🔶「ガザ全域制圧」発言に感じた強い違和感
5月19日、イスラエルのネタニヤフ首相は、パレスチナ自治区・ガザに対する軍事作戦について「全域の制圧を目指す」とビデオ演説で宣言しました。
これを受けて、元アナウンサーの宮脇利充さんは、こう語ります。
「そもそもこの作戦の目的は、ハマスの壊滅と人質の奪還だったはず。なのに、今ではその目的から逸脱して“パレスチナ人の大量虐殺”としか言えない現状が続いています」
🔶数字が語る、破壊と殺戮の深刻さ
2023年10月7日、ガザ地区からハマスの戦闘員およそ3000人がイスラエルに侵入し、民間人ら約1200人を殺害、250人を人質にした――。
すべてはそこから始まりました。
しかし、それから1年8ヶ月。
イスラエル軍による空爆や地上攻撃で、ガザの死者は5万3655人(2024年5月時点)。
負傷者12万1950人、行方不明者1万4000人とも報道されています。
これに加えて、医療や食料の欠乏による二次的な死者を含めると、20万人を超えている可能性もあるといわれています。
🔶なぜ国際社会は沈黙するのか?
宮脇さんが強く訴えるのは「国際社会の無関心」です。
「欧米各国は、なぜここまで沈黙しているのか? なぜイスラエルに対して強く物申さないのか?」
この問いに答えるヒントを求めて、宮脇さんは一人の歴史学者に注目しました。
その名はイラン・パペ。イスラエル出身で、現在はイギリス・エクセター大学の教授を務めています。
🔶“シオニズム”という国家思想の根
イラン・パペ氏が語るのは、イスラエル建国に貫かれる「シオニズム」という思想です。
それは一言で言えば、「パレスチナの土地に、ユダヤ人の国家をつくるために、先住民であるパレスチナ人を排除する」という、植民地主義的な思想でした。
「これは“搾取”型の植民地ではなく、“排除”型の植民地主義。つまり、パレスチナ人をその土地から追い出して、空間ごとユダヤ国家に作り替えるということなんです」(パペ氏)
🔶民族間の断絶と差別の構造
パペ氏によれば、イスラエル建国当初、ユダヤ人を多数派にするために、中東・北アフリカ出身のアラブ系ユダヤ人がイスラエルに呼び寄せられました。
ところが彼らは、欧州系ユダヤ人から「非近代的で野蛮だ」と差別され、社会的な承認を得るためにパレスチナ人に対して過激になる傾向があったといいます。
🔶その構造が、暴力の連鎖を生み、社会の中で正当化されていった――。
こうした歴史的背景が、今のイスラエル社会の主流思想「シオニズム」を支えているのだと分析しています。
🔶教育と軍事が暴力を“正当化”する
イスラエルでは、18歳から徴兵制が始まり、若者たちは軍隊で教育を受けます。
「そのなかで“パレスチナ系住民に対しての暴力は正当だ”と刷り込まれていく。これが暴力容認の風土を生む要因になっている」と宮脇さん。
加えて、メディアや政治の影響力を持つ保守系の支持基盤が、こうした暴力構造をさらに強化しているのだと語ります。
🔶日本人の私たちにできること
「この問題、私たちには関係ない」――
そう思ってしまいがちですが、宮脇さんはこう語ります。
「ロシアのウクライナ侵攻のとき、多くの日本企業や市民がロシア製品のボイコット運動に参加しましたよね。
実は、イスラエルに対しても同じような動きがあります」
その名も、BDS運動(Boycott, Divestment, and Sanctions)。
イスラエルによるパレスチナ占領に反対し、不買・投資撤退・制裁を求める国際的な運動です。
「BDS運動については、インターネットで調べればすぐに情報が出てきます。小さな行動かもしれませんが、それが大きな流れにつながるかもしれません」
🔶子どもたちの未来に、関心と想像力を
「イスラエルという国は、もともと“自分たちの安心できる居場所を求めて”建国された国です。
なのに、今パレスチナの人たちに同じ“居場所を奪う”ということをしている。この矛盾に目を向けずに、歴史を語ることはできないんじゃないかと思います」
遠い国の話に見えて、私たちが目を向けるべき“いま”がある。
それを静かに、しかし強く伝えてくれる宮脇さんのお話でした。
お話:宮脇利充さん(元RKKアナウンサー)/聞き手:江上浩子