Crackerは、1990年代初頭にCamper Van Beethovenの解散を経たDavid Loweryが、ギタリストのJohnny Hickmanと始めたバンドだ。
スタイルはロック寄りのオルタナ・カントリーで、元祖的な存在。深く沈みこむような歌声と、グランジを経由した尖ったサウンド、ダルいメロディが90年代後期の自分の生活に合っていて、よく聴いた。今でも聴けばサントラ的に当時を思い出す。
デビュー作「Cracker」(1992)は、バンドの最大の個性である「やる気なさげなやる気」がよく出た作品だ。パンク的な熱と、グランジ的なダルさの両面が表現されている。続く「Kerosene Hat」(1993)は「Low」「Euro-Trash Girl」などヒットもあり、バンドとしてのトーンが定まってくる。憂いを帯びた歌声と、現実をわかりすぎているような救いの無いロックサウンド。何度も繰り返し聴いた作品で、バンドの代表作だ。
その後、「The Golden Age」(1996)では「I Hate My Generation」を筆頭に、より内省的なモードに入る。前作のヒットを受け、メディアは相当プッシュしていたが、レコード会社が狙っていた程売れず、virginレーベルから事実上首を切られた。
ただ、それ以降もCrackerはしぶとく活動を続けた。virgin傘下のインディーレーベルに落ちた後も、「Gentleman’s Blues」(1998)、「Forever」(2002)、「Greenland」(2006)などを発表。LoweryとHickmanを軸に、初期3作よりも繊細な作品を発表し続けている。インディ後の作品は、発表当時ほとんど話題にならず、CDの流通量も少ないため中古を見かける機会も少ない。また、配信サービスに入っていないものもあり、正直なところ聴き込めていない。
ということで、大好きな初期3枚をアルバムレビューする。
Cracker – Cracker(1992)
デビュー作。Camper Van Beethoven解散後のDavid Loweryが、新たなバンドで鳴らしたのは、乾いたギターと、諦め感漂うグランジ的な重さを感じるカントリー色の濃いロックだった。厭世と諧謔が絶妙にミックスされた音で、時代の雰囲気に合っていた。初期衝動というより、“諦めのあとに呟かれるアメリカンジョーク”のような強さだ。
挨拶代わりの1曲目「Teen Angst (What the World Needs Now)」は、いきなりガツンとくる名曲。歪んだ陳腐なギターリフと鼻にかかったLoweryの声。根底にあるアメリカーナ。バンドの特徴がよく出ている。
アメリカーナな「Happy Birthday to Me」、アメリカン・ロック的な間がかっこいい「This Is Cracker Soul」など、アルバム前半に非常に聴きどころが多い。既存のロックをちょっと馬鹿にしたようなリズム隊とギリギリを攻めるギターが最高だ。
全体として感じるのがルーツミュージックとの絶妙な距離感だ。CountryでもBluesを否応なく背負わされるアメリカで、「こうやってやってくしかねえ」とつぶやきながらうつむき加減で進む感じ。グランジ経由のカントリーを地で行く音だ。
「世界に軽く失望してるけど、それでも音を鳴らしている」、諦めた上で鳴らされたロックだ。
Cracker – Kerosene Hat(1993)
「Low」で始まり、「Euro-Trash Girl」「Sweet Thistle Pie」など緩急が光る、90年代オルタナカントリーの忘れ去られつつある傑作。前作と比べて、よりDavid Loweryのヴォーカルがシニカルさと達観の間をふらふらと彷徨っい、サウンドはグランジ的な激しさと、ヘロイン的な重さの2面性が強烈に押し出された。当時の自分の生活に合ったやや危ないサウンドだ。
「Take Me Down to the Infirmary」は前作に入っていてもおかしくないカントリー調の哀愁ソングで、酒が抜けないまま朝を迎えたような空気。「Low」は逆に、グランジっぽいギターリフに淡々とした歌が重なって、まるでやるせなさを音にしたかのようなバンドを代表する名曲だ。
WILCOのようなら革新性はない。個人的にはWILCO以上にリアルで伝わってくる音だけど。
とにかく繰り返し聴いた1枚で、自分の映画を撮ったら(撮らんが)このアルバムをサントラにしたいくらい。90年代後半の雰囲気を伝える名盤だ。
Cracker – The Golden Age(1996)
前作「Kerosene Hat」の気だるくも芯のある手触りから3年。「The Golden Age」では一転、陰りを帯びたサウンドに深みが加わり、アルバム全体に漂う疲労感がやたらとリアルだ。「黄金時代」という皮肉をタイトルにした作品で、メジャーとの戦いでボロボロになったバンドが目に浮かぶ。それでも俯瞰して音を鳴らす感じと、捻れたロマンチシズムは活きている。
タイトル曲「I Hate My Generation」は、ニルヴァーナをオマージュしたようなハードなグランジサウンドで皮肉100%。当時のメディアもこの曲を象徴的に取り上げた。ただ、感じるのは額面どおりの「嫌悪」ではなく、切実な痛みだ。
「Big Dipper」や「Dixie Babylon」では、アコースティックな響きの中に寂寥感が溶け込んでいて、夜の終わりにガッツリはまる。
David Loweryの語り口はより乾き、歌声の熱とダルさの2面性はキャリア最高峰だ。サウンドは激しさを増してるが、シニカルな感じ、バンドの苦悩が漂っている。「どうでもよさそうに見えて、全然どうでもよくない」そんなテンションだ。そういう時代だった。
アルバム全体に漂う強烈な虚無感が個人的にぐっとくる。どうしようもなく、何かが終わってしまう感じ。これを音として表現できているのが凄い。冒頭ではなんとか生きようと声を張り上げるも、結局何も変わらず、静かに終わる映画のラストシーンのようにアルバムは終わっていく。名盤過ぎる。
これをベースに膨らませて音声いけますか