考える塾 in TAIPEI

「心と脳の帳尻」第一回〈ブランド忠誠心〉デイヴィッド・マクレイニー『思考のトラップ』より


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アメリカのベイラー大学で、無印のコップにコカコーラとペプシを注いで被験者に飲ませ、脳をスキャナーで測定する実験を行いました。すると、スキャナーの表示からはペプシをおいしく感じたと判断されたのに、今飲んだのはペプシだと告げられると、脳から快感の信号が消え、どちらがおいしかったかという質問には、コカコーラの方がおいしいと答えた人たちがいたそうです。彼らコカコーラの愛好者たちは、初めの快感に対しては嘘をついていると言えますが、全ての後では本当にコカコーラの方がおいしいと感じています。つまり、コカコーラに対する忠誠心により、その感情に合わせて脳が記憶を書き換えたため、味覚ではペプシをおいしく感じたのに、自分自身にそれを認めることが出来なくなったわけです。
こうしたブランド忠誠心は、どうしても必要なわけではない商品で、しかも高額になればなるほど強くなります。なぜなら、それを選択したということを正当化しなければ、自己イメージに傷がつき、心に矛盾が生まれ、神経に負荷がかかるからです。
大事なのは、MacとWindows、iPhoneとAndroid、サムスンとソニー、どちらの製品がどれだけ優れているのかではなく、自分はそれを所有する様な人間なんだぞと、思えることです。「自分がいま持っていないものに比べ、持っているものの方を好ましいと思うのは、そもそも買うときに合理的な選択をしたから」ではなく、「自分の持っているものを好ましいと思うのは、自己意識を守るために過去の選択を合理化しているから」ということです。脳は出来るだけ身体に加わるストレスを取り除こうとし、常日頃、私たちの心をうまくだましてくれているわけです。
ブランド忠誠心は、車や服や家具やアクセサリーなどの商品に限りません。本や映画や音楽、スポーツや趣味、右か左かといった政治的信条など、それに費やした時間や労力が無駄なものだと思えないように、脳は私たちの過去の選択を合理化し、心の帳尻を合わせてくれます。それがどんなに優れているか人に主張することで、私たちは自分を説得し、納得させているのです。
脳の感情中枢が損傷し、論理でしか行動できない人は、どのブランドのシリアルを買うかという簡単なことも決められず、考え込みます。私たちの選択は多くの場合、過去の理性的判断の結果ではなく、偶然の出会いに伴う感情の高揚が決定し、脳が言葉でそれを整合化する仕組でできているようです。
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考える塾 in TAIPEIBy Takashi Jome


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