お盆の夜、田舎の小さな村では、毎年のように霊たちが帰ってくると言われています。村人たちは、霊を迎えるために家々の前に提灯を灯し、供え物を用意して静かに待っていました。

その村に住む一人の少女、咲子は、幼い頃に亡くなった祖母を強く慕っていました。今年のお盆も祖母が戻ってくることを楽しみにしていた彼女は、祖母のために特別に編んだ手作りの人形を供え物として用意しました。

お盆の夜、咲子は家の前で祖母を迎えようと、提灯の灯りを見つめていました。風が涼しく、虫の音が静かに響く中、どこからともなく足音が聞こえてきました。咲子は、祖母が戻ってきたのだと思い、嬉しそうに玄関に駆け寄りました。

しかし、そこに立っていたのは、祖母ではなく、見知らぬ男でした。その男は、着物を着ており、顔は青白く、目はどこか虚ろでした。咲子は不安を感じつつも、「お祖母ちゃんはどこ？」と尋ねました。

男はゆっくりと口を開き、「お前の祖母は、今年は来られない。彼女の代わりに私が来たのだ」と答えました。その言葉に咲子は恐怖を感じ、後ずさりしました。男の手には、咲子が祖母のために用意した人形が握られていました。

咲子が恐る恐る人形を見つめると、それは祖母の顔に似せて作ったものではなく、男の顔にそっくりに変わっていました。驚愕と恐怖で動けなくなった咲子に向かって、男は静かに言いました。

「お前の祖母は、ここにいない。私が彼女を連れて行った。そして、次はお前だ。」

その瞬間、咲子の目の前が暗くなり、気を失ってしまいました。

翌朝、咲子が目を覚ました時、彼女は自分の部屋に戻っていましたが、昨夜の出来事が現実だったのか、それとも夢だったのか分からなくなっていました。ただ、祖母のために用意した人形だけが、昨夜の恐怖を思い出させるように、部屋の隅に転がっていました。人形の顔は、まだあの男の顔をしていました。

それ以来、咲子は毎年お盆の時期になると、夜が恐ろしくて眠れなくなりました。誰もその男の正体を知る者はいませんが、村では今でも、彼の話をする者は誰一人としていません。