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令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第654回)で、「DPCにおける高額な新規の医薬品等への対応について」が議題となりました。DPC病院では、高額な新薬を使っても包括払いの点数に反映されないため、どの薬剤が包括評価の対象外になるかを正しく把握する必要があります。本号では、今回示された高額薬剤判定の仕組みと対象品目、医療機関が確認すべき点を解説します。
今回の判定では、22品目の医薬品を使用した患者について、該当する診断群分類に限り、次期診療報酬改定まで出来高算定とする事務局案が示されました。判定の仕組みは、薬剤費の見込み額が「その薬剤を使用していない症例の薬剤費の84パーセンタイル値」を超えるかどうかです。対象は、令和8年8月13日に薬価収載予定の新薬6品目と、令和8年6月19日に効能・効果や用法・用量が追加された医薬品16品目です。この案が告示に反映されると、医療機関は「薬剤」と「診断群分類」の組み合わせで対象患者を判定し、出来高で請求する必要があります。
1. 高額薬剤判定の仕組み
高額薬剤判定とは、DPCの包括点数に反映されていない高額な新規医薬品を、一時的に包括評価の外に出す仕組みです。判定は診断群分類ごとにおこなわれ、薬剤費が84パーセンタイル値を超えるかどうかで決まります。以下では、制度の目的、対象となる医薬品、判定の手順、具体例の順に説明します。
制度の目的は、DPC病院で新しい医療技術の導入が妨げられないようにすることです。 DPC/PDPSの包括点数は、過去の診療実績データをもとに設定されています。そのため、新たに保険適用された医薬品の費用は、包括点数に含まれていません。高額な新薬を包括払いのまま使うと、病院が薬剤費を持ち出すことになります。そこで国は、十分な使用実績データが集まりDPCで包括評価できるようになるまで、一定の基準に該当する薬剤を使った患者を包括評価の対象外としています。この判定は、新薬の薬価収載にあわせて年4回実施されます。
判定の対象となる医薬品は、新薬・一部変更・公知申請の3区分です。 新薬は、新たに薬価収載される医薬品です。一部変更(一変)は、効能・効果や用法・用量が追加・変更された医薬品のうち、薬事審議会で審査・報告されたものです。公知申請は、事前評価済みの公知申請により効能が追加された医薬品です。今回の判定には、新薬と一部変更の2区分が含まれています。
判定の手順は、診断群分類ごとに「仮想投与回数」から1入院当たりの薬剤費を算出し、84パーセンタイル値と比べるものです。 まず、効能・効果から、その医薬品を使う可能性のある診断群分類(14桁コード)を抽出します。次に、入院初日から退院まで添付文書どおりに投与した場合の回数(仮想投与回数)を求めます。この仮想投与回数には、平均在院日数が加味されます。そして、「1回投与当たりの標準的な費用」に仮想投与回数を掛けて、1入院当たりの標準的費用を算出します。この標準的費用が、その診断群分類で当該薬剤を使用していない症例の1入院当たり薬剤費(包括範囲の薬剤費)の84パーセンタイル値を超えると、高額薬剤に指定されます。なお、併用薬が必要な薬剤では、併用薬の費用も見込み額に含めて判定します。
84パーセンタイル値とは、薬剤費を低い順に並べたとき、下から84%の位置にある値です。 つまり、その薬剤を使うと、同じ診断群分類で使用していない症例の約84%よりも薬剤費が高くなる場合に、高額薬剤と判定されます。この基準は、前年度に使用実績のない医薬品に適用されます。
判定のもう一つの作業として、診断群分類の定義そのものに新薬を追加する場合があります。 類似薬効比較方式で算定された新薬について、比較薬がすでに診断群分類の定義テーブルで分岐として定義されている場合は、その新薬も定義テーブルに追加されます。この作業は「定義告示」への追加と呼ばれます。一方、包括評価の対象外とする薬剤と診断群分類を定める作業は、「高額薬剤告示」への追加と呼ばれます。
具体例として、ゼオマイン(痙性斜頸・眼瞼痙攣)の判定を見てみましょう。 ゼオマインの1回投与当たりの標準的な費用は16,660円です。対象となる診断群分類「010180xx99x0xx(不随意運動)」では、仮想投与回数は1回なので、1入院当たりの標準的費用も16,660円です。この診断群分類の84パーセンタイル値は13,059円です。16,660円は13,059円を超えるため、ゼオマインは高額薬剤と判定されます。このように、1回の費用が比較的低い薬剤でも、診断群分類の薬剤費水準が低ければ対象になります。
2. 今回該当した22品目
今回の判定で基準に該当したのは、新薬6品目と一部変更16品目の計22品目です。新薬は、令和8年8月13日に薬価収載予定の医薬品です。一部変更は、令和8年6月19日に効能・効果や用法・用量が追加された医薬品です。以下では、新薬、一部変更(がん領域)、一部変更(がん以外の領域)の順に一覧で示します。
新薬6品目は、希少疾患や小児がん、食道がんなど、幅広い領域にわたります。 特に、テロメライシン注は1回投与当たり3,102,489円と高額です。食道の悪性腫瘍の一部の診断群分類では、仮想投与回数が3回となり、1入院当たりの標準的費用は9,307,467円です。この額は、84パーセンタイル値(256,773円〜613,851円)を大きく上回ります。
* ウェイリズ錠(リルザブルチニブ)
* 効能・効果:持続性及び慢性免疫性血小板減少症
* 対象の診断群分類:130110 出血性疾患(その他)
* 1回投与当たりの標準的な費用:6,168.3円
* サデルガカプセル25mg(エリグルスタット酒石酸塩)
* 効能・効果:ゴーシェ病の諸症状の改善
* 対象の診断群分類:100335 代謝障害(その他)
* 1回投与当たりの標準的な費用:78,350.5円
* ジョエンジャ錠(レニオリシブリン酸塩)
* 効能・効果:活性化PI3Kδ症候群
* 対象の診断群分類:130150 原発性免疫不全症候群
* 1回投与当たりの標準的な費用:133,176.5円
* イソトレックスカプセル(イソトレチノイン)
* 効能・効果:大量化学療法後の神経芽腫
* 対象の診断群分類:02001x、040010、060030
* 1回投与当たりの標準的な費用:2,952.0円
* キネレット皮下注(アナキンラ)
* 効能・効果:全身型若年性特発性関節炎、成人発症スチル病
* 対象の診断群分類:070560 重篤な臓器病変を伴う全身性自己免疫疾患
* 1回投与当たりの標準的な費用:23,702円
* テロメライシン注(スラタデノツレブ)
* 効能・効果:根治切除・化学放射線療法の適応とならない食道癌
* 対象の診断群分類:060010 食道の悪性腫瘍
* 1回投与当たりの標準的な費用:3,102,489円
一部変更のうち、がん領域の7品目は、免疫チェックポイント阻害薬や二重特異性抗体などです。 テビムブラ、イミフィンジ、ミンジュビ、テクベイリ、タービーには、資料上「このほかに併用薬の費用がかかる」と注記されています。テクベイリとタービーは、両剤を併用する用法・用量で判定されています。レットヴィモは、RET融合遺伝子陽性の固形腫瘍が対象のため、脳腫瘍や乳がんなど36の疾患(6桁コード)が対象に挙げられています。
* ティブソボ錠(イボシデニブ)
* 効能・効果:IDH1遺伝子変異陽性の治癒切除不能な胆道癌
* 対象の診断群分類:060050、060060
* 1回投与当たりの標準的な費用:60,015.2円
* レットヴィモ錠・カプセル(セルペルカチニブ)
* 効能・効果:RET融合遺伝子陽性の固形腫瘍、RET遺伝子変異陽性の甲状腺髄様癌
* 対象の診断群分類:010010 脳腫瘍ほか計36分類
* 1回投与当たりの標準的な費用:7,717.4円
* ミンジュビ点滴静注用(タファシタマブ)
* 効能・効果:再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫
* 対象の診断群分類:130030 非ホジキンリンパ腫
* 1回投与当たりの標準的な費用:375,603円
* テビムブラ点滴静注(チスレリズマブ)
* 効能・効果:治癒切除不能な進行・再発の胃癌
* 対象の診断群分類:060020 胃の悪性腫瘍
* 1回投与当たりの標準的な費用:428,996円
* イミフィンジ点滴静注(デュルバルマブ)
* 効能・効果:胃癌における術前・術後補助療法
* 対象の診断群分類:060010、060020
* 1回投与当たりの標準的な費用:847,755円
* テクベイリ皮下注(テクリスタマブ)
