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S2#13 渡米の話


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「サヨナラは微笑みと共に」


港町の小さな公園に、カッツーとホシ子が立っていた。幼い頃からずっと一緒だったふたり。何をするにも隣にいて、夢を語り合い、未来を想像し、どこまでも一緒に歩んでいけると思っていた。


でも今、カッツーは夢のためにアメリカへ行くことになっていた。映画監督になる夢を追いかけるために。明日にはこの町を離れるのだが、カッツーはまだうまく言葉にできないままホシ子を見つめていた。何か言いたいことがあったはずなのに、胸の奥で引っかかり、うまく声にならない。


ふいにホシ子が笑みを浮かべた。「ねえ、最後に一緒に踊ろうよ」


カッツーは驚いたが、すぐに微笑み返した。ホシ子のことだから、こんなことを言い出すんじゃないかとなんとなく思っていた。どこまでも自由で、どこまでも明るくて、ふわっとした彼女の雰囲気に、カッツーはいつも振り回されていた。でもそれが、彼にとって何より大切で愛しいものだった。


ホシ子がカラフルなボリウッド風の衣装をまとい、音楽が流れ出すと、彼女はリズムに乗って軽やかに踊り始めた。ホシ子の動きは、まるで夜の空気を照らす光のように鮮やかで、カッツーも自然と引き込まれていく。ふたりは笑顔でステップを踏み、息を合わせて踊った。夜の静寂の中にふたりの笑い声が響き、誰もいない公園が一瞬、ふたりだけの舞台になる。


月明かりに照らされたホシ子の瞳には、確かに涙が浮かんでいた。でも彼女は、泣く代わりにただ優しく微笑んでいた。それがどんなに切ない別れだとしても、今この瞬間を、彼女は永遠に心に焼きつけようとしているかのように。


ダンスが終わり、静かに見つめ合うふたり。カッツーはゆっくりと、かすれた声で言った。


「俺が夢を追いかけても、ホシ子との思い出が遠くに行くわけじゃないよな?」


ホシ子は一瞬だけ視線をそらしてから、カッツーの目を見て微笑んだ。「あんたがどこにいたって、私たちはずっと一緒だよ」


その言葉を信じるように、ふたりは静かに抱きしめ合った。何も言わなくても、温もりだけで伝わるものがあった。さよならを言わずとも、心がひとつに繋がっているのがわかる瞬間だった。


翌朝、カッツーは飛行機に乗る。振り返って港に立つホシ子を見つけると、手を大きく振った。ホシ子もまた、ずっと手を振り続けて、ふたりはお互いの姿が見えなくなるまで笑顔で別れを告げた。


それぞれの道を歩むふたりだが、心にはいつもあの夜のダンスが、そして一緒に過ごした全ての瞬間が残っている。カッツーが異国の地でカメラを回し、ホシ子がステージに立つたびに、あの約束がふたりを支えているのだと感じる。


ふたりの心の中で、彼らの物語はこれからもずっと続いていく。

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