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物語を読む⑥小6国語「やまなし」


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「クラムボンはわらったよ。」
「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」
かつて書物は声に出して読むものであり、物語とは文字通り「物」を「語る」ことでした。それが近代になり短時間で学習・情報収集するための読書が一般化したことで、読書はふつう黙読で行うものになりました。ところで、声に出して読むことを音読、または朗読と言います。音読は文字を音声に変換することだとして、朗読とは何でしょう。
『花もて語れ』という漫画があります。片山ユキオ・作、東百道・原案、テーマは朗読です。社会人一年目の女性が、ひょんなことから朗読の才能を見出され、その魅力に目覚めていくという異色ストーリーの第一巻で、主人公はある引きこもりの女性のために朗読することになります。その際に読まれた作品が、小六国語教科書にも掲載されている宮沢賢治の「やまなし」です。
『やまなし』は、谷川の底の蟹の兄弟が目にした生き物たちの世界を描いた作品です。宮沢賢治には、一読した後に読者が、「で、だから何・・・」と言いたくなる作品がよくあります。起承転結のはっきりした他の作家の児童文学に比べ、主題のよく分からない、不思議な物語が多いのです。「やまなし」も、作者の意図した主題が捉えにくい作品で、「かぷかぷ」わらう「クラムボン」なる正体不明の存在が登場し、わらったり、殺されたりします。
この捉えどころのない作品が、「花もて語れ」の主人公によって朗読される時、物語とは朗読されなければならないものであることが、痛切に理解されます。主人公は、『やまなし』冒頭の「クラムボンはわらったよ。」というセリフを蟹兄弟の兄、「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」を弟の声音で読みます。更に、1cm大の彼らの視点で地の文を読み、水深30cmの川底を、人間なら30mに見える深い水中世界として再現します。そして、その「読み」の根拠を問われると適格に回答し、「クラムボン」とは何かにも答えを出します。
「一行たりとも意味が分からなければ朗読はできない。」この漫画はそう伝えます。それは、正しい朗読ができるようになった時には、既に本文の読解は達成されているということを意味します。もちろん、解釈は一つではありません。ですから正しい読解とは、作品を譜面としてその物語世界を再現する、無限の数の優れた朗読のことだと言えるのかもしれません。
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考える塾 in TAIPEIBy Takashi Jome


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