* 効能・効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)
* 対象の診断群分類:130040 多発性骨髄腫、免疫系悪性新生物
* 1回投与当たりの標準的な費用:最大1,081,023円
* タービー皮下注(トアルクエタマブ)
* 効能・効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)
* 対象の診断群分類:130040 多発性骨髄腫、免疫系悪性新生物
* 1回投与当たりの標準的な費用:最大1,879,962円
一部変更のうち、がん以外の領域の9品目は、神経・免疫・内分泌・皮膚など多様な疾患が対象です。 このうちボトックス(下肢痙縮)は、対象となる診断群分類を特定できませんでした。そのため、全包括診断群分類の包括範囲薬剤費を用いて判定されています。
* アバスチン点滴静注用(ベバシズマブ)
* 効能・効果:神経線維腫症2型
* 対象の診断群分類:070020 神経の良性腫瘍
* 1回投与当たりの標準的な費用:45,147円
* 献血グロベニン-I静注(ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン)
* 効能・効果:自己免疫性脳炎
* 対象の診断群分類:010080、010081
* 1回投与当たりの標準的な費用:347,972円
* グロベニン-I静注(pH4処理酸性人免疫グロブリン)
* 効能・効果:自己免疫性脳炎
* 対象の診断群分類:010080 脳脊髄の感染を伴う炎症
* 1回投与当たりの標準的な費用:267,672円
* ソグルーヤ皮下注(ソマプシタン)
* 効能・効果:SGA性低身長症、ヌーナン症候群における低身長
* 対象の診断群分類:100360、140010、140620
* 1回投与当たりの標準的な費用:52,476円
* サデルガカプセル100mg(エリグルスタット酒石酸塩)
* 効能・効果:ゴーシェ病の諸症状の改善
* 対象の診断群分類:100335 代謝障害(その他)
* 1回投与当たりの標準的な費用:78,350.5円
* リツキサン点滴静注(リツキシマブ)
* 効能・効果:頻回再発型・ステロイド依存性・難治性のネフローゼ症候群
* 対象の診断群分類:110260 ネフローゼ症候群
* 1回投与当たりの標準的な費用:93,343円
* ゼオマイン注用(インコボツリヌストキシンA)
* 効能・効果:痙性斜頸、眼瞼痙攣
* 対象の診断群分類:010180 不随意運動
* 1回投与当たりの標準的な費用:16,660円
* ボトックス注用(A型ボツリヌス毒素)
* 効能・効果:下肢痙縮
* 対象の診断群分類:全診断群分類
* 1回投与当たりの標準的な費用:221,680円
* オルミエント錠・内用懸濁液(バリシチニブ)
* 効能・効果:円形脱毛症(広範囲・難治の場合)
* 対象の診断群分類:080190 脱毛症
* 1回投与当たりの標準的な費用:4,820.0円
※効能・効果と1回投与当たりの標準的な費用は、資料の記載どおりです。テクベイリとタービーの費用は、投与回数によって異なるため最大値を示しています。 ※対象の診断群分類は6桁の疾患コードで示しています。実際の判定は14桁の診断群分類ごとにおこなわれるため、詳細は告示で確認してください。
3. 医療機関が確認すべき3つのポイント
今回の判定を受けて、医療機関は「対象患者の判定」「算定期間」「院内体制」の3点を確認する必要があります。いずれも、請求漏れや査定を防ぐための実務上のポイントです。
第1のポイントは、対象患者を「薬剤」と「診断群分類」の組み合わせで判定することです。 出来高算定となるのは、対象薬剤を使用し、かつ、その薬剤に対応する診断群分類に該当する患者に限られます。たとえば、レットヴィモを使用しても、患者の診断群分類が告示に掲げられたものでなければ、包括評価のままです。告示では14桁の診断群分類番号が指定されているため、手術・処置等の分岐まで含めて照合する必要があります。
第2のポイントは、出来高算定が「次期診療報酬改定まで」の暫定措置であることです。 出来高算定の期間中に集まった使用実績データは、次期改定での包括評価の検討に用いられます。その結果、包括評価に組み込まれる薬剤や、診断群分類の分岐として定義される薬剤が出てくる可能性があります。改定のたびに、対象薬剤の取り扱いが変わっていないかを確認しましょう。
第3のポイントは、医事課・薬剤部・診療部門で対象薬剤の情報を共有することです。 高額薬剤判定は年4回実施されるため、対象薬剤は定期的に増えていきます。薬剤部が採用薬の更新情報を医事課に伝える流れを作っておくと、出来高算定の漏れを防げます。また、適用開始日は告示・通知で示されるため、薬価収載日や効能追加日とあわせて確認してください。
まとめ:高額薬剤判定で22品目が次期改定まで出来高算定に
令和8年8月5日の中医協総会(第654回)で、22品目の医薬品を使用した患者について、該当する診断群分類に限り次期改定まで出来高算定とする事務局案が示されました。判定基準は、薬剤費の見込み額が、診断群分類ごとに当該薬剤を使用していない症例の薬剤費の84パーセンタイル値を超えるかどうかです。対象は、新薬6品目と、効能・効果や用法・用量が追加された一部変更16品目です。医療機関は、薬剤と診断群分類の組み合わせで対象患者を判定し、院内で情報を共有して確実に出来高請求をおこないましょう。
参考資料
* 中央社会保険医療協議会 総会(第654回)議事次第(令和8年8月5日)
* 中医協 総-7「DPCにおける高額な新規の医薬品等への対応について」(令和8年8月5日)
* 中医協 総-7参考「現行のいわゆる『高額薬剤判定』の運用方法について」(中医協 総-3(平成25年12月25日)一部抜粋)
令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第654回)では、費用対効果評価の結果を踏まえた薬価の見直しが議題となり、5品目・7規格の改定薬価が示されました。改定薬価は令和8年11月1日から適用されるため、医療機関と薬局は在庫や請求への影響を事前に把握しておく必要があります。本号では、対象品目の改定薬価、引下げ幅を決めた評価結果、評価の分かれ目となった論点の3点を解説します。
今回の見直しでは、評価を受けた4品目(テッペーザ、トロデルビ、パキロビッド、アウィクリ)と、トロデルビの類似品目であるダトロウェイを合わせた5品目・7規格の薬価が、0.3%から11.0%引き下げられます。引下げ幅は、各品目の費用対効果を示すICERの区分と、薬価の算定方式によって決まりました。最も大きく下がったのは、ICERが最上位の区分となったトロデルビと類似品目のダトロウェイで、いずれも11.0%の引下げです。評価の過程では、4品目すべてで、専門組織が企業の分析ではなく公的分析の結果を妥当と判断しました。
1. 価格調整の対象と改定薬価(11月1日適用)
価格調整の対象は、5品目の7規格です。評価結果そのものは、テッペーザとトロデルビが令和8年5月13日、パキロビッドとアウィクリが同年6月24日の中医協総会で承認されています。ダトロウェイはトロデルビの類似品目として、アウィクリ700単位はアウィクリの規格追加品目として、本体と同じ評価結果で調整されます。
テッペーザ点滴静注用500mg
* 薬価:1,175,904円 → 1,111,100円
* 引下げ:64,804円(5.5%)
トロデルビ点滴静注用200mg
* 薬価:187,195円 → 166,604円
* 引下げ:20,591円(11.0%)
ダトロウェイ点滴静注用100mg(トロデルビの類似品目)
* 薬価:311,990円 → 277,672円
* 引下げ:34,318円(11.0%)
パキロビッドパック300
* 薬価:12,538.60円 → 12,001.20円
* 引下げ:537.40円(4.3%)
パキロビッドパック600
* 薬価:19,805.50円 → 18,956.70円
* 引下げ:848.80円(4.3%)
アウィクリ注 フレックスタッチ 総量300単位
* 薬価:2,081円 → 2,074円
* 引下げ:7円(0.3%)
アウィクリ注 フレックスタッチ 総量700単位(アウィクリの規格追加品目)
* 薬価:3,809円 → 3,793円
* 引下げ:16円(0.4%)
※引下げ額・引下げ率は、資料の現行薬価と改定薬価から筆者が算出しました(引下げ率は小数第2位を四捨五入)。
改定薬価の適用日は、7規格すべて令和8年11月1日です。適用までに一定の猶予期間が設けられたのは、医療機関の在庫への影響などを踏まえたためです。高額な注射薬であるテッペーザやダトロウェイは1瓶あたりの差額が大きいため、11月1日をまたぐ在庫と請求の管理に注意が必要です。
