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放送開始の赤いランプが点いたとき、スタジオにはいつもの三人分の空気がなかった。
「……静かすぎない?」ミキサーのノイズに紛れて、タカシがぼそっと言う。
「アイツがいないと、こんなもんだろ」ケンジはヘッドホンを少しずらしながら笑った。「あいつ、声デカいからな。存在がノイズみたいなもんだし」
本来なら三人で回しているこのラジオ。だが今日は一人が来れない。理由は「ちょっとした事情」とだけ共有されているが、詳細は誰も知らない。知らない、というより、聞かないようにしている。
「久しぶりだな、二人きりって」タカシが言う。
「高校の帰り道以来じゃない?」ケンジが軽く返す。「あの頃はもっとバカだったよな。今は…まあ、方向性が違うだけでバカだけど」
軽く笑いが起きる。でも、その笑いはどこか薄い。
沈黙が一瞬だけ流れる。ラジオ的には“事故”に近い長さだ。
「で、さ」タカシがマイクに少し近づく。「あいつ、何で来れないんだっけ?」
「“来れない”って言い方、便利だよな」ケンジが肩をすくめる。「死んでも来れないし、寝坊しても来れないし」
「いや縁起でもないこと言うなよ」
「でもさ、もし本当に死んでたらどうする?」ケンジは妙に落ち着いた声で続ける。「俺ら、普通に番組続けるのかな。“えー、今日は一人欠席です”って。理由は“永遠の欠席”です、って」
タカシは少し笑う。「それブラックすぎるだろ」
「ブラックっていうか、現実ってだいたいそうじゃん。誰かがいなくなっても、番組は続くし、電車も来るし、コンビニも開いてる」
「まあな…」
また少し沈黙。
今度はケンジが先に口を開いた。
「正直さ、ちょっと楽しんでるだろ?」「何を?」「二人きり。あいついないと、話しやすいって思ってるだろ」
タカシは一瞬言葉に詰まる。「……まあ、ちょっとは」
「俺も」ケンジはあっさり言う。「三人だとさ、誰か一人は“余り”になる瞬間あるじゃん。今日はそれがない」
「最低だな、お前」
「だろ?でも人間ってそんなもんだよ」ケンジは笑う。「だから安心しろ。あいつも今いない場所で、同じこと思ってるかもしれない。“あいつらいなくて楽だな”って」
「それもう、友情として終わってるだろ」
「いや逆だよ。そういうこと言える関係が一番長く続く」少し間を置いて、ケンジは付け足す。「多分な。実験したことないけど」
赤いランプはまだ点いている。
二人は顔を見合わせて、同時に小さく笑った。
「とりあえずさ」タカシがまとめに入る。「今日は二人でやるしかないし、適当にやるか」
「だな。最悪、あいつの悪口だけで30分いけるし」
「それ、本人来たらどうすんの?」
「その時は“生存確認おめでとうございます”って言うよ」
少しだけ、本当に楽しそうな笑い声がスタジオに響いた。
三人分の空気はまだ戻らない。でも二人分の空気は、思ったより悪くなかった。
By 666666RADIO放送開始の赤いランプが点いたとき、スタジオにはいつもの三人分の空気がなかった。
「……静かすぎない?」ミキサーのノイズに紛れて、タカシがぼそっと言う。
「アイツがいないと、こんなもんだろ」ケンジはヘッドホンを少しずらしながら笑った。「あいつ、声デカいからな。存在がノイズみたいなもんだし」
本来なら三人で回しているこのラジオ。だが今日は一人が来れない。理由は「ちょっとした事情」とだけ共有されているが、詳細は誰も知らない。知らない、というより、聞かないようにしている。
「久しぶりだな、二人きりって」タカシが言う。
「高校の帰り道以来じゃない?」ケンジが軽く返す。「あの頃はもっとバカだったよな。今は…まあ、方向性が違うだけでバカだけど」
軽く笑いが起きる。でも、その笑いはどこか薄い。
沈黙が一瞬だけ流れる。ラジオ的には“事故”に近い長さだ。
「で、さ」タカシがマイクに少し近づく。「あいつ、何で来れないんだっけ?」
「“来れない”って言い方、便利だよな」ケンジが肩をすくめる。「死んでも来れないし、寝坊しても来れないし」
「いや縁起でもないこと言うなよ」
「でもさ、もし本当に死んでたらどうする?」ケンジは妙に落ち着いた声で続ける。「俺ら、普通に番組続けるのかな。“えー、今日は一人欠席です”って。理由は“永遠の欠席”です、って」
タカシは少し笑う。「それブラックすぎるだろ」
「ブラックっていうか、現実ってだいたいそうじゃん。誰かがいなくなっても、番組は続くし、電車も来るし、コンビニも開いてる」
「まあな…」
また少し沈黙。
今度はケンジが先に口を開いた。
「正直さ、ちょっと楽しんでるだろ?」「何を?」「二人きり。あいついないと、話しやすいって思ってるだろ」
タカシは一瞬言葉に詰まる。「……まあ、ちょっとは」
「俺も」ケンジはあっさり言う。「三人だとさ、誰か一人は“余り”になる瞬間あるじゃん。今日はそれがない」
「最低だな、お前」
「だろ?でも人間ってそんなもんだよ」ケンジは笑う。「だから安心しろ。あいつも今いない場所で、同じこと思ってるかもしれない。“あいつらいなくて楽だな”って」
「それもう、友情として終わってるだろ」
「いや逆だよ。そういうこと言える関係が一番長く続く」少し間を置いて、ケンジは付け足す。「多分な。実験したことないけど」
赤いランプはまだ点いている。
二人は顔を見合わせて、同時に小さく笑った。
「とりあえずさ」タカシがまとめに入る。「今日は二人でやるしかないし、適当にやるか」
「だな。最悪、あいつの悪口だけで30分いけるし」
「それ、本人来たらどうすんの?」
「その時は“生存確認おめでとうございます”って言うよ」
少しだけ、本当に楽しそうな笑い声がスタジオに響いた。
三人分の空気はまだ戻らない。でも二人分の空気は、思ったより悪くなかった。