#働く町 #空の美 #朗読 #3分
#夢野久作 #宮本百合子
働く町/夢野久作
ある国で第一番の上手というお医者さんが、ある町に招かれて来ました。お医者さんは町に着くと直ぐ、
「ここの人はどうして一日を過ごしていますか」
と尋ねました。
町の人はこう答えました。
「別に変った生活もしませんが、私達は日の出前に起床し、日が暮れて床に就き、明るいうちはせっせと働いて日を送っています。又餓ひもじい時はお腹を一パイにするだけ御飯を食べます」
と答えました。
お医者さんは、
「それでは私はここにおっても仕事がありません。そんな生活くらしをする人達はいつも健全たっしゃで医者の厄介になる事がありませんから」
と言ってさっさとここを立ち去りました。
空の美/ 宮本百合子
空の美しさという場合、大抵広々とした空、晴やかな空などという。
郊外に住むようになってから、私は更に種類の異う空の美があることを知った。それは、大都会の上の空――大都会のペーヴメントに立って仰ぐ空の美しさだ。空はそこでは、ただのん気に広々としてはいない。高い建物、広告塔、アンテナ、其等の錯綜した線に切断され、三角の空、ゆがんだ六角の空、悲しい布の切端のような空がある。
屋根と屋根との狭いすき間からマリが落ちたような月の見える細長い夜の空、郊外の空にない美があるのを感じる。
〔一九二六年八月〕
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