱すぎるお湯や空腹時を避け、半身浴を取り入れるなどの工夫が大切です。
検査で明らかな異常がないのに疲れやすい、虚弱体質でつらさが周囲に伝わりにくいといった不調の改善こそ、漢方が最も得意とする分野です。体質に合わせた漢方薬でエネルギーと血液を補うことで、疲れにくく、ゆっくりお風呂を楽しめる健やかな体へと変わっていきます。
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