今回の5品目を含め、費用対効果評価を終えた品目は、令和8年8月5日時点で60品目になりました。一方で、評価中の品目は同日時点で20品目あります。この中には、ケサンラやゼップバウンドのように市場規模の大きい品目や、今回の総会で新たに対象に指定されたマルシロンとサークリサが含まれます。
2. 引下げ幅を決めた評価結果と価格調整係数
引下げ幅は、「ICERの区分」と「薬価の算定方式」の2つで決まります。ICER(増分費用効果比)とは、比較対照の治療と比べて、健康な状態での1年(1QALY)を追加で得るのに必要な費用です。ICERが高いほど「費用に見合う効果が小さい」と判断され、価格調整係数が小さくなり、薬価が大きく下がります。
価格調整の対象は、薬価全体ではなく、薬価の一部に限られます。類似薬効比較方式で算定された品目では、既存薬より優れた点を評価して上乗せされた「有用性系加算部分」が対象です。原価計算方式で算定された品目では、「有用性系加算部分」と「営業利益部分」が対象です。資料に示された計算式は次のとおりです。
* 類似薬効比較方式(トロデルビ、パキロビッド、アウィクリ) 価格調整後の薬価 = 価格調整前の薬価 - 有用性加算部分 ×(1-β)
* 原価計算方式(テッペーザ) 価格調整後の薬価 = 価格調整前の薬価 - 有用性系加算部分 ×(1-γ)- 営業利益部分 ×(1-θ)
テッペーザは、ICERが750万円以上1,000万円/QALY未満の区分となり、営業利益部分に係数(θ)0.67が適用されました。対象集団は中等度から重症(CAS3点以上)の活動性甲状腺眼症で、比較対照はステロイドパルス療法と放射線外照射の併用療法です。資料では有用性系加算部分の係数(γ)は「-」とされており、営業利益部分の33%にあたる額が引き下げられた結果、引下げ率は5.5%となりました。
トロデルビは、ICERが1,500万円/QALY以上の区分となり、有用性加算部分に係数(β)0.1が適用されました。対象集団は化学療法歴のあるホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能・再発乳癌で、比較対照はエリブリンです。資料の区分図では、1,500万円/QALY以上は係数が最も小さい区分にあたります。有用性加算部分の9割が引き下げられた結果、引下げ率は11.0%となり、類似品目のダトロウェイも同じ率で引き下げられます。
パキロビッドは、比較対照と効果が同等で費用が増加する「費用増加」と評価され、有用性加算部分に係数(β)0.1が適用されました。対象集団は重症化リスク因子を有する新型コロナウイルス感染症患者(小児を除く)で、比較対照はモルヌピラビルです。収載時の有用性系加算率が5%と小さいため、引下げ率は4.3%にとどまりました。
アウィクリは、4つの対象集団で評価が分かれ、各集団の結果を患者割合で加重平均した価格が改定薬価となりました。2型糖尿病でインスリン療法の治療歴がない集団(71.4%)と、基礎インスリン療法の治療歴がある集団(16.9%)は、効果も費用も同等の「費用同等」とされ、係数(β)は1.0です。1型糖尿病の集団(5.0%)と、2型糖尿病で基礎-追加インスリン療法の治療歴がある集団(6.7%)は「費用増加」とされ、係数(β)は0.1です。患者の88.3%が係数1.0の集団にあたるため、引下げ率は0.3〜0.4%の小幅にとどまりました。
3. 評価の分かれ目となった論点:4品目とも公的分析を採用
評価の過程では、企業の分析と国の公的分析で設定が分かれ、専門組織は4品目すべてで公的分析を妥当と判断しました。公的分析とは、企業の分析を第三者の立場で検証し、必要に応じて再分析する仕組みです。主な論点は、テッペーザが再発率と薬剤費、トロデルビがQOL値、パキロビッドとアウィクリが追加的有用性の有無でした。
テッペーザの論点は、再発率と薬剤費の設定です。企業はテッペーザの眼球突出の再発率を0%としましたが、公的分析は複数の臨床試験を統合した72週時点の24%を採用しました。比較対照の再発率についても、企業は文献値の最大値と最小値の中点である30.5%を用いましたが、公的分析は治療反応と再発の定義が明確な文献の18.4%を採用しました。薬剤費は、企業が体重50kgと仮定したのに対し、公的分析はNDB(匿名医療保険等関連情報データベース)の実際の算定バイアル本数から算出しました。専門組織は、再発率0%には違和感があり、症例数と長期の観察も不十分だとして、公的分析を支持しました。
トロデルビの論点は、QOL値の設定です。企業は、トロデルビ群は腫瘍が縮小した状態で過ごす期間が長いとして、同じ健康状態でも治療群ごとに異なるQOL値を設定しました。公的分析は、両群の平均値を用いて、同じ健康状態には同じQOL値を当てはめる形で再分析しました。専門組織は、モデルの健康状態は「無増悪(PFS)」「増悪(PD)」「死亡」の3つだけで腫瘍縮小は区別されていないとして、公的分析の方法を妥当としました。
パキロビッドの論点は、モルヌピラビルに対する追加的有用性の有無です。企業は、デルタ株流行以前にワクチン未接種者を対象とした試験の間接比較から、追加的有用性があると主張しました。公的分析は、オミクロン株流行下のワクチン接種環境では追加的有用性は示されていないと判断し、費用を比べる費用最小化分析を行いました。企業は不服意見を出しましたが、専門組織は、現状はワクチン接種者や既感染者が大部分であることなどを踏まえ、公的分析の結果を妥当と結論付けました。
アウィクリの論点は、週1回投与という利便性を含めた追加的有用性の有無です。企業は、HbA1cの改善に加え、利便性による治療満足度や治療継続の向上を有用性として主張しました。公的分析は、HbA1cの差は臨床的に意味のある大きさとはみなせず、低血糖はむしろ多い傾向があるとして、追加的有用性を認めず費用最小化分析を行いました。専門組織は、企業が根拠とした指標(DTSQ)は満足度の尺度でありQOLの尺度ではないとして、公的分析を支持しました。その後、企業の不服意見を受けて、訪問看護を受ける患者の割合や訪問看護の減少回数(月1〜2回)を設定した追加分析が公的分析で行われ、専門組織はこの追加分析の結果も妥当としました。
まとめ:11月1日から5品目7規格の薬価が下がります
令和8年8月5日の中医協総会では、費用対効果評価の結果に基づき、5品目・7規格の薬価を0.3%から11.0%引き下げる改定薬価が示されました。引下げ幅は、ICERの区分と算定方式で決まり、最上位の区分となったトロデルビと類似品目のダトロウェイが11.0%と最大です。評価の過程では、4品目とも専門組織が企業分析ではなく公的分析を採用しました。改定薬価は令和8年11月1日から適用されるため、高額な注射薬を中心に、在庫と請求の切り替えを確認しておきましょう。
(参考資料:中医協 総-6-1〜6-4、総-6参考1〜3(令和8年8月5日))
令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第654回)で、再生医療等製品「セイビスカス注」の医療保険上の取扱いが議題となりました。再生医療等製品は、医薬品と医療機器のどちらの例で扱うかによって、価格を検討する組織も、収載される基準も変わります。本号では、この製品がどちらの例で扱われる案となったのか、その理由と製品の中身を解説します。
結論として、セイビスカス注は「医療機器の例」により対応し、材料価格基準への収載を審議する案が示されました。この案の根拠は、作用原理が細胞による組織修復と考えられること、そして関節鏡下で損傷部に直接塗布する手術手技を伴うことの2点です。製品は患者自身の滑膜から採った幹細胞を培養したもので、採取・製造・縫合・投与という流れで使います。国内第Ⅲ相試験(対照群のない試験)では、膝の機能スコアの改善量が事前に定めた閾値を上回り、製品と因果関係のある有害事象は発生しませんでした。
取扱い案:医療機器の例で償還価格を検討
セイビスカス注は、医療機器の例により保険適用の手続きを進める案が示されました。この案が了承されると、保険医療材料等専門組織が償還価格を検討します。その結果を踏まえ、中医協総会が材料価格基準への収載を審議する流れです。
この手続きは、平成26年11月5日の中医協総会で了承されたルールに基づきます。このルールでは当面の間、個別の製品特性と薬事承認の結果を踏まえ、医薬品の例か医療機器の例かを判断することになっています。医薬品の例なら薬価算定組織が価格を検討し、薬価基準への収載を審議します。医療機器の例なら保険医療材料専門組織が価格を検討し、材料価格基準への収載を審議します。再生医療等製品に独自の保険上の体系を作るかどうかは、知見の蓄積を待って引き続き検討するとされています。
