2023年7月9日 三位一体後第5主日
聖書:アモス書9:1−15、ローマの信徒への手紙12:9−21、ルカによる福音書14:7−14、詩編46篇
説教題:なぜアモスの言葉は受け継がれてきたのか?
説教者:稲葉基嗣
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【説教要旨】
預言者アモスは北王国の人びとにとって、特に北王国の指導者たちにとって不都合な言葉ばかり語りました。なぜこのようなアモスの言葉を人々は大切に受け止め、次の世代に残していこうと考えたのでしょうか。
それには北王国の人びとが置かれた状況が関係していました。アモスが北王国に語りかけてから、10年以内に北王国は衰退していきました。アモスの語った警告の意味が真実味を帯びてきました。北王国が紀元前722年にアッシリア帝国によって滅ぼされてしまったとき、預言者アモスが必死に自分たちに向かって語りかけてきたあの言葉は真実なものだったのだと確信したことでしょう。一部の人びとは南王国ユダへと亡命し、その地でアモスの言葉と向き合いました。北王国のように、弱い者を虐げ、神の言葉を聞かず、自分の都合の良いように神も人も扱うような社会を築くべきではないと、彼らはアモスの言葉を南王国の人びとへ伝えたのかもしれません。でも、南王国もまた、アモスの言葉を聞くことに失敗し、捕囚が訪れました。
捕囚からの帰還民はアモスの言葉を受け止め直し、11−15節を付け足しました。14節の言葉は、アモスが語り続けたふたつのことを逆転させています。ひとつは、「私は帰らせる」という言葉です。「帰る」という語(シューヴ)をアモスは何度も繰り返し使いました。いくら神が語りかけ、アモスを通してイスラエルの民に警告をしても、イスラエルの民は神のもとに帰ってこなかったと(4章)。でも、捕囚を終えた今、この現実を神はひっくり返してくださいました。
アモスの言葉を逆転させたもうひとつのことは、彼らは築き直した町に住むことができ、ぶどう畑をつくり、そこで収穫したぶどうを自分たちで味わう未来が訪れることです。アモスが批判した北王国の現実はこれらのことが出来ていませんでした(5:11)。14節で描かれていることは、それとは正反対のことです。自分たちで建てた家に住めるし、自分たちで育てたぶどうを味わうことができます。ここで紹介されているのは、搾取のない、誰も踏みにじられることがない未来です。
イスラエルの民は長い長い時間をかけて、アモスの言葉を受け止めていきました。アモスを通して、国のあり方を信仰共同体のあり方を強く批判されたから、彼らは一体、どんな共同体を築いていくべきなのかを考え続けました。それは、神に与えられた祝福を分かち合う共同体ともいえるでしょう。アモス書に映し出されるイスラエルの姿は、わたしたちにも問いかけています。天の御国に向かって歩んでいる、わたしたちは、一体どんな共同体を築いていくべきなのでしょうか。