前回は2つの会社について考えながらフィット感の話をしていましたよね。FM福岡重工とFM福岡AIという全く違った2つの架空の会社を想定していました。この重工の方は、成熟した鉄道車両市場でトップの位置にある。それを維持していくという戦略でした。一方でFM福岡AIの方は、急成長しているAIの市場に一刻も早く参入して自分の独自のポジションを作っていきたいという全く違った戦略をもっている2つの組織でした。そのため、組織構造も人事評価も違いました。FM福岡重工の方は、重層的ないわゆる大企業的なピラミット構造で、着実に慎重に仕事をする人を評価する、こんな組織体系であり、一方でFM福岡AIの方は、フラットで権限委譲が進んだ組織構造で、リスクをとりながらガンガンチャレンジする事を評価するような人事評価体系をとっていると考えられました。この両社の違いというのは、両社がおかれているビジネスの環境、そしてそれに基づく戦略の違いに起因しているという話でした。今回はこの続きとして、戦略と組織がフィットしていない話をしてみたいと思います。
前回の昨日の例で、仮にFM福岡AIが鉄道を造っているFM福岡重工のような組織構造や人事評価をしてみたらどんな事が起きると思いますか。この成長市場を狙った世界中から腕っ節の強い企業がどんどん入ってくる中で、ガチガチ競争をすることになります。ライバルを見ると、リスクをとってチャレンジする企業ばかりです。その中で、慎重に着実にかつピラミット構造の会社が中々勝てる感じがしません。商談においても、ライバル企業が「いきましょう」と言っている中で、「分かりました。1回本社に帰って課長の了解をとってきます。」と言うことになります。これでは難しいです。
今の話が大げさに聞こえるかもしれませんが、実はこのように戦略と組織がフィットしていないケースは意外と多いです。大企業の新規事業プロジェクトが中々上手くいかない場合、理由の大半が戦略と組織がフィットしていないからなのです。最近、イノベーションだと言われている中で、多くの会社が新規事業開発部や新規事業何とか室のようなものを作っています。元気で若手が集まってやるぞと言っていますが、中々上手くいかない。これはなぜかと言うと、その新規事業を担当する組織が既存の事業の組織とあんまり変わらないからなのです。その新規の事業に対してフィットしてないのです。新規事業なので本当に競争が激しいです。ライバルを見るとこれまで会った事もないような、スタートアップやベンチャー企業がガチガチの真剣勝負をしてきます。こうした競合を見ると、戦略と組織がフィットしています。つまりフラットな組織構造で、リスクをとってチャレンジする連中ばかりなのです。さっきお話した通りに、商談にくるとすごく若い担当なのに「分かりました。これでいきましょう」と言えるのです。一方、大企業の方を見ると、新規事業を作って、新規事業の責任者を仮に部長としましょう。しかし、1人の部長なので、つまり部長の上に多くの決裁者がまだいます。ですので、新規事業部の例えば年間のプランを作る、一定以上のお金を使う時というには、この部長は自分で決める事が出来ず、もっと偉い人が集まった例えば経営会議などで承認が必要ということになってしまいます。
ライバル会社を見ると、小さい会社ですが相手は社長です。だから全部自分で決める事が出来ます。更に悪い事には、大企業の経営会議は月に1回か2回しかないです。そうすると、この新規開発の部長は、大きな意志決定をしようと思うと月に1回か2回しかチャンスがないです。仮に経営会議に行くとします。そうするとそこでは新規事業の事は全くチンプンカンプンの人がああだこうだと言います。その指摘を受けるとそれは真面目に答えなければいけない。一方ライバルの社長を見ると、彼は社長ですから必要があれば毎日でも、もしくは毎時間でも1時間毎に意志決定が出来ます。これでは勝負にならないです。
今度は人材に目を向けると、確かに大企業で若くて威勢がいい社員ですが、彼らはこれまで慎重か着実かで評価されてきました。そうすると元気はいいですがライバルの人材と比べると、リスクをとるガッツやチャレンジの仕方にどうしても差が出てしまいます。更に悪い事には、せっかく新規事業部に移っても、評価基準が変わらないと言う場合があります。そうするとやはり慎重をとる方がいい、やはり着実の方がいいとなってしまいます。ですので、このように戦略を大きく変える時には、従来のやり方を大きく変えて組織をフィットさせないと中々難しいのです。
大企業が新規事業に参入するというのは、中々もう上手くいかない運命にあるのではないか。どういうやり方だったら上手くいくのか。実は方法はあって、これは最近流行る両利きの経営と言われている方法論です。簡単に言うと、FM福岡重工の中にFM福岡AI的な組織を入れるという事です。ただし、ここは入れるのですが、混ぜないのです。具体的に言うと、別会社にする。そのFM福岡AI的な別会社は、さっき言ったようなフラットで権限委譲やリスクを取る、チャレンジするといった組織にしていきます。混ぜてしまうと重工の方が大きいですから、飲み込まれてしまいます。ですので、あえて混ぜずに分けて、組織全体で見るとFM福岡重工的な部分とAI的な部分が併走する形にもっていきます。これが両利きの経営のポイントです。こういう事によって大企業でも戦略と組織をフィットさせる方法はあるという事です。
前回、今回と組織と戦略のフィット感について話をしてきました。ぜひこの視点で皆さんも一度ご自身の会社をチェックしてみると新しい気づきがあるのではないかと思います。