このルールは、条件及び期限付き承認を受けた製品にも同様に適用されます。令和8年1月14日の中医協総会で、条件及び期限付き承認の製品についても、通常の承認と同じく薬事承認の結果を踏まえて判断することが了承されました。なお、セイビスカス注の承認区分は「新再生医療等製品」で、承認日は令和8年5月8日です。
判断理由:組織修復という作用原理と、手術手技を伴う使用方法
医療機器の例とする案には、作用原理と使用方法という2つの理由があります。
1つめの理由である作用原理は、主構成体である幹細胞による組織修復と考えられています。資料では、作用原理として次の2点が挙げられました。
* 損傷部と周囲の滑膜組織に接着し、軟骨細胞へ分化して軟骨基質を産生することで、損傷部を癒合させ組織を再生する
* 損傷部に滑膜組織を誘導し、体内にもともとある滑膜由来の幹細胞の供給を増やすことで、損傷した半月板の再生を促進する
2つめの理由である使用方法は、医療機器と類似しています。本品は、関節鏡下で半月板の損傷部に直接塗布する手術手技を伴います。この手術手技を伴う点が、医療機器と類似した使用方法と評価されました。
製品の概要:自己滑膜幹細胞を培養し、縫合後の損傷部に投与
セイビスカス注は、患者自身の滑膜から採った間葉系幹細胞を培養した製品です。間葉系幹細胞とは、軟骨や骨などさまざまな細胞に分化できる細胞を指します。製品の基本情報は次のとおりです。
* 販売名:セイビスカス注
* 一般的名称:ヒト(自己)滑膜由来間葉系幹細胞
* 類別:ヒト体性幹細胞加工製品
* 製造販売業者:富士フイルム富山化学株式会社
* 効能、効果又は性能:半月板切除術が適応となる半月板損傷
* 承認日:令和8年5月8日
製品の構成は、細胞懸濁液の「主構成体」と、運搬用キットの「副構成体」に分かれます。主構成体は、培養した幹細胞を液体に懸濁したものです。副構成体は、滑膜組織を運ぶ「滑膜組織運搬セット」と、全血を運ぶ「血液採取キット」です。
使用の流れは、医療機関と製造施設の間を往復する4段階です。
* 全血の採取と輸送:医療機関で全血を採取し、1~20℃で保存して製造施設へ送る
* 滑膜の採取と輸送:膝関節から滑膜組織を採取し、10~22℃で保存して製造施設へ送る
* 前処置:患者の状態を考慮し、投与直前までに半月板の損傷部を形成的に修復する(縫合による修復)
* 受入れと投与:凍結した製品を受け取り−80℃以下で保存し、投与直前に融解して関節鏡下で1.5×10⁷~9.0×10⁷個を投与する
承認には、適正な使用を確保するための2つの条件が付いています。1つめは、一定数の症例データが集まるまで、全症例を対象に使用成績調査を実施することです。2つめは、適正使用のために必要な措置を講ずることです。具体的には、関連学会の協力で作成された適正使用指針の周知や講習の実施などにより、十分な知識と経験を持つ医師が、体制の整った医療機関で本品を用いるようにします。
臨床成績:膝の機能が大きく改善し、製品による有害事象はなし
国内第Ⅲ相試験(JP301試験)では、膝の機能スコアの改善量が事前に定めた閾値を上回りました。この試験は、半月板切除術が適応となる半月板損傷患者19例を対象とした、非盲検・非対照・多施設共同試験です。縫合による修復後に本品を1回投与し、投与後104週まで有効性と安全性を評価しました。対照群がないため、既存治療と直接比べた試験ではありません。
主要評価項目では、膝の機能を示すLysholm scoreが大きく改善しました。フラップ断裂を有する患者15例で、スクリーニング時から投与後52週時までの変化量(最小二乗平均)は53.5点(95%信頼区間:48.7~58.2点)でした。この信頼区間の下限値は、既存治療の文献報告から事前に定めた閾値22点を上回りました。
副次評価項目でも、改善が確認されました。
* 膝関節機能(KOOS)と疼痛(NRS):患者自身が評価するすべてのサブスケールで改善した
* 半月板構造:血流がなく自然治癒が期待できない半月板中央部の完全癒合が、投与後52週時にフラップ断裂を有する患者の35.7%(5/14例)、全体の44.4%(8/18例)で認められた
* 再手術:投与後2年間の観察期間中に、半月板病変に対する再手術はなかった
安全性では、治験製品と因果関係のある有害事象は発生しませんでした。処置による疼痛は、20名中17名(85.0%、33件)に発生しました。また、製品の不具合は発現しませんでした。
まとめ:医療機器の例で、材料価格基準への収載を審議へ
セイビスカス注は、医療機器の例により対応し、材料価格基準への収載を審議する案が示されました。案の根拠は、細胞による組織修復という作用原理と、関節鏡下で塗布する手術手技を伴う使用方法です。製品は自己滑膜幹細胞を培養したもので、採取・製造・縫合・投与の流れで使います。第Ⅲ相試験では膝の機能スコアの改善量が閾値を上回り、治験製品と因果関係のある有害事象はありませんでした。今後は、保険医療材料等専門組織で検討される償還価格に注目してください。
令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(以下、中医協)総会(第654回)で、再生医療等製品「テロメライシン注」の最適使用推進ガイドライン(以下、GL)と保険適用上の留意事項が報告されました。このGLは使用できる施設・医師・患者を限定するため、導入を検討する医療機関は要件を事前に確認する必要があります。本稿では、GLと留意事項の要点を、臨床成績、使用要件、保険請求の3つの観点から整理します。
テロメライシン注は、要件を満たす施設で、適応となる患者に、3回を上限として使用する製品です。臨床成績では、放射線療法との併用により、投与開始後24週までの局所完全奏効(L-CR)率41.7%が示されました(ただし、事前に設定した閾値に対する統計的有意差は認められていません)。使用要件では、施設、治療の責任者となる医師、投与対象となる患者の3つが定められました。保険請求では、診療報酬明細書(以下、レセプト)の摘要欄に施設要件、医師要件、投与回数の記載が求められ、資料では令和8年8月13日から適用とされています。
1. テロメライシン注の特徴と臨床成績
テロメライシン注は、最適使用推進GLの対象となった食道癌治療用の再生医療等製品です。本節では、GL制度、製品の特徴、効能と用法、有効性、安全性の順に説明します。
最適使用推進GLは、革新的な医薬品等を真に必要な患者に、適切な施設で使うための指針です。 この制度の取扱いは、平成29年9月13日に中医協で了承されました。制度の背景には、革新的かつ非常に高額な医薬品が国民負担や医療保険財政に与える影響への懸念があります。GLは、関係学会やPMDA(医薬品医療機器総合機構)の協力のもと、承認審査と並行して作成されます。作成されたGLは、薬価収載(再生医療等製品では保険適用)までに、保険適用上の留意事項とあわせて通知されます。
テロメライシン注(一般的名称:スラタデノツレブ)は、遺伝子組換えアデノウイルスを主成分とする再生医療等製品です。 このウイルスは、hTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写活性酵素)の遺伝子プロモーターの制御下で、ウイルスの複製に必要な遺伝子を発現するよう改変されています。このため、hTERTを高発現する腫瘍細胞に感染すると、ウイルスが腫瘍内で増殖します。増殖したウイルスは腫瘍細胞を溶解し、抗腫瘍効果を示すと期待されています。製造販売業者は、オンコリスバイオファーマ株式会社です。
テロメライシン注の効能は、根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道癌です。 用法は、放射線療法との併用が前提です。成人には、1回1 mL(1×10¹² vp)を、概ね2週間間隔で計3回投与します。投与は、上部消化管内視鏡下で腫瘍内に直接注入します。腫瘍の大きさや数によっては、1回2 mL(2×10¹² vp)まで増量できます。
有効性では、国内第Ⅱ相試験で投与開始後24週までのL-CR率41.7%が示されました。 この試験(OBP101JP試験)は、cStageⅡ・Ⅲの局所進行食道癌患者37例を対象に、国内17施設で実施されました。有効性の解析対象は、投与開始後の腫瘍評価を受けなかった1例を除く36例です。L-CR(局所完全奏効)とは、本品を投与した病変で、腫瘍を示唆する内視鏡所見が消失し、生検でも癌が認められない状態などを指します。24週までのL-CR率は41.7%(15/36例、90%信頼区間27.7~56.7%)でした。ただし、信頼区間の下限は、放射線単独療法のCR率から設定した閾値30.2%を下回りました。つまり、閾値に対する統計的有意差は認められていません。なお、24週の解析後に探索的に計画された18カ月間の解析では、L-CR率は50.0%(18/36例)でした。
