市場の風を読む

注目の米雇用統計


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米国の8 月の雇用統計が近く発表されます。今回は、モルガン・スタンレーのCIO兼米国株チーフストラテジストのマイク・ウィルソン(Mike Wilson)が、なぜこの指標が強い数字になることが求められているのか、また、そうならなかった場合に市場で何が起こり得るのかについて解説します。

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----- トランスクリプト -----


「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

本日は弊社CIO兼米国株チーフストラテジストのマイク・ウィルソン(Mike Wilson)が、目先の資産価格に対する経済指標の重要性について解説します。このエピソードは8月27日にニューヨークで収録されたものです。

英語でお聴きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

株価は8月5日に直近の安値をつけてから上昇基調が続いています。この期間、米失業保険申請件数、ISMサービス業購買担当者指数など、いくつかの経済指標が市場予想を上回りました。こうした値動きは、短期的にはリスク資産が今後も成長に関する観測頻度の高いデータに反応し続けるという見方を裏付けるものです。以前弊社が算出した米S&P 500株価指数のフェアバリューのレンジは5,000-5,400ですが、成長に関する経済指標の改善が続けば、相場はこれを上回る水準を維持することも可能になるでしょう。

私の見解では、市場にとっての本当の試練は、9月6日に発表される8月の米雇用統計です。

就業者数が予想を上回り、失業率が低下すれば、市場は成長リスクが差し当たり後退したと自信を持てるようになるでしょう。一方、今回も弱い内容で、失業率の一段の上昇が明らかになれば、成長懸念が再び素早く表面化し、先月のような株価調整につながる可能性が高いと考えられます。心配なことに先週、今年3月までの12ヵ月間の就業者数が予想より大幅に下方修正されました。この下方修正により、次の雇用統計の改善圧力はさらに高まっています。

一方、ブルームバーグの経済サプライズ指数は4月以降の低迷をまだ脱しておらず、シクリカル銘柄はディフェンシブ銘柄との比較で下降傾向が続いています。これについて我々は、経済成長が実際に改善していることを示す証拠がより多く見られるまで、ポートフォリオ内でディフェンシブセクターを選好するのが理にかなっているという見方を支持するものだと考えています。また、先週発表の物価統計は軟化を示しましたが、これは価格決定力の低下を意味することから、比較的クオリティの低いシクリカル銘柄にとって明確な支援材料になるとはみていません。

ただ、物価統計が望ましいものとなったことで、FRB(米連邦準備制度理事会)による9月の利下げ開始が実質的に確定したのは事実です。現時点でまだ議論されているのは、どれだけ利下げするか、ということだけです。

この1年、FRBの金利を巡る市場の期待は揺れ動いてきました。今年初めには年内に25ベーシスポイントの利下げが7回あると織り込まれていましたが、4月までにはこうした予想がほぼなくなりました。現在は年内にほぼ4回相当、25年には5回の追加利下げが織り込まれています。最初の利下げが25ベーシスポイントになるか50ベーシスポイントになるかを巡る予想を反映した債券市場の動きは、今月かなり激しくなっています。直近では、先週の経済成長・インフレ指標が予想を上回ったことで、市場は25ベーシスポイントの利下げを予想する方向に傾いています。

ここ数週間で分かったことは、労働市場の低迷と時を同じくした50ベーシスポイントの利下げを株式市場は必ずしも望んでいない、ということです。こうしたシナリオの下では、利下げはもはや保険ではなく、ハードランディングのリスクを防ぐために必要な措置とみられる可能性があります。つまり、今後は安定成長とともに25ベーシスポイントの利下げが繰り返される状況が、株価にとっては最適といえるのかもしれません。

難しいのは、PER(株価収益率)は21倍で、コンセンサス予想が既に今年10%、来年15%の企業利益の増加を見据える中で、極めて健全な増益率を伴ったソフトランディングという結果はもう織り込まれている、ということです。さらに、今回の利下げサイクルを見越して長期金利は4月以降、既に下落しています。それでも経済のサプライズは少なくなり、金利敏感株はアンダーパフォームしています。こうした状況は、利下げが始まっても根本的には何も変わらないのではないか、という疑問を抱かせるものだと私は考えます。

別の見方をすれば、ディフェンシブ銘柄は相対的な上昇傾向が続いています。これは株式のリスクプレミアムの正常化と同時期に起こった動きです。弊社では市場のうわべでは見えない部分にチャンスがあると引き続き考えています。経済成長がはっきりと再加速し、そのペースは企業の業績見通しが再び高まって既にバリュエーションに織り込まれている高い期待を超えられるほどであることを示す証拠がもっと多く入手できるまで、我々はクオリティ株、ディフェンシブ株を引き続き選好します。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)お楽しみいただけたでしょうか? もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

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市場の風を読むBy Morgan Stanley