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S2#25 電話一本、肋骨一本の話


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『救いの声は、猫の鳴き声だった』



「なあ、ノビ。お前、金に困ってるって言ってたよな?」


ジャイがスマホを見つめながら、不敵な笑みを浮かべた。


「え? まぁ……うん。でも、なんで?」


ノビはため息をついた。最近、バイト代が思ったより入らず、家賃の支払いに頭を悩ませていた。


「ちょうどいい話があるんだよ」


ジャイはスマホをノビに見せた。画面には『簡単な作業で高額報酬! 初心者歓迎』と書かれた求人のページが映っている。


「怪しくないか? こういうのって、大体ヤバい仕事だろ……」


ノビは眉をひそめたが、ジャイは自信満々だった。


「でもよ、めちゃくちゃ簡単なんだぜ? ただ指定された口座に金を振り込むだけで謝礼がもらえるって話だ」


「それ、もしかして……」


ノビの背筋がゾクリとした。振り込め詐欺や特殊詐欺の『受け子』の手口に似ている。でも、金に困っているときほど、人は正常な判断ができなくなるものだ。


「ちょっと話を聞くだけでも……」


そう言いかけたとき、ノビの足元で 「ニャア!」 という鋭い鳴き声が響いた。


「うおっ!」


驚いて飛び退ると、一匹の猫がノビの足に絡みつくように座っていた。


「どっから湧いてきたんだよ……」


黒と白の毛並みが特徴的なその猫は、じっとノビを見つめていた。その瞳はまるで「やめろ」と訴えかけるように真剣だった。


「なんだよ、お前。俺らの邪魔すんなって……」


ジャイが猫を追い払おうとしたその瞬間――スマホの画面が暗転し、次の瞬間『警察庁からの注意喚起』という警告が映し出された。


「特殊詐欺に注意! 高額バイトの勧誘には十分警戒を!」


「えっ……?」


ノビとジャイは顔を見合わせた。


「これ……もしかして……」


ノビが震える指で検索をかけると、その求人のURLはすでに危険サイトとして警告されていた。


「や、やばかったな……!」


ジャイが冷や汗をかきながらスマホを握りしめた。その瞬間、また猫が**「ニャア!」**と鳴いた。


「……こいつ、助けてくれたのか?」


ノビがそっと猫の背中を撫でると、猫は満足そうに喉を鳴らし、ゆっくりと歩き出した。


「おい、どこ行くんだよ!」


ジャイが呼びかけるも、猫は振り返ることなく、夕暮れの街へと消えていった。


その日から、ノビとジャイはどんなに困っても『簡単に儲かる話』には絶対に手を出さないと心に誓った。


――救いの声は、誰かの忠告ではなく、たった一匹の猫の鳴き声だった。



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