オーディオドラマ「五の線」リメイク版

23,12月20日 日曜日 13時08分 熨子山連続殺人事件捜査本部


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「未明のガイシャの身元が判明しました。」
察庁組だけが残る捜査本部に関が入って来た。捜査データを分析をしていたスタッフは手を止めて関の方を見た。
「報告しろ。」
「はい。ひとりは穴山和也。23才男性。住所は金沢市銚子。地元ガソリンスタンドに勤務する男です。県外出身者であり、アパートに一人暮らしをしていたようです。勤務先のガソリンスタンドの店長が、出勤日のはずなのに連絡がつかないとの事で警察に届けがあり、本人の特徴等を照らし合わせた結果、身元が判明したものです。」
「ほう。で、もうひとりは。」
「はい。もうひとりは井上昌夫。こちらも23才男性。住所は金沢市土清水。地元繊維会社に勤務する男です。今日の10時頃、同居人である女性から警察に捜索願が出され、特徴等を照合の結果、本人であると判明しました。この井上も穴山同様、県外出身者です。」
松永は関の報告を受けて、几帳面にA3サイズのコピー用紙にフェルトペンで相関図のようなものを書きながら、関に質問をする。
「あー、二人の関係は。」
「調べましたところ、二人とも香林法科大学の同期生であるということです。」
松永は二人の名前を一本の直線で結びつけた。そしてその直線の中心からさらに一本の線を引き一色の名前を書いた。穴山、井上、一色の三名が英字のTで結びつけられる。
「で、この二人と一色の関係は。」
「それが、全く分かりません。」
松永はペンを置いて、腕を組んだ。
「現在は両者の携帯電話の通話履歴の解析を進めています。」
「わかった、その事については早急に報告しろ。あと、その二人の死亡推定時刻はわかったか。」
「はい。どちらも19日の23時40分頃と推定されます。」
「早朝見つかった遺体は。」
「20日の0時35分頃です。」
「ふむう。」
腕を組んだまま、顎を引き背もたれに身を預けた松永はA3サイズのコピー用紙を眺めた。そして再度ペンを手に取って、一色の名前からもうひとつTの字を付け足して、間宮と桐本の名前を書き、双方のTの字に関から報告を受けた死亡推定時刻を書いた。
―山小屋のコロシから展望台のコロシまで約50分か。この2つの地点は徒歩で約20分の距離だと聞いている。夜道だからそれが3割増だとしても36分。残りの14分は何をしていたのか。ホシはどうして山小屋で穴山と井上を殺してそのまま逃走しなかったのか。まさか何かの目的があって熨子山の展望台に行ったのか。どうして殺した相手の顔をめちゃくちゃにしなければならなかったのか。そもそもガイシャたちは何故、夜に熨子山の山小屋に行ったのか。
松永は考えを巡らせた。そこに部下のひとりが声をかけた。
「松永課長補佐。」
「なんだ。」
「今回の事件ですが、無差別殺人ではないでしょうか。」
松永はその言葉を聞いたとたん立ち上がり、その部下の座っていた椅子を右足で蹴飛ばした。その衝撃で彼はその場に倒れ込んだ。
「馬鹿やろう。てめぇどんだけサツの仕事してんだ。」
松永は倒れた部下の胸ぐらを掴み、自分の顔に彼を引き寄せ睨めつけた。
「え…。すいません…。」
「なんだぁ、てめぇ、ちょっと俺に蹴飛ばされたら前言撤回かぁ。」
「いえ、あの…。」
「お前、何の根拠があって無差別殺人なんて言ったんだぁ。言ってみろぉ。」
「い、いや、あの…。先ほどのガイシャと一色とは接点が無いと…。」
「接点がないと、どうなるんだぁ。説明してみなさい。」
相変わらず松永は彼の胸ぐらを掴んだままである。
「む、無差別殺人の動機は、い、怒りや復讐心といった感情が爆発した結果であ、あります。そのため犯人とは直接関係がない人間にその怒りの矛先がむけられることもあります。ほ、本件に関しても、お、同じような傾向があると思いましたので…。」
松永はそのまま部下を床に叩き付け、彼の腹部を右足で蹴り上げた。
「ぐっ…はっぁ…。」
「あのなぁ、もう一回学校で勉強してくるかぁ。」
その場にいた察庁組のスタッフは表情ひとつ変えずに、その様子を見ている。
「無差別殺人は怒りの爆発だというのは確かだ。だが、一色がその怒りを何に対して持っていたというんだ。人知れずひっそりとそのあたりの名無しさんを山の中で殺して何かの意思表示になるか。」
「あ、あ…。」
「いいか、これは連続殺人だ。そして快楽殺人だ。ガイシャの状況を見てみろ。みんな顔が無くなっている。特徴的だ。儀式的でもある。つまり人を殺す事そのものに意味がある。一色は捕まらない限り、必ずまた人を殺す。それが快楽殺人だ。動機なんざ無い。奴にとってこれはゲームなんだよ。」
松永はしゃがみ込んで倒れている部下を覗き込んだ。
「これは警察に対する挑戦だ。奴を舐めるな、心してかかれ。わかったな。」
「は、はい。」
「お前はガイシャが、どうして昨日の深夜に熨子山へ行ったのか。どういう手段で熨子山へ行ったのか。本当にガイシャらは一色と接点が無かったのか。それらを調べろ。」
狂人のようになったかと思えば、優秀な捜査官のようにもなる松永はまるで二重人格者のようだった。彼は自分の感情の起伏の激しさを逆手に利用して、人心掌握を巧みに行う術を知っていたのだろう。
「おい。」
「はっ。」
松永と目が合った捜査スタッフのひとりが返事をした。
「1時間後に山狩りだ。隈無くだ。所轄の捜査はどうも手ぬるい。100名程投入して熨子山全域を捜索しろ。その間は熨子山線も完全封鎖だ。」
捜査本部は慌ただしく動き始めた。
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