哲学するピーターパン(ピーター=猪塚、触れたモノ達=他の3人)<代官山 蔦屋書店スペシャルSeason.1より>
ピーター:眠りから醒め
瞳(め)を開けたまま夢を見ようとした時
そこには太陽があった
まぶしさに触れたくて手を伸ばしたら
突然気がついた
光が影を作っていたんだ と
太陽のある国で生きていく限り
憂鬱な影が纏わりつくのは仕方ないんだ と
これは真理だ!
こんなところに転がっていた
僕は興奮した
影から逃げる強迫観念がなくなって
輝くモノにもっと触れたくなった
輝きはきっと神様が付けた目印だ
眩しさに惹(ひ)かれて近づくと
そこには何かが隠されている
知りたかった答えや
『次』を開くための鍵や
自分の背中が見える魔法みたいなモノが
輝きの目印はあちこちに点在する
煙突屋根にも 暗い密林にも
ウェンディ自慢のパンプキン・スープの中にもある
心が怠けていなければ
双眼鏡は必要ないんだ
それはまるで〝秘宝(おたから)発掘ゲーム〟
楽しんでいるうちに自然と心が強靭になる
宝を10個集めると精神レベルが1upして
いつか賢者になれるかも知れない
僕は今までに触れたモノを思い出し
学んだことを整理してみた
① 月に照らされた夜の鏡
――僕が見ているのは右に心臓のある自分
人は永遠に本当の自分を観察できない
② 朝露に濡れた薔薇の蕾(つぼみ)
――何百というアブラムシが絡みついていた
人間の思いも寄らない場所にも
この星の営みがある
③ ウェンディが忘れていった銀のピアス
――あんなに注意深いのに?なぜ…
秘密を咎めるようにそれは
バスルームに置かれていた
④ 夜も眠らないSHINJYUKUの電飾
――知らなかった…イルミネーションが
集う人々の淋しさに引火して
闇を燃やしていたなんて
何だか哀しくなってきた...
⑤ 工場跡の瓦礫でキラキラしていた金属
――拾いあげると遠くで悲鳴が聞こえた
...散弾銃の部品(パーツ)だった
賢者を気取って
僕はいったい世界の何に触れようとしたのか?
ここにあるのは
光に隠蔽(いんぺい)されていた醜い現実じゃないか!
僕は焦った
そしてもう一度 太陽に触れてみた
めいっぱい背伸びをして強烈な光を浴びると
いつものように
漆黒の影が僕を地面に縫い付ける
輝きは神様が付けた目印だ
眩しさの中にはいつも何かが隠されている
答えや警告や
『次』を開くための鍵に変わるモノもある
でもそれは
魔法のように都合のいいモノばかりじゃない
絶望の破片や どうしようもない孤独や
迷路への招待状も紛れ込んでいる
それらは容赦なく僕達に挑みかかってくる
影はキャプテン・フックの鉤爪の形になり
僕達の弱さを執拗に責め立てる
幾重にも傷ついた心が
賢者の筋肉になるんだと言わんばかりに
それでも僕は輝くモノを抱きしめるだろう
パンプキン・スープが冷めてしまう前に
ニュースが昨日の自殺者の数を報じる前に
鉛の影を引きずったまま
それでも僕はもっと知りたいと願うだろう
この世界の総(すべ)てと
その総ての外にある無限の可能性について
たぶんそれが
太陽のある国で
瞳(め)を開けたまま夢を見る
たったひとつの方法だからだ
《for your ears only ver.》
1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。
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スタッフX: https://x.com/yukinojo_news