森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』

十月の透明な魚


Listen Later

十月の透明な魚

透明な魚達が跳ねて

刺繍のように波を海に縫い付けると
男は孤独でしかない

風はある時大切な言葉を話すがその時に限って人は耳をふさぎ 禍々しい世界に向けて

悲鳴をあげている

その開けた口から太陽はなだれ込み形のない心にも影を作る

光が強いほど影は濃く不気味で
こんな怪物のようなものを抱いて
これからも生きていくのかと思うと
男はまたひどく憂鬱だ

幾億ものプランクトンの死骸が

哀しみを知らず西日にきらめく堤防
最後の煙草を挟んだ指にふうっと沖合の船が透けて見える
ここにいることを報せておかないと
本当にこのまま消えてしまいそうで

スマホで誰かの名を探すがそれが誰なのかは

もう忘れている

透明な魚達が跳ねる十月の

たぶんどこにもない海辺の村で


1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。

メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

森雪之丞 自選詩集『感情の配線』

2024年1月14日(日)発売
特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩

森雪之丞スタッフX:⁠ https://twitter.com/yukinojo_news

...more
View all episodesView all episodes
Download on the App Store

森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』By 森雪之丞