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心と脳の帳尻 第九回「カタルシス」デイヴィッド・マクレイニー『思考のトラップ』より


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心の中に怒りをためておくとストレスになるから、適度に放出するべきだ、とよく言われます。サンドバッグを怒りの対象に見立てて思い切り殴ってみたり、ゲームで敵を倒しまくったり、物を壊したり、時には直接大声で怒鳴ってみたり。そうやってガス抜きをしてスッキリしておかないと、怒りはどんどん膨らんで頭がおかしくなってしまう、と言われます。でも、実際は?
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、師のプラトンが詩や演劇は人々に愚かさを吹き込み、心のバランスを失わせると唱えたのに対し、むしろ逆だと反論しました。彼は、人が悲劇にあがき勝利に導かれるのを見れば、観客は代償性の涙を流し、興奮し、感情を吐き出して心のバランスを取り戻すと考えたわけです。人々の心に対する詩や演劇のこうした浄化作用を「カタルシス」と言います。
近代心理学の父フロイトも、精神分析によって心中の抑圧された恐怖や欲望、未解決の口論、癒されなかった傷を発見し、それを外に出すことで汚染された心を浄化しようとしました。
しかし、実は放出しても怒りは消えず、逆に増幅するようです。アイオワ大学の心理学者ブラッド・ブッシュマンは、ガス抜きが本当に役立つか実験しました。まず、学生を3つにグループ分けし、①には中立的な論文を、②には怒りの放出は有効という論文を、③には怒りの放出は無意味という論文を読ませます。次に、感情を喚起しやすい妊娠中絶についての小論文を賛成か反対の立場で書かせます。そして、その論文の半分を「すばらしい」と称賛し、半分は「ひどい作文」と侮辱します。その上で、彼らに今やりたいことを選択させると、②のグループで侮辱された学生は、①と③のグループで侮辱された学生より、サンドバッグを殴りたいと答えた割合が多くなり、褒められた学生は非攻撃的な活動を選びました。更に、侮辱された学生を二つに分け、片方にはサンドバッグを殴らせ、もう片方には2分間じっと座らせました。そして、侮辱した人を相手に、勝てば相手へ大音量を浴びせられるというゲームをさせると、前者は音量レベルを最大にし、後者はレベルを小さくしました。
実験は、怒りの放出が有効だと思えば怒りっぽいキャラになり、実際に放出させると攻撃性が増すことを示しました。怒りの放出や発散には麻薬的快感がありますが、それはむしろ怒りを表に出しがちな性格を作るだけです。
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考える塾 in TAIPEIBy Takashi Jome


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