今回は人的資本経営についてです。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、今、企業経営者の間でとてもホットな言葉です。最近では新聞や雑誌に使われることも段々増えてきたのではと思っています。ラジオをお聞きの皆さんも聞かれたことがあるかもしれません。人的資本経営、一言で言うと社員をど真ん中に据えた経営を行う事を指しています。当たり前のことではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。日本の会社の多くは従来から社員を大切にする経営を行ってきました。ですので、この人的資本経営は日本企業が本来得意とする経営手法といっても大きな間違いではありません。
ただこの言葉がなぜ今注目されているかと言うと、これを本当の意味で実践しようとすると従来の日本の会社の経営に大きな変革が必要となるからです。では一体どんな変革が必要になるのか、それをこれから話します。まず人的資本という耳慣れない言葉ですが、人に関する資本、人に関わる資本というような意味です。なぜわざわざ資本という言葉を使っているのか。資本と言うとどんなイメージでしょうか。ビジネスの世界で言うと会社の資本金を思い浮かべる方が多いのではないかと思います。資本金、すなわち会社が事業活動を行う為に元になるお金です。それを使ってオフィスを借りたり、机を買ったり、工場の設備を買ったりします。特に会社を始める時は、なけなしのお金を如何に有効に使うか、無駄なくビジネスに直結するように使うか、経営者は知恵を絞ります。帳簿を毎日見ながら、どのぐらいのお金がどこにどう使われていて、どれだけ残っているんだろうと気を配ります。
人的資本という言葉は、経営者は人、すなわち社員に対してもお金と同等の、それ以上の気を配りながら経営をしなさいということを意味しています。今、自分の会社にどんな社員がいて、それぞれがどんな強みを持っていて、その強みをどう発揮してもらうのが会社にとって一番良いのか。さらに言うと、それぞれの強みがちゃんと発揮されるような職場を提供出来ているのか、社員ひとりひとりが本当に活き活きと働いているのかということをしっかりと確認しながら経営をしなさいということです。さらに言えば、社員の力を高める為の投資をしっかり行うべきであるという意味も含まれています。経営者は社員に関する費用、すなわち人件費はコストであってなるべく低く抑えたいと思いがちです。しかし、人的資本の発想は全く違っていて、社員は単なるコストではなく、投資をして育成するものだと考えます。したがって投資をして育成をして力を発揮してもらう為にしっかりお金をかけなさいということを主張します。ですので、まずはひとりひとりの社員の状態をしっかり把握をして、それぞれの力を伸ばす為の研修、それを受ける機会を作って、かつ、活き活きと働きやすい環境を整備する、その為に経営者はもっと気を使ってお金をかけなさいということです。
実際、日本の現状を見てみると多くの会社で社員は大事だと言っています。ただひとりひとりのモチベーションの状態や、ひとりひとりの社員の強みや弱みをしっかり把握出来ているかというと、そうでもない会社が多いです。また、社員の力を伸ばす為の研修の機会を経営者が率先して作っているかと言うと、心許ない会社が多いです。日本では従来から人を大事にする経営が行われてきました。ただ、その人を大事にする、大切にするという意味がややもすると単なる精神論で、掛け声だけで終わっていて、具体的な施策になっていないケースが実は多いように思います。ですので、今日の冒頭に人的資本経営を本当の意味で実践しようと思うと、日本企業に大きな変革が必要となると申し上げたのはこのような理由からです。
ではなぜ今この人的資本経営が話題になっているのか、最後にその背景を説明します。人的資本経営が重要である理由、それはビジネスの価値を生み出す源泉が機械や設備から人にシフトしているからに他なりません。従来はビジネスで言うと、どんな設備を持っているか、どんな機械を持っているかによって企業の競争力が左右される時代が長らく続いてきました。ただ最近では設備や機械よりも人の力、もっと言えば人の智慧、それが大きなウェイトを占めるようになってきています。世界の上場企業の時価総額を見てみると、その企業が持っている資産、すなわち物の価値では説明がつきません。人の力が企業の価値を左右する時代が来ています。すなわちビジネスの世界で成功しようと思うならば、設備や機械ではなく人、すなわち社員の力をどのように引き出すかに注力すべき時代になっていると言っても過言ではありません。人的資本経営という言葉は、こういった時代背景の中で今後の経営の在り方を示すものとして今注目を集めています。
人的資本経営をしっかりやっていないと、いい人材を採れなくなってくる、そんな時代が来てしまったと思います。人的資本経営という言葉がこれからの企業経営にとって重要なキーワードになります。明日は人的資本経営において私達ひとりひとりがどのようなことに気を付けるべきかについて考えてみたいと思います。