『マジ文章かけないんだけど』から学ぶ文章レッスンシリーズの5回目。今回のテーマは「今日は「副詞の係り受け」という話をしたいと思います。
文章を書く際に、間違えやすいポイントなんです。係り受けというのは、文の中のある言葉が、他のどの言葉に「かかっている」か、そしてどの言葉が「受けている」か、その関係のことです。主語と述語の関係や修飾語と被修飾語の関係もそうです。今回取り上げるのは、副詞と述語の係り受け、です。
副詞は「とても」「すごく」「おそらく」「決して」……動詞や形容詞を修飾する品詞のことです。副詞は、実は使い方に決まりがあって、セットになる述語の形がある程度決まっているものがあります。
次の四つの文を見てください。
① その話は、全然楽しい。
② 必ずしもみんなが楽しめるイベントだ。
③ 彼の言うことは、まったくわかる。
④ 決して笑える話だ。
実はこの四つ、全部おかしいんです。でも気づきにくいのは、特に①の「全然楽しい」が日常会話でかなり浸透してきているからなんです。
ただ、「全然」「必ずしも」「まったく」「決して」、この四つは本来、否定の形で受けなければいけない副詞なんです。
つまり「〜ない」で受ける、ということです。正しくはこうなります。
① その話は、全然楽しめない。
② 必ずしもみんなが楽しめないイベントだ。
③ 彼の言うことは、まったくわからない。
④ 決して笑える話ではない。
この四つの副詞は、文法的に「否定形の述語とセットになる」という係り受けの規則を持っています。これを「否定形で受ける副詞」と言います。
会話の中では通じるし、最近はもう半ば定着してきていますけど、ビジネス文書や企画書に「全然大丈夫です」と書いたら、まず上司に直されます。
係り受けが決まっている副詞はもう一グループあります。今度は「推量・疑問の形で受ける副詞」です。次の五つの文を見てください。
① まさか、彼と付き合うことはない。
② おそらく、彼女にはカレシがいる。
③ いくらなんでも、これ以上面白いことがある。
④ もしかしたら、カギは家に忘れた。
⑤ もしや、この本は彼のものだ。
「もしや」はさすがに古風な言い方ですが、実は①〜⑤全部、述語の受け方がおかしいんです。
① まさか、彼と付き合うことはないだろう。
② おそらく、彼女にはカレシがいるに違いない。
③ いくらなんでも、これ以上面白いことがあるはずがない。
④ もしかしたら、カギは家に忘れたのかもしれない。
⑤ もしや、この本は彼のものではないだろうか。
整理するとこうなります。
まさか → 〜だろう
おそらく → 〜違いない
いくらなんでも → 〜はずがない
もしかしたら → 〜かもしれない
もしや → 〜ではないだろうか
この副詞たちは、推量の気持ちを含んだ述語——「だろう」「違いない」「かもしれない」——や、疑問の形で受ける必要があるんです。それを意識せずに、「おそらく〜だ」「まさか〜ない」で終わらせると、どこかチグハグな文になってしまう。
会話では、表情とか声のトーン、その場の雰囲気が補ってくれるから、言葉が多少ルールを外れていても意味が通じるんです。「全然楽しい」も、うれしそうな顔で言えば伝わる。
でも文章は書き手と読み手が時間も場所も共有していない。読み手は、書かれた言葉だけを頼りに意味を汲み取るしかない。だから、言葉の組み合わせ(係り受け)がしっかり合っていないと、読んでいる途中でつまずいてしまうんです。
一カ所の係り受けのズレで文章全体の信頼性が揺らいでしまうこともある。企画書とかビジネス文書では特にそう。「この人、文章が雑だな」という印象を与えてしまう。
次の文章、副詞に注目しながら読んでみてください。どこかおかしいところを探してみてください。
「おそらくこれが終電だと思い、急いで飛び乗った。しかし、行き先とは逆方向の電車に乗ってしまったらしい。酔っていたとはいえ、決して笑える話だ。もしかしたら反対方向の電車があるので、次の駅で降りることにした。すると降り際に、座っていたおじさんから『もしや、この傘はあなたのですね』と声をかけられたが、いくらなんでもそんな派手な柄の傘はもっているので『違います』と答え、ホームに降りた。まさかここまで運の悪いこともあると驚いたのだが、上り方向の電車は既に終了していた。こんなこともあるのだな、と全然笑えた。」
どうですか、わかりました?
「決して笑える話だ」は「決して笑える話ではない」です。
あと「全然笑えた」も……「全然笑えなかった」。
「おそらくこれが終電だと思い」……これは「おそらくこれが終電だろうと思い」。
「もしかしたら反対方向の電車があるので」は「もしかしたら反対方向の電車があるかもしれないので」です。
「もしや、この傘はあなたのですね」は?「もしや、この傘はあなたのではないですか」。
「いくらなんでもそんな派手な柄の傘はもっているので」は「いくらなんでもそんな派手な柄の傘はもっていないので」。
「まさかここまで運の悪いこともあると驚いた」は「まさかここまで運の悪いこともないだろうと驚いた」
——つまり「まさか〜ないだろう」というセットに整えるんですね。
副詞を変えると、文の意味そのものが変わってくる。だからこそ、副詞の係り受けは軽く見ちゃいけないのです。
今日のポイント
副詞には、セットになる述語の形が決まっているものが、大きく二つある。
ひとつ目は「否定形で受ける副詞」。「全然」「必ずしも」「まったく」「決して」、これらは「〜ない」という否定の形で受ける必要があります。
ふたつ目は「推量・疑問の形で受ける副詞」。「まさか」「おそらく」「いくらなんでも」「もしかしたら」「もしや」、これらはそれぞれ「だろう」「違いない」「はずがない」「かもしれない」「ではないだろうか」という形で受けます。
読み手と書き手が共通体験を持てない文章の世界では、言葉の組み合わせ(係り受け)が唯一の伝達手段です。副詞ひとつのズレが、読み手の「引っかかり」になってしまう。
文章力って、「難しい言葉を使う」ことじゃなくて、こういう地道な精度の積み重ねなんです。今日覚えた副詞のペアを、頭の片隅に置いておいてください。