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S2#32 バレたくなかった話


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愛と税金とオレジの皮


――裏切りより苦いのは、レモンか、オレジか。


バー「果汁100%」は、夜になると静かに灯る。

マスターのガン太は無口な男で、元・税理士。

過去に顧客の愛人とのスキャンダルがバレて廃業したが、税金への恨みだけは今も胸に生きている。


その横で、やたら声がデカく、色気のないスーツに身を包むオレジがカクテルを振っている。

柑橘系男子を名乗りつつ、最近「果汁10%」と陰で呼ばれているのに本人だけが気づいていない。


そこへ毎晩やってくるのが、常連のレーナ。

営業帰りにスーツのまま、カウンターで「男ってさ、バカよね」と笑うその姿に、

ガン太もオレジも、胸の何かを絞られていた。


三人の関係は、言うならば“沈黙の三角関係”。

ガン太は言えず、オレジは見せびらかし、レーナは火をつけて、どこかへ去る。


そんなある夜、レーナが言った。


「ねぇ、今日、どっちかに決めようと思うの」


カウンターが凍る。

ガン太は手元のグラスを、オレジは自分の髪型を気にしていた。


「ガン太も、オレジも、それぞれ魅力的なのよ。

 だけど、やっぱり私は……」


そのとき、ドアの奥からひょっこり顔を出したのは、会計係のミカ。

ボブヘアに無表情。愛想はないが、計算は早い。


レーナが笑った。


「……私は、ミカにする」


「……は?」


「私ね、女の子の方が合ってるって最近気づいたの。ミカとは、もう1ヶ月くらい…その、ね?」


沈黙。


ガン太はグラスを落とした。

オレジは鏡で自分の顔を見た。

なんでこんなにツヤがないのか、と。


「……俺の皮、全部むかれてたんだな」

「愛も、税金も、控除されるんだな……」


ミカが一歩、前に出る。

「ちなみに、レーナの保険も私が組んでます。愛も金も、既に確保済みです。」


レーナが笑って言う。


「これからは、果汁100%の女だけの夜会、始めるから」


男たちは、ただカクテルを振るだけの果物となった。

酸っぱいのは、レモンか、それとも人生か――。

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