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心と脳の帳尻 第八回「自己奉仕バイアス」デイヴィッド・マクレイニー『思考のトラップ』より


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世界の中心はどこかと言えば、間違いなくそれは「あなた」です。世界で一番優れた人間は誰かと言えば、それも間違いなく「あなた」です。もちろん、「あなた」なんかいなくても地球は周り、「あなた」より能力の高い人はあらゆる領域で星の数ほどいるでしょう。それでも「あなた」は自分を最も高く評価する「自尊心」という生物学的仕組みを脳の中に持っています。
人は、何かに成功した時は自分の力によるとし、失敗した時は他人や状況や世界や神のせいにします。生物として自己の生命を守るため、精神において自尊心を保とうとするこうした思考は「自己奉仕バイアス」と呼ばれます。
自分は他の人より有能で、正義感が強く、愛想がよく、頭がよく、魅力的で、偏見がなく、若々しく、運転がうまく、親孝行で、平均寿命より長生きする。あるいは、そんなことを思うほど愚かでなく、自分の無能や無知を誰よりもよく自覚している。私たちはほとんど全員そう思っています。こうした考えも「自己奉仕バイアス」から生まれる傾向で「優越の錯覚」と言います。過去の自分は現在の自分より愚かで、未来の自分より現在の自分のほうが大事に思えるのも、同類の思考です。
外交やビジネスでは、交渉で双方が契約内容の解釈を巡って後になって揉めることがあります。どちらも自分にとって都合の悪い部分を見ず、都合の良い部分を膨らませてしまうため、異なる二つの内容が一つの契約として成立してしまうのです。相手のことを騙しているのではなく、これも自分を巧妙に騙すバイアスのせいだと言えます。
社会に自分と対立する意見を持つ人たちがいる時に、「彼らはメディアやネットに騙されている」と、子どもや若者や他国民などの愚かな想像上の第三者が、自分なら騙されない誤った情報に影響されることを警戒し、情報規制を求めてしまう「第三者効果」も、同じ「自己奉仕バイアス」の一つです。
人間の自己中心性を表す脳の傾向の一つとして、「スポットライト効果」というのもあります。1996年にコーネル大学で、被験者にひどく派手なTシャツを着せて教室に入っていかせるという実験が行われました。本人は教室の半分ぐらいの人が自分を見ていたと感じましたが、アンケートを取ると25%ほどしか気付いていませんでした。電車やお店の中で失策をした時、ニキビのある時、体重の増えた時、周囲が自分を見ているように思うことがありますが、本人が思うほど他の人は「あなた」のことなんか見ていないということです。
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考える塾 in TAIPEIBy Takashi Jome


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