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レディオヘッドの「Amnesiac」を語る


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Radiohead『Amnesiac』レビュー(2001)
——記憶の断片をなぞるように

『Amnesiac』は、前作『Kid A』の「続編」だとよく言われる。実際、同時期に録音された曲を中心に構成されており、音の方向性も似ている。ただ、このアルバムには、『Kid A』にはなかった「顔を覗かせる瞬間」がある。それは人肌のような温度感であり、記憶の断片がふいに浮かび上がるような感覚だ。

一曲目「Packt Like Sardines in a Crushd Tin Box」は、金属的なビートと冷ややかなヴォーカルが印象的だが、不思議と拒絶感はない。閉塞感の中に微かなユーモアと柔らかさが潜んでいる。この「薄い膜ごしの親密さ」はアルバム全体に通底している気がする。

続く「Pyramid Song」は、本作の核だろう。ピアノの和声は崩れているようでどこか整っていて、時間がうねるように流れていく。ヨークの歌は、どこか死後の世界を彷徨っているようにも聴こえる。輪廻や喪失といった言葉が浮かんでは消える。まさにタイトル通り、「記憶を失った者がふと立ち止まった場所」のような響きだ。

「You and Whose Army?」や「Knives Out」では、バンドとしてのRadioheadが顔を出す。ギター、ベース、ドラムが絡み合いながらも、かつてのロック的エネルギーとは別種の、もっとひんやりした執着がある。特に後者は、初期の頃の面影をかすかに残しつつ、それを遠い夢のように見せる。この引き算の美学は、彼らの変化を物語っている。

『Amnesiac』というタイトルは、まさにこのアルバムそのものだと思う。明確なテーマがあるようでいて、決して一本の線では語れない。聴き手は、見知らぬ都市をさまよう旅人のように、曲ごとに違う風景と出会うことになる。けれど、そのどれもが奇妙に懐かしい。記憶の底に沈んだ風景を、夢の中でふと見たような感触がある。

このアルバムは、音楽的な挑戦というよりは、感覚の地層を掘り下げていくような作業に近い。『Kid A』が氷山の水面下を示したのだとすれば、『Amnesiac』はその氷の中に閉じ込められた古代の空気を封じ込めたような、そんな作品だ。

10点満点で言えば、8.5点。冷たさの中にかすかに息づく熱、断絶のなかに潜む記憶。それを拾い集めたい夜に、ふと針を落とすアルバム。

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