いかがでしたでしょうか?

写真とコラボした20篇のショートストーリー。

わからない言葉は、このあとの巻末の解説をご覧ください。

本を読んでくださった皆さんにも、素敵な出会いが訪れますように。

遅咲きって、いい意味かしら。

境内の桜の木に手をあてながら 彼女がつぶやいた。

喧噪の後に開花する遅咲き桜。

実は、一番好きな花である。

だからこそ、手弱女は、 彼女こそが愛でるにふさわしい。

伝えるべきか、迷うところだが。

一日中葉桜を見ていた。

葉桜が美しいのはそのせいだと言う。

すべては色彩の表現に似ている。

反対色ほど、相性が良い。

二人の色彩も、これから ほどよく混じり合っていけばいい。

名残惜しそうに、残っている桜花。

それを残花というらしい。

いじらしく、 それでいて芯の強さを感じるのは 自分だけではないだろう。

そういえば、有名な哲学者が 花吹雪、という言葉を 世界一美しい言葉だと言っていた。

天気予報は正確だ。

午前中の雨はすっかり上がり、 桜の枝葉の間から、陽光が差し始めた。

ピアノジャズと春雷のコラボレーション。

遅めの朝食は、いきつけのカフェ。

静かなBGMを、ときおり春雷がかき消す。

それとも、入店と天候の急変のこと。

傘をささずに、 昨日まで満開の桜並木を歩く。

雨の雫が伝わらない。

傘をささない彼女の理由。

今日からは僕の理由。

小糠雨は、いつしか霧雨となり、 二人の行く手を遮っても、 少しだけ早足で歩けばいい。

二の腕に彼女を感じながら。

まるで、桜色の絨毯ね。

昨夜までのにぎわいが嘘のように、 静かな公園の朝。

桜の香りはとても弱く、 それでいて、とても印象的だ。

上気してほんのり桜色になった 彼女の頬のように。

雨がカーテン越しにリズムを刻む。 桜の季節に終止符を打つのは、 決まって雨の音。 雨には百の表現があるが、 さしずめ、窓の外は、小糠雨（こぬかあめ）。

カウンターに並んだ盃が2つ。 小さなグラスに注がれたのは、 花の名前の吟醸酒。 窓の外には、桜の古木。 零れ桜を瞳に映しながら、 乾杯を・・・

フルーティな大吟醸の香りと、 薄紫の花の露が、