安全性では、放射線療法との併用下で、有害事象が97.3%(36/37例)に認められました。 Grade 3以上の有害事象は、70.3%(26/37例)に認められました。頻度の高い有害事象は、発熱62.2%、リンパ球数減少56.8%、食道炎35.1%でした。これらの有害事象には、放射線療法による事象も含まれます。本品との因果関係が否定されなかった副作用は、70.3%(26/37例)でした。死亡に至った有害事象は1例(急性呼吸窮迫症候群)でした。この1例は放射線療法に関連した副作用と判断され、本品との因果関係は否定されています。本品の投与中止に至った有害事象は認められませんでした。
2. 使用できる施設・医師・患者の要件
GLは、施設、治療の責任者となる医師、投与対象となる患者の3つに要件を設けています。さらにGLは、投与時の留意事項と、カルタヘナ法に基づく取扱いも定めています。
施設は、がん診療体制、カルタヘナ法への対応、製造販売後調査の実施体制のすべてを満たす必要があります。 がん診療体制では、食道癌に対する放射線療法が実施可能であり、かつ次のいずれかに該当することが求められます。
* 厚生労働大臣が指定するがん診療連携拠点病院等
* 特定機能病院
* 都道府県知事が指定するがん診療連携病院
* 外来化学療法室を設置し、外来腫瘍化学療法診療料1・2・3のいずれかの施設基準を届け出ている施設
* 抗悪性腫瘍剤処方管理加算の施設基準を届け出ている施設
カルタヘナ法への対応では、第一種使用規程に従って本品を取り扱い、患者に説明するためのチーム医療体制が必要です。施設には、このほか2つの体制も求められます。1つは、再生医療等製品の情報管理担当者を置く体制です。もう1つは、重篤な副作用に対し、当該施設または連携施設で24時間対応できる体制です。
治療の責任者は、所定の臨床経験と、食道癌治療に必要な知識の両方を満たす医師です。 臨床経験は、医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、次のいずれかを満たす必要があります。
* 5年以上のがん治療の臨床研修(うち2年以上はがん薬物療法を主とした臨床腫瘍学の研修)
* 消化器癌のがん薬物療法を含む5年以上の消化器外科学の修練
* 4年以上の臨床経験(うち3年以上は消化器癌のがん薬物療法を含む消化器病学の臨床研修)
知識は、次のすべてを満たす必要があります。
* 食道癌の治療と上部消化管内視鏡診療の学識・技術を習得している
* 製造販売業者による適正使用の講習を受講し、資材の内容を十分理解している
* カルタヘナ法を理解し、第一種使用規程に従った取扱いができる
投与対象は、根治切除と化学放射線療法の適応とならない食道癌患者です。 ただし、次の患者は対象となりません。
* 頸部、胸部及び上腹部病変への放射線療法の治療歴があり、その照射野が本品適用対象の照射野と重複する患者
* 他の抗悪性腫瘍剤と併用する患者
* cStage 0のうち、標準的な内視鏡的切除が推奨される患者
* cStageⅣBのうち、通過障害がなく、標準的な化学療法が推奨される患者
cStageⅡ・Ⅲ以外の患者は、第Ⅱ相試験に組み入れられていません。このため、これらの患者への投与では、臨床上の必要性を十分に検討します。また、本品の成分に過敏症の既往歴がある患者は、禁忌・禁止とされています。
投与時の留意事項で最も重要なのは、投与回数を3回までとすることです。 3回を超える投与の有効性と安全性は、臨床試験で評価されていません。このため、放射線療法が延期になった場合でも、投与回数の上限は3回です。併用する放射線療法は、臨床試験と同じくDay 4からDay 43まで、1日2.0 Gy、週5回、総線量60 Gyを参考にします。副作用では、発熱、血球減少(リンパ球数減少、白血球数減少)、食道穿孔に注意して患者を観察します。
カルタヘナ法に基づく取扱いでは、ウイルスの拡散防止が求められます。 本品は、遺伝子組換え生物等を含む製品です。このため、本品の原液は、遺伝子組換え生物等である旨を表示して、適切に管理された冷凍庫などで保管します。調製は他の区画と明確に区別された作業室で、投与は他の区画と明確に区別された治療室で行います。投与後、排出等の管理が不要となるまでの期間は、患者が他の医療施設で治療を受けることを原則避けるよう指導します。廃棄は医療廃棄物管理規程に従い、処理業者へ委託する場合は感染性廃棄物として扱います。
3. 保険請求時の留意事項
保険請求では、GLに従った使用を前提に、レセプト摘要欄へ3つの事項を記載する必要があります。資料では、この留意事項通知は令和8年8月12日に発出され、翌13日から適用とされています。
留意事項の基本的な考え方は、GLに従って使用することです。 通知には、テロメライシン注を最適使用推進GLに従って使用する旨が明記されます。このため、GLの施設要件・医師要件・投与回数の上限は、保険請求でも確認すべき事項になります。
レセプト摘要欄には、施設要件、医師要件、投与回数の3項目を記載します。
* ① 医療施設の要件への該当性
* 対応するGLの項目:GL「4.施設について」①-1(1)の施設区分
* ② 治療の責任者の要件への該当性
* 対応するGLの項目:GL「4.施設について」①-2の医師要件
* ③ 本製品の投与回数
* 対応するGLの項目:投与回数(GLでは上限3回)
具体的な記載方法は、発出された留意事項通知で確認してください。施設区分と医師要件は、導入前に院内で確認しておくと、請求時の記載がスムーズです。
導入施設は、適用日に向けて診療部門とレセプト担当の情報共有が必要です。 診療部門は、施設要件と医師要件の該当性を確認します。レセプト担当は、摘要欄の記載方法と投与回数の管理方法を確認します。
まとめ:テロメライシン注は「限られた施設・医師・患者・回数」で使う製品
テロメライシン注は、要件を満たす施設で、適応となる患者に、3回を上限として使用する再生医療等製品です。臨床成績では、放射線療法との併用で24週までのL-CR率41.7%が示されましたが、閾値に対する統計的有意差は認められていません。使用要件では、施設、治療の責任者となる医師、投与対象となる患者の3つが定められています。保険請求では、レセプト摘要欄に施設要件、医師要件、投与回数を記載する必要があり、資料では令和8年8月13日から適用とされています。
参考資料
* 中医協 総-4-1「最適使用推進ガイドライン スラタデノツレブ(販売名:テロメライシン注)」(令和8年8月5日)
* 中医協 総-4-2「最適使用推進GLが策定された再生医療等製品の保険適用上の留意事項について(テロメライシン注)」(令和8年8月5日)
* 中医協 総-4参考「最適使用推進ガイドラインの取扱いに係る通知について」(令和8年8月5日)
令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第654回)で、再生医療等製品「テロメライシン注」の保険適用が議題になりました。テロメライシン注は、根治切除も化学放射線療法も適応とならない食道癌に使う遺伝子治療用製品です。本号では、この製品の特徴と薬価が決まった仕組みを、資料「総-3」をもとに解説します。
テロメライシン注の算定薬価は、2mL1瓶あたり3,102,489円です。この薬価は、比較薬「デリタクト注」の1クール薬価をもとに算定されました。算定では、有用性加算(Ⅱ)・市場性加算(Ⅰ)・先駆加算の3つが、各10%ずつ上乗せされました。上乗せの根拠は、放射線療法との併用で一定の効果が認められたことと、希少疾病用・先駆け審査の指定です。
テロメライシン注はどんな製品か
テロメライシン注は、腫瘍の中で増えて腫瘍細胞を溶かす、遺伝子組換えウイルスの製品です。製造販売元はオンコリスバイオファーマ(株)、成分名はスラタデノツレブです。製造販売承認日は令和8年6月8日、薬価基準収載予定日は令和8年8月13日です。また、テロメライシン注は世界で最初に日本で承認されました。
作用の仕組み
テロメライシン注の正体は、遺伝子を改変したヒトアデノウイルス5型です。このウイルスは、hTERTという遺伝子のプロモーター(遺伝子のスイッチ)の制御下で増殖に必要な遺伝子が働くよう改変されています。hTERTを多く発現する腫瘍細胞にウイルスが感染すると、ウイルスが腫瘍内で増殖します。増殖したウイルスは腫瘍細胞を溶かし、抗腫瘍効果を示すことが期待されています。
対象となる患者
テロメライシン注の効能・効果は、「根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道癌」です。つまり、根治を目指す手術の適応がなく、抗がん剤と放射線を組み合わせる治療の適応もない患者が対象です。
