666666RADIO

S2#33 ビッチに絡まれた話


Listen Later

Diddy youngji’s Social media


https://songwhip.com/diddyyoungji


https://www.instagram.com/diddyyoungji14/


https://www.instagram.com/insideout4012/


「月夜に吠えろ、マリアたち。」




風が騒ぐ夜だった。

都心の裏通り、ネオンが雨粒をなめるように照らすなか、カツカツとブーツの音が響く。


歩いていたのは、佐伯レンジ。身長は低め、痩せ型、口数少なめ。けれども心はいつだって全力疾走。

ロックとパンクを混ぜて煮詰めたような孤独を胸に抱えて、焼酎片手に歩くのが夜のルーティンだ。


その日もコンビニの安焼酎をラッパ飲みしながら、世の中全部に中指立てるような気持ちで歩いていた。

だけど、そんなレンジに、声がかかった。


「お兄さん、どこ行くの〜?」


振り返ると、見た目はギャルっぽい女性が四人。

金髪、タイトスカート、スパンコール、ヒールの音。全員が夜そのものをまとってるような派手さだった。


「べっぴんばっかやん…」

思わず焼酎が喉に詰まる。


「ひとり?寂しくない?」

女のひとりが近づいてくる。香水の香りがやたら強い。

レンジが言葉を選ぼうとしたそのとき──


「つかまえたっ♡」


背後から腕が回され、がっちりとホールドされた。

レンジの肩に顎が乗る。呼気が耳にかかってゾクッとした。


「え?なにこれ、え?」


混乱している間に、前にいた別の“女”がスッと手を伸ばして、

「あら、かわいいタマちゃん♡」


「やめろや!!!」

焼酎のペットボトルを投げるが、ギャル風たちはキャッキャと笑ってよける。


「こいつらやべえ……」


そこでレンジは気づいた。

よく見ると、どこかしら“ゴツい”。

いや、むしろ“美しい”のに、“骨格が強すぎる”。


──全員ニューハーフだった。


目が合うと、どの顔も悪意がない。けれど、どこか「世間からはぐれた者たち」の悲しみと、強さがあった。

レンジは一瞬で悟った。

この人たちは、誰よりも夜と戦ってる。


「マリアたち」──レンジは勝手にそう呼んだ。


しかし、事件は起きる。


背後のホールド役、“マリアのリーダー”っぽい彼女(?)が、酔ったのかヒールが滑ったのか、バランスを崩す。


「あっ、やばっ」


そのまま、レンジの体重を支えきれず、ゆっくりと…

おそろしくスローモーションで、


「バックドロォォォップ!!!」


レンジの体が弧を描き、背中から地面に激突。


──が、落ちたのはマリアの方だった。


レンジは小柄で軽かったため、リーダーが自分の重みでぐるりとひっくり返ってしまったのだ。


「ッあっぶねぇ!マジで死ぬかと……て、えっ、起きてる?」


「……うふふ♡ やるじゃん、ロックンローラーくん。」


地面に倒れながら、マリアは微笑んでいた。

レンジは、なぜか心のどこかがじんわり温かくなった。


そのあと、マリアたちは手を振って去っていった。

ヒールの音が遠ざかる。

誰も警察を呼ばなかったし、レンジも焼酎を拾って黙って立ち去った。


でもその夜、彼は初めて日記にこう書いた。


「マリアたちに出会った。たぶん、俺の人生で一番まともな交流だった気がする。」


そして、彼はもうひとくちだけ、焼酎を飲んだ。


数日後の夜。

レンジはまた歩いていた。

あの日の“マリアたち”との遭遇は、脳裏に焼きついて離れない。


「なんだったんだろうな、あの夜は……」


しかし、その答えを考える暇もなく、目の前に再び現れる“あの4人”。


「やっほ〜♡バックドロップボーイ♪」


ギャル風マリアたちが、まるで再放送のように現れる。

ひとりがマックのポテトを食べながら、「おまえ、やっぱかわいいわ〜」と絡んでくる。


「なんでまた会うんだよ!ここ渋谷じゃねーぞ!?」

「うちら、どこにでもいるの♡夜に生きてるからさ」


まるで野良猫みたいに自由奔放。

でも今回は違った。彼女たちはなぜか“怒っていた”。


「実はさぁ……昨日、マリアの彼氏が他のニューハーフと浮気してたの」


レンジ:「え、そんなジャンルで浮気成立するのか」


「黙れボウズ! てことで、今夜は“復讐”に行くから、アンタも付き合って」


レンジ:「いや、巻き込むなや」


「つーかさ、レンジも最近寂しそうだったじゃん。ストレス発散にちょうどいいっしょ?」


まさかの理由で、マリアたちの復讐ミッションに同行するハメになったレンジ。


行き先は、場末のゲイバー『タルタル地獄』。

店に入ると、派手な照明のなかに、浮気男と思しき“元彼”が座っていた。


「よーし、仕上げはマリアの鉄拳よ♡」

リーダー・マリアがリップを塗り直す。


「ちょい待て、それで行くの?メイクバッチリで?」


「当然でしょ?あたしらの“戦闘メイク”なんだから」


「──でもよ、素顔で殴ったほうが、気持ちも拳も、本音ってやつじゃねぇの?」


その瞬間、バー全体が静かになった。


マリアはしばらく黙っていたが、ゆっくりと化粧ポーチを閉じた。


「……レンジ、おまえ、かっこいいな。」


そして、バッチリメイクをティッシュでゴシゴシ拭き取り、

素顔のまま、元彼にグーパンチを一発。


「嘘ついた顔に、嘘じゃない拳を。」


元彼は吹っ飛び、周囲は拍手喝采。


その夜、レンジはマリアたちに言われた。


「アンタさ、もしかして“夜側の人間”じゃない?」


「は?昼に寝てるだけだよ」


「じゃあ、うちらと一緒だ。昼間、まともなふりして息潜めて、夜にだけ生きてる」


「──そうかもな」


店を出たマリアたちは、再び闇に溶けるように消えた。


レンジはひとり、コンビニでまた焼酎を買い、

静かに夜空を見上げた。


星は出てなかったけど、なぜか今夜は心が軽かった。

...more
View all episodesView all episodes
Download on the App Store

666666RADIOBy 666666RADIO