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意識と神経とアルゴリズム 第四回『内部モデルと共感覚』デイビッド・イーグルマン「あなたの脳の話」より


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ハンナ・ボスレーという女性は、アルファベットの文字を見ると色を感じるそうです。Jには紫を感じますが、Tは赤く見えます。Hannahという名前なら夕日のように見えます。黄色で始まり、だんだん赤色になったあと、雲のような色になり、また赤と黄色へと戻るという具合です。一方で、Iainという名前などは嘔吐物のように見えてしまいます。これは共感覚と呼ばれる現象で、感覚や概念が混ざり合って経験される状態です。右の例以外にも、言葉に味がする人や、音に色が見える人などがいます。
私たちが見たり聞いたりしているものは、視覚や聴覚や味覚が捉えた光波や音波や分子が電気化学信号に変換され、脳の神経ネットワークで流通された結果生じる内部モデルです。人口の約3%いると言われる共感覚者の脳は、感覚領域間で信号の交じり合いが生じるようになっているため、他の人たちとは異なる内部モデルを作り出すのです。
人間は、周囲の世界には色があるものだと思って暮らしていますが、実際には外部世界に色はなく、電磁放射線の一部が物体に当たって反射したものを私たちの目が捉え、脳が何百万という波長の組み合わせを色として解釈し、内部モデルを作って色の経験が生まれるのです。しかし、人間の視覚でとらえられる可視光線は電磁スペクトルの十兆分の一にも満たず、赤外線や紫外線、電波、マイクロ波、X線、ガンマ線、携帯電話の会話、ワイファイなどは、私たちを素通りして色を生成しません。これらを捉える生物学的受容体がないためですが、他の生物もそれぞれに限定された異なる現実の一片を捉えて自分たちの現実モデルを作っています。ダニなら温度と体臭を、コウモリなら空気の疎密波の反響定位を、ブラック・ゴースト・ナイフフィッシュなら電場の摂動を基に現実を作るわけです。
時間もまた、脳が生み出す現実です。高いところから落下したり、自動車で衝突事故を起こしたりした瞬間、私たちは時間がゆっくりと進むように感じることがあります。内部モデルは新しい情報を入手する必要がない限りアップデートせずにカロリー消費を抑えているのですが、危険な状況では一瞬の間に通常の何倍・何十倍も外部の情報が更新されるため、その情報量が時間に変換して感じ取られ、時間が延びたように感じるのです。情報量が時間感覚を作り出すのです。
さて、日本語には、「つるつる」とか「ごつごつ」といった様子を音声として捉える擬態語がたくさんありますが、これは民族的な共感覚と言えるのかもしれません。
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考える塾 in TAIPEIBy Takashi Jome


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