使い方
テロメライシン注は、放射線療法と併用して使います。通常、成人には1回あたり1mLを、上部消化管内視鏡で見ながら腫瘍に直接注射します。投与間隔は概ね2週間で、合計3回投与します。腫瘍の大きさや数に応じて、1回あたり2mLまで増量できます。
臨床試験で示された効果
テロメライシン注の効果は、国内第Ⅱ相試験(OBP101JP試験)で検討されました。この試験は、比較対照を置かない非盲検試験で、目標症例数は37例です。対象は、根治切除も化学放射線療法も適応とならない、cStageⅡ・Ⅲの局所進行食道癌患者です。
試験の方法
試験では、テロメライシン注を内視鏡下で病変全体に行き渡るよう、5~10か所に分けて注射しました。放射線療法は、初回投与の3日後に始めました。放射線の量は1日2.0Gy(グレイ)で、週5日、約6週間続けました。
試験の結果
試験の主要評価項目は、局所完全奏効率(L-CR)です。L-CRとは、食道の病変(局所)で完全奏効が得られた患者の割合です。投与開始後24週までのL-CRは41.7%(36例中15例)でした。投与開始後18か月までの評価では、L-CRは50.0%(36例中18例)でした。
薬価はどのように決まったか
テロメライシン注の薬価は、「類似薬効比較方式(Ⅰ)」で算定されました。類似薬効比較方式とは、効き方が似た既存の製品の価格を基準に、新製品の価格を決める方法です。算定は、令和8年7月10日の薬価算定組織で検討されました。
比較薬はデリタクト注
テロメライシン注の比較薬には、第一三共(株)の「デリタクト注」(テセルパツレブ)が選ばれました。デリタクト注は、悪性神経膠腫(脳腫瘍の一種)に使う、遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型の製品です。デリタクト注とテロメライシン注は、「腫瘍細胞選択的殺細胞作用/抗腫瘍作用」という薬理作用が共通しています。また、両者はどちらも注射剤です。
1クールあたりの価格をそろえる
テロメライシン注とデリタクト注は、投与回数が異なります。そのため、薬価は1クール(一連の治療)あたりの価格をそろえる方法で計算されました。
テロメライシン注
* 投与方法:2週に1回、計3回
* 1瓶の薬価:3,102,489円(2mL1瓶)
* 1クールの薬価:9,307,467円(2mL1瓶×3回)
デリタクト注
* 投与方法:4週に1回、6回まで
* 1瓶の薬価:1,431,918円(1mL1瓶)
* 1クールの薬価:8,591,508円(1mL1瓶×6回)
計算の出発点は、デリタクト注の1クール薬価から、市場性加算(Ⅰ)と先駆け加算に相当する額を差し引いた額です。この額とテロメライシン注の1クール薬価(2mL1瓶×3回)を合わせた結果、加算前の価格は2mL1瓶あたり2,386,530円になりました。
3つの加算で30%上乗せ
加算前の価格2,386,530円には、3つの補正加算が各10%ずつ、合計30%上乗せされました。この結果、算定薬価は2mL1瓶あたり3,102,489円になりました。
* 有用性加算(Ⅱ)10%:既存の治療方法では効果が不十分な患者群で、放射線療法との併用により一定の効果が認められたためです。また、副次評価項目である嚥下障害(飲み込みにくさ)のスコアに改善が認められたためです。
* 市場性加算(Ⅰ)10%:テロメライシン注が、希少疾病用再生医療等製品に指定されているためです。
* 先駆加算 10%:テロメライシン注が、先駆け審査指定制度の対象に指定されているためです。
その他の算定上の扱い
テロメライシン注は、世界で最初に日本で承認されました。そのため、外国価格はなく、外国平均価格調整も行われません。また、テロメライシン注は「革新的新薬薬価維持制度」の対象と判断されました。主な理由は、希少疾病用再生医療等製品に指定されていることです。一方、費用対効果評価の対象には該当しませんでした。
市場規模の予測
テロメライシン注の市場規模は、ピーク時で年間22億円と予測されています。この予測は、収載を希望したオンコリスバイオファーマ(株)によるものです。ピークは10年度目で、その年度の投与患者数は241人と見込まれています。
まとめ:標準治療の適応とならない食道癌に新たな選択肢
テロメライシン注は、令和8年8月13日に薬価基準へ収載される予定です。テロメライシン注は、根治切除も化学放射線療法も適応とならない食道癌に、放射線療法と併用して使う遺伝子治療用製品です。算定薬価は2mL1瓶3,102,489円、1クール9,307,467円です。この薬価は、デリタクト注を比較薬とし、有用性・市場性・先駆の3つの加算を各10%上乗せして算定されました。加算の根拠は、放射線療法との併用で一定の効果が認められたことと、希少疾病用・先駆け審査の指定です。
参考資料:中央社会保険医療協議会 総会(第654回)「総-3 再生医療等製品の保険適用について」(令和8年8月5日)
令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第654回)で、「医薬品の新規薬価収載等について」が議題となりました。この議題は、新薬の薬価、処方日数制限の例外、既収載品の薬価見直しという3つの内容を含みます。本号では、医療機関・薬局の実務に影響する3つの内容を、資料(総-2-1~総-2-3)に沿って整理します。
結論として、今回の議題は「新薬の価格決定」と「既存薬の価格引下げ」を同時に進める内容です。第1に、新薬10成分13品目は、令和8年8月13日に薬価基準へ収載される予定とされました。第2に、月経困難症治療薬「マルシロン配合錠」は、新薬の14日処方制限の例外として、20日処方とする案が示されました。第3に、ヌーカラ、ヒフデュラ、デュピクセントの3成分8品目は、令和8年11月1日から薬価が引き下げられます。
1. 新薬10成分13品目の薬価収載
新薬13品目は、令和8年8月13日に薬価基準へ収載される予定です。内訳は、内用薬7成分10品目、注射薬2成分2品目、外用薬1成分1品目です。算定方式は、類似薬効比較方式(Ⅰ)が5成分、規格間調整が3成分、原価計算方式が2成分でした。
1. ジャクスタピッドカプセル小児用2mg
* 対象疾患:ホモ接合体家族性高コレステロール血症
* 算定方式:規格間調整
* 主な補正加算:小児加算5%
* 算定薬価:2mg1カプセル 72,127.50円
2. マルシロン配合錠
* 対象疾患:月経困難症
* 算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
* 主な補正加算:有用性加算(Ⅱ)5%
* 算定薬価:1錠 276.90円
3. ウェイリズ錠400mg
* 対象疾患:持続性及び慢性免疫性血小板減少症
* 算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
* 主な補正加算:有用性加算(Ⅰ)35%、市場性加算(Ⅰ)10%
* 算定薬価:400mg1錠 6,168.30円
4. サデルガカプセル25mg
* 対象疾患:ゴーシェ病の諸症状の改善
* 算定方式:規格間調整
* 主な補正加算:小児加算5%
* 算定薬価:25mg1カプセル 25,023.10円
5. ジョエンジャ錠10mg・30mg・70mg
* 対象疾患:活性化PI3Kδ症候群
* 算定方式:原価計算方式
* 主な補正加算:有用性加算(Ⅰ)40%、市場性加算(Ⅰ)10%、小児加算10%(加算係数0のため上乗せなし)
* 算定薬価:10mg1錠 27,077.90円、30mg1錠 102,115.70円、70mg1錠 133,176.50円
6. イソトレックスカプセル8mg・16mg
* 対象疾患:大量化学療法後の神経芽腫
* 算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
* 主な補正加算:有用性加算(Ⅱ)5%、市場性加算(Ⅰ)20%
* 算定薬価:8mg1カプセル 507.90円、16mg1カプセル 984.00円
7. ゾコーバ錠25mg
* 対象疾患:SARS-CoV-2による感染症の治療及びその予防
* 算定方式:規格間調整
* 主な補正加算:小児加算5%
* 算定薬価:25mg1錠 2,575.40円
8. キネレット皮下注100mgシリンジ
* 対象疾患:全身型若年性特発性関節炎、成人発症スチル病
* 算定方式:原価計算方式
* 主な補正加算:市場性加算(Ⅰ)10%、小児加算5%(加算係数0のため上乗せなし)
* 算定薬価:100mg0.67mL1筒 23,702円
9. サークリサ皮下注1400mg
* 対象疾患:多発性骨髄腫
* 算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
