今回と次回でワンヘルスについての話をします。これまでワンヘルスの重要性は指摘されていましたが、新型コロナウイルスを機にますますその重要性が高まっています。ワンヘルスというのは人の健康と動物の健康と自然環境の健康と、その3つを1つの集合体として取り扱う考え方です。今日はワンヘルスという考えが必要になった背景、人獣共通感染症について詳しく話します。
人と動物に共通する感染症のことを人獣共通感染症といいます。もう少し具体的に言うと、同一の病原体、たとえばウイルスや細菌などによって人から人はもちろんですが、人から人以外の脊椎動物や、人以外の脊椎動物から人へ感染する病気のことです。この人獣共通感染症は人の感染症の約60%を占めていると言われており、WHO世界保健機関で確認されているものだけでもなんと200種類以上もあります。
身近な例でいうと今でも感染者が出ている新型コロナウイルスがこれに当てはまります。新型コロナウイルスは中国の武漢の海鮮市場で動物から人に伝染し、その後人から人へ感染したという説が有力です。ただどのように動物から人へ種を越えた感染が起きたかというのは未だに直接的な証拠がなくよくわかっていません。
少し前の話ですが狂牛病を覚えていますか。これも人獣共通感染症の1つとされています。これは1986年にイギリスで発見された牛の病気ですが、正式名称は牛海綿状脳症といって異常プリオンといわれるタンパク質が牛の脳内に蓄積してそれに感染した牛は神経過敏になったり攻撃的あるいは沈鬱状態となって、乳量の減少であったり食欲減退などによって消耗し、最終的に死に至るという怖い病気です。この病気はどうやって伝播するかというと、それまで肉骨粉、家畜を処理する際に出るくず肉や骨、内臓、血液等を加熱処理して乾燥させて粉末にしたものをいわゆる家畜の牛のえさとして使用していました。狂牛病はこの感染牛から作られた肉骨粉を感染していない牛にエサとして与えたところ、エサを食べた牛の感染が認められたということです。これは牛と牛の間だけではなく、狂牛病に感染した肉を食べた人間が狂牛病の人バージョンともいえるクロイツフェルト・ヤコブ病という病気に罹患したことが、狂牛病が大きくとりあげられた理由です。通常肉骨粉は加熱処理される段階で完全に殺菌されるんですが、これの原因物質である異常プリオンタンパク質というのは加熱処理や化学殺菌などの処理にも抵抗性があり、いわゆる生肉から飼料、エサを製造する工程を経ても感染力が無くならず、結果それを食べた牛なり人なりに感染が広がっていきます。本来牛は草食動物、草を食べますが、生産性を高める安価な方法として栄養満点の動物性タンパク質である肉骨粉を与えることで栄養が早くつくというものでした。しかし、これを機に日本を含め世界各国で家畜牛に動物性由来成分をエサとして与えることを法律で禁止しています。じつは今でも日本では家畜牛のエサは全て植物性のものです。草やトウモロコシや大豆。人獣共通感染症が我々の生活に大きく影響を与えた事例の1つです。
狂牛病は食べ物を介しての伝播でしたが、他にどのような伝播の仕方があるかということについて話します。伝播には大きく分けて直接伝播するものと間接的に伝播するものの2つの方法があります。直接伝播は実際動物とかに噛まれたりなめられたり引っかかれたり、あとは動物の排泄物や体液などに触れることによって伝播するものがあります。代表的なのは狂犬病がこれにあたります。一方、間接伝播はダニ類、蚊、蝿、蚤など病原体を媒介する虫によるものや、汚染された水や土などから媒介するもの、そして狂牛病のように動物性の食品から媒介するものが挙げられます。蚊が媒介するものとしては日本脳炎やデング熱、蝿が媒介するものとしては、これも昔大変報道されましたが、O157などが挙げられます。
それは動物にも罹る病気が実はこういう虫などを介して人にも罹ってしまうという非常に怖い病気です。これまで皆さんが聞いたことがある感染症は実は人獣共通感染症が結構多くあります。人獣共通感染症は人だけを気をつけてもだめですし、動物だけを気をつけてもだめで、人と動物、そしてそれらをとりまく生態系全体の環境、健康を考慮した対策が必要になります。この考えに基づいて、全ての健康を追求する取り組みをワンヘルスといいます。これについては次回詳しく話します。
今日のまとめです。人と動物に共通する感染症は人獣共通感染症と言われ、新型コロナウイルスもこの1つです。人獣共通感染症は人が動物に触れることによる直接的な伝播や、虫や食品を媒介して感染する間接的伝播があります。人獣共通感染症への対策を講じる上で人、動物、生態環境を一体として考えるワンヘルスの概念が重要になってきます。