考える塾 in TAIPEI

心と脳の帳尻 第十一回「消去抵抗と学習性無力感」デイヴィッド・マクレイニー『思考のトラップ』より


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等速直線運動をする物体の速度を大幅に速くしたり遅くしたり停止させたりするには、大きな力が必要になります。同じように、動物の習慣化した行動を大幅に変えるには、大きな荷重を神経系に加えなければなりません。人間だって、ダイエットや禁煙はそれまでの習慣を大きく変えることなので、ある一定以上の力が必要になります。それは、習慣を維持しようとする「消去抵抗」を上回る力です。
動物の習慣的行動は、条件づけによって形成されます。条件づけとは、「こうすればああなる」という因果を学習させることです。特に「これをすればあれがもらえる」「これをしないとあれがもらえない」というように、報酬や罰によって自発的な行動が強化されることは、オペラント条件付けと言います。心理学者のバラス・スキナーは、このオペラント条件付けにより、ネズミにレバーを押すと餌がもらえることを学習させたり、鳩に単語を覚えさせたり、複雑な仕事を条件づけることに成功しました。そして、人間の行動もすべて条件づけによるもので、合理的思考によって行われるのではないと考えました。
一度条件づけられた行動も、報酬が与えられなくなれば行われなくなるのですが、すぐには消去されません。給料をもらっていた社員は、給与がもらえなくなっても、ではさようならとすぐに会社を去りはせず、労働者の権利を守ろうと戦います。おいしいケーキを毎日食べていた人も、ダイエット開始の2,3日後には全身が抵抗を始め、再びケーキを食べてしまいます。身体に条件づけられた習慣を消去するには、この抵抗力を超えなければならないわけです。
習慣は甘い報酬による強化で形成されますが、一方で、どんなに抵抗しても自分では取り除く術がないと思われる苦痛が続くと、動物は抵抗するのをやめて「学習性無力感」に陥るようです。
1965年にマーティン・セリグマンは、ベルを鳴らすと電気ショックが加えられるという条件づけを、抵抗できない状況で犬に行いました。その後、フェンスを越えて隣の部屋に行けば電気ショックを回避できるようにしたのに、ベルを鳴らしても犬は身をこわばらせながら電気の痛みに耐えていたそうです。
自力では解けないような課題を与え続けると人間も諦念を持ち、挑戦することをやめてしまいます。この習慣を絶つ方法は、小さくても解決できる課題と解決する経験を持たせ、無力感をはね返す力を取り戻させることです。
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考える塾 in TAIPEIBy Takashi Jome


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