* 主な補正加算:有用性加算(Ⅱ)5%
* 算定薬価:1,400mg10mL1瓶 270,495円
10. ロープレッサ点眼液0.02%
* 対象疾患:緑内障、高眼圧症(他の緑内障治療薬が効果不十分又は使用できない場合)
* 算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
* 主な補正加算:有用性加算(Ⅱ)10%
* 算定薬価:0.02%1mL 987.80円
高い加算評価を得たのは、新しい作用機序をもつ希少疾病薬
高い有用性加算の評価は、新しい作用機序で既存治療の限界を補う2剤に付きました。ウェイリズ錠は、免疫性血小板減少症で初めてのブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬として、有用性加算(Ⅰ)35%を得ました。ジョエンジャ錠は、活性化PI3Kδ症候群(APDS)に適応をもつ初の治療薬として、有用性加算(Ⅰ)40%と評価されました。ただし、ジョエンジャ錠は原価計算方式で、加算率に掛ける加算係数が0とされました。このため、ジョエンジャ錠の薬価には、加算額が実際には上乗せされていません。原価計算方式のキネレットも、同じく加算係数0のため加算額は上乗せされていません。
小児への使用を評価した品目は5成分
小児加算の要件には、5成分が該当しました。ジャクスタピッド、サデルガ、ゾコーバの3剤は、既収載品と同じ成分の小児向け新規格(新用量・剤形追加)です。この3剤には、「規格間調整のみの算定における特例」として小児加算5%が付き、薬価に上乗せされました。キネレットは、既収載品で対象外の2歳未満にも使える点などが評価され、小児加算5%と判断されました。ジョエンジャは、日本人小児を含む国際共同第Ⅲ相試験の実施などが評価され、小児加算10%と判断されました。ただし、キネレットとジョエンジャは前述の加算係数0により、小児加算の額も上乗せされていません。
ピーク時の販売予測が最も大きいのはサークリサ皮下注
市場規模の予測では、サークリサ皮下注1400mgが最大の224億円(ピーク時10年度)です。サークリサ皮下注は、既収載の点滴静注製剤と同じ成分の皮下注製剤です。この品目では、比較薬の1日薬価を計算する体重について、企業から不服意見が出されました。企業は、点滴静注製剤の実臨床での平均体重を用いるべきと主張しました。第二回算定組織(令和8年7月21日)はこの意見を受け、特定使用成績調査から算出した平均体重56.80kgを用いることが妥当と判断しました。販売予測の2番目以降は、ウェイリズ錠の89億円、マルシロン配合錠の75億円です。
費用対効果評価の対象は2品目
費用対効果評価の対象には、マルシロン配合錠(H2)とサークリサ皮下注(H1)が該当しました。費用対効果評価とは、収載後に効果と費用のバランスを分析し、その結果で薬価を調整する仕組みです。この2品目は、今後の評価結果によって薬価が見直される可能性があります。
2. マルシロン配合錠は「14日ルール」の例外として20日処方の案
マルシロン配合錠について、処方日数の上限を14日ではなく20日とする案が示されました。14日ルールとは、新薬を薬価基準収載の翌月初日から1年間、原則1回14日分までしか処方できない制限です。この制限は、平成22年10月27日の中医協了承により、合理性と安全性が確認できる新薬に限り例外的に緩和できます。例外とする新薬は、個別に中医協の確認を得る決まりです。
例外の根拠は「最大80日の連続投与」という用法と「20錠シート」という包装
例外とする1つ目の根拠は、疾患と製剤の特性です。LEP配合剤(低用量エストロゲン・プロゲステロン配合剤)では、28日以上を1周期とする投与法の方が、28日周期より疼痛日数を減らすとの報告があります。マルシロン配合錠も、24~80日間連続で服用した後に4日間休薬する用法をとります。さらに、本剤の最小交付単位は20錠入りPTPシート1枚と想定されています。
例外とする2つ目の根拠は、安全性です。国内第Ⅲ相試験は、24~80日間の連続投与後に4日間休薬する用法で実施されました。この試験で、既承認のLEP配合剤と比べて新たな安全性上の懸念は示されませんでした。
既存のLEP配合剤は30日、マルシロンは20日
処方日数の上限は、既存のLEP配合剤とマルシロン配合錠で異なります。既存のLEP配合剤(ルナベルLD・ULD、ヤーズ、ジェミーナ、アリッサ)は、28日を1周期とする用法をもち、収載時に30日処方とされました。一方、マルシロン配合錠は、最小交付単位が20錠シートであることなどを踏まえ、20日とする案です。処方・調剤の際は、既存薬と上限日数が異なる点に注意が必要です。
3. ヌーカラ・ヒフデュラ・デュピクセントの薬価を11月1日に引下げ
既収載の3成分8品目は、令和8年11月1日から薬価が引き下げられます。今回の見直しは、3月診療分のNDBデータ(レセプト情報のデータベース)に基づく検討の結果です。効能追加などを受けた品目は、薬価改定の時期に限らず年4回見直す仕組みがあり、今回は新薬収載の機会が活用されました。
ヌーカラ皮下注
* 見直しの種類:市場拡大再算定
* 100mgシリンジ:159,891円 → 143,766円(約10.1%引下げ)
* 100mgペン:159,891円 → 143,766円(約10.1%引下げ)
ヒフデュラ配合皮下注
* 見直しの種類:市場拡大再算定
* 5.6mL1瓶:634,797円 → 539,577円(約15.0%引下げ)
* シリンジ5mL1筒:665,026円 → 565,272円(約15.0%引下げ)
デュピクセント皮下注
* 見直しの種類:持続可能性特例価格調整
* 300mgシリンジ:53,493円 → 51,515円(約3.7%引下げ)
* 300mgペン:53,659円 → 51,675円(約3.7%引下げ)
* 200mgシリンジ:39,549円 → 38,087円(約3.7%引下げ)
* 200mgペン:39,706円 → 38,238円(約3.7%引下げ)
※引下げ率は、資料の現行薬価と改定薬価から編集部で算出しました。
ヌーカラとヒフデュラは「市場拡大再算定」に該当
ヌーカラとヒフデュラは、効能追加を受けた後に販売額が要件を超えたため、市場拡大再算定の対象となりました。市場拡大再算定とは、販売額が想定を大きく上回った医薬品の薬価を引き下げる仕組みです。2剤はともに、年間販売額350億円超かつ基準年間販売額の2倍以上という要件に該当しました。ヌーカラは令和6年8月に「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎」が、ヒフデュラは令和6年12月に「慢性炎症性脱髄性多発根神経炎」が追加されています。
デュピクセントは「持続可能性特例価格調整」に該当
デュピクセントは、販売規模が極めて大きいため、持続可能性特例価格調整の対象となりました。持続可能性特例価格調整とは、巨額の販売額に達した医薬品の薬価を引き下げる特例です。デュピクセントは、令和7年3月に「慢性閉塞性肺疾患」が追加されており、年間販売額1,500億円かつ基準年間販売額の1.3倍以上という要件に該当しました。一方で、希少疾病(A=10%)と小児適応(A=5%)の効能追加に係る補正加算が適用され、引下げ率は約3.7%となりました。
適用まで約3か月の猶予を設定
改定薬価の適用日は、令和8年11月1日です。この猶予期間は、医療機関や薬局の在庫への影響を踏まえて設けられました。3剤を扱う施設は、11月1日を境に請求価格が変わる点を在庫管理に反映させる必要があります。
まとめ:8月の新薬収載と11月の薬価引下げに備える
第654回中医協総会では、新薬の価格決定と既存薬の価格引下げが同時に示されました。第1に、新薬10成分13品目は8月13日に収載予定とされ、希少疾病や小児への使用が加算で評価されました。第2に、マルシロン配合錠は14日ルールの例外として、1回20日分まで処方できるとする案が示されました。第3に、ヌーカラ、ヒフデュラ、デュピクセントの薬価は、11月1日から約3.7~15%引き下げられます。処方日数の上限と11月の薬価変更を、院内の採用薬リストと在庫管理に早めに反映させましょう。
※出典:中央社会保険医療協議会 総会(第654回)資料 総-2-1、総-2-2、総-2-3(令和8年8月5日)。資料の記載は「収載予定」「案」の段階のため、最終的な取扱いは議事録・告示でご確認ください。
令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第654回)で、新しい医療機器3品目の保険適用が了承されました。3品目はいずれも、令和8年9月1日に収載予定とされています。新しい医療機器を使うと、価格だけでなく算定できる条件も変わるため、現場では事前の確認が欠かせません。本号では、3品目の価格と算定ルールを、医療機関の実務に役立つ形で整理します。
