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心と脳の帳尻 第七回「感情ヒューリステック」デイヴィッド・マクレイニー『思考のトラップ』より


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プラスとマイナス、○と×、「良いもの」と「悪いもの」、何かとっさに判断しなければならない時、人はこうした二項対立または、瞬間の好き嫌いで決断します。理性的で数学的で合理的で計画的な思考はコツコツ頭を使い、頭の容量を必要としますが、不合理で感情的で本能的な直観は電光石火に決断でき、時間も労力も不用です。私たちは、できるなら全て楽に済ませたいので、二項対立的な思考、二進法的な行動に傾くようです。
ネズミは毎日体重の約15%の餌を必要とし、危険を冒して探し求めます。危険と報酬を天秤にかけ、進むか退くかの二者択一を迫られる状況で、彼らは餌を求めて走り、ネズミ取りに捕まります。理性的に判断するとか、経済的な利益と身体的損失を慎重に分析するとか、そんなことができない原始的な脳でネズミは生きていますが、大脳新皮質が発達しているはずの人間も実際には同じ行動原理、進むか退くかの二者択一を、感情という形式で保持しています。それは、「良い」「悪い」を概念的に思案して判別するというより、「選ぶ」「選ばない」を考える前に決断してしまう機能です。
1982年、有能な会計士だったエリオットという男性が、眼窩前頭皮質にできた腫瘍摘出の手術をきっかけに、この機能を失いました。その結果、彼は朝着るシャツを選ぶにも、理性をフル活動してどれが最も適正か永遠に考え続けて溜息を漏らす人間になりました。どんなに合理的な思考が優れていても、感情が無ければ決断はできません。
生存本能に基づく感情的決断力は、私たちの生活に欠かせないものですが、「選ぶ」か「選ばない」、「良い」か「悪い」という二進法が、人の合理的判断にバイアスをかける時、それは「感情ヒューリステック」と呼ばれます。
天然ガス、食品保存料、原子力発電について、どれぐらい危険でどれぐらい有用かを十段階で評価するという心理実験がありました。最初の評価の後、被験者を二つのグループに分け、一方には危険について、もう一方には利点についての資料だけ見せて再び評価させると、当然のように前者は危険の点を上げ、後者は有用の点を上げたのですが、同時に前者は有用の点を下げ、後者は危険の点を下げたのでした。資料的根拠は無いのに、自分の選択を正当とするため、逆の選択が不当となるよう点数に差を付けた訳です。
合理的に判断すれば簡単には是非を決められない問題なのに、反対意見に猛烈な批判を下せる人は、感情ヒューリステックの二進法に陥っています。
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考える塾 in TAIPEIBy Takashi Jome


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