いよいよモーニングビジネススクールも最終回です。このモーニングビジネススクールの放送の終わりとともに、私自身も来年3月で、九州大学を退職することになります。
そこで、実際に来年の春から本格的に取り組むことでもありますが、「人生100年時代の生き方と社会の活性化」という話をさせていただきます。
「人生100年時代の生き方と社会の活性化」というのは、高齢化が進む中でも社会は活性化していくということです。国連による2023年版の「世界幸福度報告書」によると、日本人の幸福度は世界で47位でした。これでも昨年の54位から7位上がっています。皆さんは、この結果をどう思われますか。低いと思われますか?確かにあまり自分が幸せだなと日々実感するわけではないですが、それにしても世界的に見て、こんなに低いのです。
もちろん統計の取り方や解釈にもよるとは思いますし、感じ方の違いもあるでしょう。ただ、人生100年時代で、私たちが90代までは当たり前に生きることになったとして、「まだまだ時間があるので、やりたいことができるのは楽しみ」とポジティブに考える人と、「長生きするのは良いけれど先々の生活が不安」と考える人と、どちらが多いと思いでしょうか?恐らく不安に感じる人も少なくないでしょう。何年か前に、年金だけでは老後に2千万円足りないという話もありました。実際に日本の9割の企業や組織では、退職年齢は60歳です。そうなると年金が支給される65歳まででさえ、仕事を探して、その間を繋ぐ必要があります。
そして、人生100年と考えると、60歳や65歳の年齢でも、まだ3分の1が残っているということになります。そこに不安を感じると、幸福度が低いのは当然ではないでしょうか。
一方で、少子高齢化で、日本の人口全体だけではなく、生産人口が大幅に減少することになります。そのために社会的な負担が増し、日本の国力も落ちることが心配されています。多くの人たちが退職する中で、人手が足りなくなるという現象です。そうであれば、退職するシニアの能力活用によって、個人の不安と社会の課題の両方の解消に向けて、大きく転換させられないかということになります。
2018年11月号のハーバード・ビジネスレビューに、「シニア世代を競争優位の源泉に変える」という論文がありました。高齢者を一括りにして、組織や社会に負担という先入観を捨てると、シニアの持つ豊富な知識や経験、調整能力は、組織の優位性にも繋がるという、とても心強い論文でした。但し、シニアが働きやすい勤務体制や環境を整えることが、前提になるということです。もちろん現役時代と同じ体力や持久力を期待するわけにはいきませんが、様々な形でその能力を活かすことはできるのではないかということです。労働力としての人材不足の解消だけではなく、適切な仕組みを作ることで、シニアの能力を前向きに活かすことができるということです。
『Life Shift 100年時代の人生戦略』の著者のリンダ・グラットンさんらも書かれていたことですが、今までの生き方が、「教育と就労と引退後」の3つの段階で構成されていたとすれば、これからのモデルは、マルチ・ステージ、複数の段階になっていくとのことです。現在の60歳や65歳は、昔に比べればはるかに健康なのではないでしょうか。そのように考えれば、まだまだ次、またその次と活躍できる場はあるとも言えます。いまその実現に向けて、いろいろと企画をしています。意識転換の研修、仕事の創造、働く枠組みづくり、地域活動の開拓など、5つくらいの内容です。単に就労を支援するのではなく、研修・仕事づくり・枠組みづくり・地域活動を行います。まだ試行錯誤の部分も多いのですが、このような多様なアプローチが必要と感じています。例えば、シニアが働くには、企業も本人の意識も変わる・変える必要がありますので、研修がとても重要だと思います。もちろん今まで培った知見が重要なのは間違いありませんが、今までの仕事や役職とは一旦切り離さないと、次の段階には入りにくいと思います。その他、新しい仕事や働き方の枠組みを創造することや、経験を地域や市民活動で活かすことなどを考えています。
これらの活動を通して、人と社会の活性化に繋げ、福岡から優れたビジネスモデルを発信することで、全国各地でそのモデルが模倣され導入されれば、これから先の不安が、これからの楽しみに変えられると信じています。「やりがいのある仕事、充実した日々、生きがいのある人生」が実現できた時に、日本の幸福度も、少しずつ上がっていくのではないかと期待しています。
QTnetモーニングビジネススクールも、今日のこの放送をもって終わりになります。九州大学ビジネススクールが設立されたのは、今から20年前の2003年4月でした。そしてこの番組モーニングビジネススクールは、2006年5月29日に、私が担当して「ビジネス・スクールとは何か」をお話しさせていただいたのが、最初の放送だったようです。今まで国際経営と国際ロジスティクスに関して、17年間で300以上のお話をさせていただきました。
番組を始めた頃は、九州で初めてのビジネススクールとして、まだまだ認知度があるとは言えない時期でしたので、みなさんにその存在を知っていただく上でも大変に有効でした。そして、何よりも国内のビジネススクールとしては、唯一教員がメディアを通じて、自分の研究を説明させていただいていたことになります。
この放送にあたっては、本当に多くの方々にお世話になりました。17年間スポンサーとして、このような貴重な機会をいただいたQTnetのみなさん、常に支えていただいたエフエム福岡の方々や、リスナーのみなさんに、心から感謝いたします。
今日のまとめ:人生100年時代にあって、シニアの能力活用によって、労働人口の減少や社会課題解決に繋げて、社会の活性化を目指すこと。