市場の風を読む

米中貿易問題の緊張緩和後も残る市場リスク


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関税をめぐる米国と中国の緊張緩和を市場は好感しましたが、長期的にはどんな結果が生じうるのでしょうか。この点を深く理解するために、弊社のチーフ債券ストラテジスト、ヴィシー・ティルパターが今回の相場上昇を掘り下げます。

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トランスクリプト 


「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

チーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパター 本日はチーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパターが、米中で先ごろ合意された相互関税の90日間の一時停止のインパクトと、それが景気と市場にもたらす影響についてお話します。

このエピソードは5月19日 にニューヨークにて収録されたものです。

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5月12日の発表に対する市場の反応は非常に好意的でした。いわゆる「解放の日」を受けて4月に急落したS&P500指数は、今回の発表後の4営業日で4.5%上昇し、年初来のリターンもプラスに戻っています。

社債市場も上昇しました。投資適格債のスプレッドは10ベーシスポイント超、ハイイールド債のスプレッドは50ベーシスポイント超タイト化しています。米国債市場では2025年の利下げ幅の予想が50ベーシスポイント縮小し、市場が示唆する2026年末までの利下げ幅はおよそ100ベーシスポイントとなっています。

こうした市場の動きも重要ですが、本当に重要なのはこうした情報をつなぎ合わせて大局をつかみ、今回の貿易問題の緊張緩和が何を示唆しているかを解明することです。そしてそれ以上に重要なのは、何を示唆していないかを把握することです。

まずプラスの面としては、緊張緩和により、貿易の荷動きが急に止まったり失業率が急上昇したりするリスクが低下することが考えられます。これが「休戦」にすぎないことは明らかで、世界の2大経済大国間の関税率が最終的にどのような水準になるのかは正確には分かりませんが、125%や145%に近い水準にとどまる恐れはかなり遠のいたと考えてよさそうです。そのため総じて言えば、米国が景気後退に陥る可能性もこれを受けて低下しています。

念のため申し上げますが、2025年の景気後退入りは弊社の基本シナリオでありませんでした。しかし今回の緊張緩和により、経済成長率が若干上振れ、インフレ率が若干下振れ、そして失業率がおおむね現状維持となる方向にリスクがシフトしています。「解放の日」以前は上下どちらにも触れる可能性があり、確率が半々だったとすれば、現在もまだ上下いずれにも振れる可能性はあるものの、景気の縮小ではなく拡大方向に傾いている状況です。弊社はそもそも景気拡大を予想していましたので、今回の緊張緩和を受けて基本シナリオへの自信を深めています。米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を年内は据え置くという確信も強くなっています。

ただ、スイス・ジュネーブでの米中協議からはポジティブな印象が感じられるものの、90日間の相互関税停止で不確実性が払しょくされるとはとても言い切れないことを強調しておきたいと思います。貿易問題による緊張は高止まりする公算が大きいでしょう。トランプ政権はまだ医薬品、半導体、銅、およびその他の製品への関税を調査中です。米中間の交渉の方法が他の地域、特に欧州との交渉で機能するかどうかも定かではありません。それに、中国やそのほかの国々からの輸入品に米国がかける関税率がおおむね現在の水準に落ち着くことになるとしても、今年の初めに比べればおよそ 約4倍の高水準になるのです。

したがって、インフレ率は年末に向けて上昇を続け、第3四半期にピークを迎える公算が大きいでしょう。関税によるインフレ率の上昇幅は小さなものになりそうですが、上昇することには変わりありません。それに、景気後退は引き続き回避されるでしょうが、関税の引き上げは経済成長率を押し下げるでしょう。

リスク市場については、米中貿易問題の緊張緩和により、大規模な資金引き揚げのリスクは低下したと弊社ではみています。関税率が最終的にどのような水準になるかという政策の不確実性はまだ残っていますが、先月見られた市場の想定を大きく上回るボラティリティが貿易政策によって生じる展開には、恐らくもうならないでしょう。したがって当面は、4月の安値を再度うかがう展開になることはなさそうです。

クレジット市場については、特に現在のクレジットのファンダメンタルズの強さを考えれば、景気後退の可能性の低下は好材料となります。市場予想から2回の利下げが除外されたことで、クレジットのオールイン利回りは、保険会社など利回り重視の買い手の需要を維持できる範囲にとどまっています。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

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市場の風を読むBy Morgan Stanley