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サピエンスの揺り籠 第ニ回「言語と認知革命」 ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』より


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どんな動物も、何かしらの言語を持っています。ミツバチやアリのような昆虫でさえ、複雑な意思疎通の方法を持っています。サバンナモンキーは鳴き声で「気をつけろ!ライオンだ!」と群れの仲間に警告したり、逆にライオンがいない時に「ライオンだ!」と嘘をつき、怯える仲間を騙して獲物を奪ったりします。クジラやゾウもそれに引けを取らぬ 言語能力を持っていますが、ではサピエンスの言語は、他の動物の言語と何が違うのでしょう。
直立二足歩行のアウストラロピテクスが、石器を使って死肉の骨髄を啜る生活を始めてから200万年間、人類種はサバンナで小動物を狩る程度の存在でしたが、40万年前の原人ホモ・エレクトスの頃には、大型動物を狩るほどに体も脳も道具の質も発展し、アフリカ大陸からユーラシアに広がっていきました。火を使って調理するようにもなり、これにより人類は腸の負担を減らし、その分のエネルギーを脳に回せるようになります。
20万年前にホモ・エレクトスとの生存競争に勝ったネアンデルタールに至ると、165センチを超える身長と現生人類より大きな脳を獲得し、衣服を着て氷期のヨーロッパで強力な狩人となり、死者を弔う文化と、独自の言語を持っていたと言われます。ユーラシア系の現代人のDNAの中には、1~4%だけ彼らのDNAが発見されており、アフリカを出た我々サピエンスの祖先と一部交雑していたことが分かっていますが、体格に優れ、言語を使う大きな脳も持ちながら、なぜかネアンデルタールはサピエンスに敗れ、絶滅してしまいます。
サピエンスの何が彼らより優れていたのか、はっきりとしたことは不明です。しかし、ネアンデルタールがユーラシアで活動していた頃、アフリカのサピエンスの脳に何かが起き、現生人類と同じ言語能力を獲得したという仮説が立てられています。
サピエンスの言語は、限られた音素の組み合わせでこの世界の物や現象に名前を付けて分節化する働きを持ち、分節化で生まれた単語が見ず知らずの人々の間を流通します。そして、切り分けられた事物が要素となって、物理的な現実とは別の、記号的実在の世界が創出されます。この記号的実在が生存に寄与する何がしかの道具としての性質を持つため、サピエンスは強いのです。
ところで、サピエンスの言語がその様な用具性を獲得したのは、噂話のおかげだと考えられています。群れの中の誰かについての愚痴や陰口が、サピエンスに物語る力を身につけさせたということです。
言うなれば、ゴシップがもたらした認知革命です。
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考える塾 in TAIPEIBy Takashi Jome


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