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「心と脳の帳尻」第二回<藁人形論法>デイヴィッド・マクレイニー『思考のトラップ』より


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あまり仲の良くないAさんとBさんが天気の話をしていました。Aさんは「私は雨の日が嫌いだ」と言います。それに対してBさんは「雨が降らなかったら干ばつで農作物は枯れるし、ダムは枯渇する。食べるものも飲むものもなくなって人間は餓死するが、君はそれでも雨が無くなった方が良いと言うのか」と答えました。
Bさんのこのような議論の仕方を「藁人形論法」と言います。Aさんは「雨が嫌いだ」と言っただけで、「雨は無くなった方が良い」などとは言っていません。相手の言葉尻を取って、相手が言ってもいない立場を藁人形のようにでっち上げて攻撃する、すり替えの論法です。これをやられたAさんは、意図せず人類破滅のシナリオを支持する立場に立たされてしまったわけです。
論理的矛盾を抱えている状態は私たちにストレスを感じさせます。動物は、運動神経を働かせて肉体にかかる負荷を解消したり回避したりしますが、人間の言語に関わる神経も、様々な概念の論理的な矛盾によって脳にかかる負荷を解消しようと、考えたり、議論したりします。そして、それがなかなか解消しがたいものだったりすると、無茶な論理を展開してでもスッキリしたくなったりします。
そうした無茶な論理は一般に「詭弁」と呼ばれます。特に他者との議論においては、論理的矛盾の解消だけでなく、プライドの損傷回避も神経活動の大事な目的となり、相手に負けないために論理的無茶度が上がりがちになります。そんな詭弁の一つとして人がよく使う論法の一つが「藁人形論法」です。
日本で憲法改正議論をする人に、「お前は徴兵制を復活させたいのか!」と攻撃する左派の人、選択的夫婦別姓を唱える人に、「お前は伝統の破壊と家族の解体を目指すのか!」と声を荒立てる右派の人。これら政治的議論において「藁人形論法」は盛んに使用され、テレビでも国会でもよく目にする機会はありますが、政治家やコメンテーターばかりでなく、日常的にも私たちは気づかぬうちにこの論法を使い、使われているものです。
論理のすり替えには、「人身攻撃」といって、前科のある人や、不適切発言の多い政治家との議論で負けそうになった時に、相手の意見ではなく、その人格に攻撃目標をすり替える論法などがあります。これには、尊敬する人間の議論を中身と無関係に支持してしまうという逆の危険性もあります。
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考える塾 in TAIPEIBy Takashi Jome


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