鈴木晴香『夜にあやまってくれ』
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脇役の多い映画を見た後は悲しみが誰かに似てしまう
空の青ではないポリバケツの中に持ち手の方が綺麗な花火
↪︎ 分け合った炭酸水が体液になるまで君を見送っていた
うつ伏せた鏡は床の傷跡を一晩中映しているだろう
↪︎助詞の抜きかたに共感が持てる
君のいる世界に生きているなんて思えないよ それなのに雨
↪︎ もう一度ふたりが出会う世界では君から先に私を見つけて
戻るならどこまで戻ればいいのだろう歯の裏を確かめるような舌
氷より冷たい水で洗う顔うまれる前は死んでいたのか
降る雪は白いというただ一点で桜ではない
君に会いたい
一両で走る電車を風と呼ぶそう決めたひとりの多数決
一息で開けているツナの缶詰の底は寒いラブホテルの匂い
↪︎ 歌舞伎町で暴行されて鼻腔から冬のディズニーランドの匂い
中山俊一『水銀飛行』
今そこで眼鏡を外してみせろって電話の向こうの言うまま外す
(※1)
交番の前では守る信号の赤が照らしている頬と頬
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貪欲な兎をゲージに飼っておくそういう罪を毎日犯す
「ケージ」じゃなく?
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※1
歌集では実際にはこの歌は【真夜中の電話は躰に良くないと君は電波を震わせて言う】の次にある一首なので、電話をかけてきているのは【君】と呼ぶのが妥当なのだろうが、僕は自分がよりこの眼鏡の歌にうっとりするためにそこには目をつぶっている
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友達の遺品のメガネについていた指紋を癖で拭いてしまった
岡野大嗣『サイレンと犀』