森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』

SOKO に居た(森雪之丞)<代官山 蔦屋書店スペシャルSeason.1より>


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SOKO に居た(森雪之丞)<代官山 蔦屋書店スペシャルSeason.1より>


俺は S O K Oに居た

1 9 9 0 年のイタリアに居た
異端者達の集うカフェで
イタチゴッコを繰り返す警官とスリの間に居た
委託された若さを使い切れずにいた
痛みがコメカミを襲うたび
徒(いたずら) に白い粉を買いあさり
傷んだホテルの階段で売女(ばいた)を抱いた

俺は S O K Oに居た

蒸し暑い午後の伊丹空港に居た
板谷佐織という女が隣に居た
自分の身体には巫女(いたこ)の血が流れていると言っていた
その夏はイタコロカイカイが大量発生した年で
踏みつけると黄色い体液が飛び散り
虎杖(いたどり)の様な花がスニーカーに咲いた

俺は S O K Oに居た

いたたまれない恋に板谷が泣いた
最後のセックスの絶頂(いただき)で
俺は彼女のいたいけな睫毛をライターで焼いた
「痛ましい事件だ」と共同通信(ロイター)が書いた

壁から剥がれかけた日本地図の
自分が『居た』場所にピンを刺してみる
俺は S O K Oに居た…そう呟きながら
黄金色の『点』を増やしてゆく
S O K Oに居たことだけが事実で
どんなに愚かであっても無実で
その戻らない時間こそが果実だったと思う

まだソ連が存在する地球儀に
マーカーで印を付けてみる
俺は S O K Oに居た…そう呟き続けると
『点』はやがてスペースを拡げ『面』になる
偶然に現れた『面』は顔のように見える
自分が何者かわからないまま生きてきたけれど
きっとこれが俺の顔だ
曖昧な時間の中に出来事という『点』を打ってきた
俺の顔だ

俺は S O K Oに居た
居たリアに居た
居た丹(み)空港に居た
居たん者の横に居た
居たチゴッコの間に居た

居たみの中にも居た
居た谷(や)佐織の心に居た
居た女(こ)の血に浮かんで居た
居た杖(どり)が咲居た
居た頂(だき)の途中で未来を裂居た
居たたまれない居たいけな居たましい
居たずらをラ居ターで焼居た
そして 居たいになった恋のそばに
ずっと佇(たたず)んで居た


1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。
メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

森雪之丞 自選詩集『感情の配線』
2024年1月14日(日)発売
特設サイト:⁠https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/⁠

ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩森雪之丞
スタッフX:⁠⁠⁠⁠ ⁠https://x.com/yukinojo_news

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森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』By 森雪之丞