3品目はすべて「区分C1(新機能)」として、新しい機能区分や算定ルールとともに保険適用されます。1つ目のBD アビテン フロアブルは、流動体型の止血材として48,700円で収載されます。2つ目のサージセル・アブソーバブル・ヘモスタットMDは、オスラー病などの鼻出血に対して、在宅で使える止血材として追加されます。3つ目のアントラー胆管ステントは、肝門部胆管の閉塞に使うY字型ステントとして、カバーありで345,000円、カバーなしで340,000円で収載されます。
用語メモ
* 区分C1(新機能):既存の機能区分では評価できない新しい機能を持つため、機能区分の新設や見直しを伴って保険適用される区分です。
* 特定保険医療材料:手術料などの技術料とは別に、材料の価格を算定できる医療材料です。
* 保険償還価格:特定保険医療材料を使ったときに、医療機関が請求できる材料の価格です。
BD アビテン フロアブル:流動体型の止血材を新区分で評価
BD アビテン フロアブルは、「106 微線維性コラーゲン」に新設される「フロアブル型(トロンビン非含有)」として、48,700円で収載されます。この区分では、1回の手術に対して1個まで算定できます。
BD アビテン フロアブルは、手術中に通常の方法で止血できない場面を補助する止血材です。この製品は、ウシ真皮由来の微線維性コラーゲンの粉末を、生理食塩液と混ぜて流動体にして使います。成分にはヒトトロンビン(血液を固める働きを持つ、ヒト血液由来の成分)を含みません。ヒツジを使った動物試験では、本品は全例で急性期の止血を達成し、既存の止血材(フロシール)と同等の安全性を示しました。
償還価格の48,700円は、製造原価などを積み上げる「原価計算方式」で算定されました。企業は、改良加算(補正加算の一種)を含む62,200円を希望していました。加算を求めた理由は、より安全かつ簡易な手技が可能になる点と、生物由来の原料(ヒトトロンビン)を除いても同等の機能を持つ点です。しかし、補正加算は認められず、最終的な価格は企業希望の約78%となりました。外国平均価格との比は0.81です。
算定ルールの面では、「106 微線維性コラーゲン」が形状と成分によって2つの機能区分に分けられます。2つの区分は、新設の「フロアブル型(トロンビン非含有)」と、それ以外の製品が該当する「標準型」です。フロアブル型として扱われるのは、フロアブルタイプであり、かつヒトトロンビンを含まない止血材です。このフロアブル型は、1回の手術に対して1個まで算定できます。
サージセル・アブソーバブル・ヘモスタットMD:在宅で使える止血材に追加
サージセル・アブソーバブル・ヘモスタットMDは、在宅で使える特定保険医療材料として、「017 デンプン由来吸収性局所止血材」に追加されます。在宅で算定できるのは、オスラー病などの高頻度の鼻出血に対して、医師の指示に従って使った場合に限られます。
サージセル・アブソーバブル・ヘモスタットMDは、酸化再生セルロースを原料とする吸収性の止血材です。この製品は、すでに医科と歯科の特定保険医療材料(手術時などに使う材料)として保険適用されています。今回、患者自身が自宅で使うための薬事承認を取得したため、在宅での使用が保険の対象になりました。対象となるオスラー病は、遺伝性の指定難病です。オスラー病では高頻度の鼻出血がみられます。この鼻出血は、末梢の血管壁の異常によって出血しやすく、出血後に血管が縮みにくいため止血しづらいという特徴があります。
償還価格は、標準型が1g当たり12,600円、織布型が1㎠当たり48円です。算定方式は、医科・歯科ですでに設けられている「デンプン由来吸収性局所止血材」の区分を類似区分とする「類似機能区分比較方式」です。この価格は、企業の希望価格と同額です。外国平均価格との比は、標準型が0.90、織布型が0.61です。
算定ルールの面では、在宅医療用の材料価格の一覧(材料価格基準の別表Ⅰ)と、調剤用の一覧(別表Ⅷ)に「デンプン由来吸収性局所止血材」が追加されます。区分は、医科・歯科と同じく「標準型」と「織布型」の2つです。算定する際には、使う医学的な必要性を診療報酬明細書(レセプト)の摘要欄に記載する必要があります。また、添付文書では、医療従事者の指示と指導なしに使わないよう注意喚起されます。
アントラー胆管ステント:肝門部用のY字型ステントを新区分で評価
アントラー胆管ステントは、「034 胆道ステントセット」に新設される「分岐部対応型」として、カバーありで345,000円、カバーなしで340,000円で収載されます。この区分では、両葉ドレナージを行う場合に、1回の手術に対して1個まで算定できます。
アントラー胆管ステントは、外科的に切除できない胆道癌によって狭くなったり詰まったりした肝門部胆管を広げ、胆汁の通り道を保つためのステントです。肝門部胆管は、肝臓の入り口で左右に分かれる胆管です。このステントは肝門部胆管の走行に合わせたY字型をしており、左右両方の胆管から胆汁を流す「両葉ドレナージ」に使われます。ステントは、内視鏡を使って胆管に挿入します。ステントの表面を膜で覆った「カバーあり」と、膜のない「カバーなし」の2種類があります。
償還価格は、原価計算方式で算定されました。企業は、カバーありで455,000円、カバーなしで451,000円を希望していました。最終的な価格は、カバーありが企業希望の約76%、カバーなしが約75%となりました。海外での販売実績はないため、外国平均価格との比較は行われていません。なお、ステントを留置する手技は「K688 内視鏡的胆道ステント留置術(11,540点)」で算定します。
算定ルールの面では、「034 胆道ステントセット」の機能区分が合計10区分に増えます。今回新設されるのは、「自動装着システム付・永久留置型・分岐部対応型」のカバーありとカバーなしの2区分です。この区分を算定するには、関連学会が定める適正使用指針を守る必要があります。本品については、日本胆道学会が適正使用指針を公表しており、対象となる症例や、医師と施設の要件が定められています。算定の対象は、外科的に切除できない胆道癌による肝門部胆管の閉塞または狭窄に対して、両葉ドレナージを行う場合です。
まとめ:3品目の価格と新しい算定ルールを確認
令和8年8月5日の中医協総会で、区分C1(新機能)の医療機器3品目の保険適用が了承されました。3品目は、令和8年9月1日に収載予定です。BD アビテン フロアブルは、流動体型の止血材として48,700円で収載され、1回の手術に1個まで算定できます。サージセル・アブソーバブル・ヘモスタットMDは、オスラー病などの鼻出血に対して、在宅で使える止血材として追加されます。アントラー胆管ステントは、肝門部用のY字型ステントとして345,000円(カバーあり)と340,000円(カバーなし)で収載され、適正使用指針を守ることが算定の条件です。
なお、3品目はいずれも市場規模の予測が50億円未満のため、費用対効果評価の対象にはなりません。各品目を使う予定の医療機関では、算定の上限や摘要欄への記載など、新しい算定ルールを事前に確認しておきましょう。
出典:中央社会保険医療協議会 総会(第654回)資料「総-1 医療機器の保険適用について」(令和8年8月5日)
令和8年7月22日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第653回)で、厚生労働省が「主な施設基準の届出状況」と「主な選定療養に係る報告状況」を公表しました。この2つの資料は、診療報酬改定の効果を数字で確かめられる数少ないデータです。本号では、資料から読み取れる重要な変化を、初めての方にもわかるように整理します。
今回のデータが示すのは、外来の体制整備が進む一方で、患者の自己負担となる保険外の料金が広がっているという傾向です。1つ目に、オンライン診療と医療DXの届出が、診療所を中心に大きく増えました。2つ目に、差額ベッド(特別の療養環境)の病床は約28.8万床となり、報告医療機関の総病床数の23.0%に達しました。3つ目に、大病院を紹介状なしで受診したときの初診の定額負担は、7,000円前後の設定が大半を占めるようになりました。
※今回公表されたのは、令和7年8月1日時点の集計です(令和5年以前は7月1日時点)。現時点の集計値であり、今後修正される可能性があります。
1. オンライン診療と医療DXの届出が診療所で急増
外来の体制に関する届出は、オンライン診療、医療DX、感染対策の3分野で増加が続いています。まず、2つの用語を確認しておきます。「施設基準」とは、特定の診療報酬を算定するために医療機関が満たすべき人員や設備の条件です。医療機関はこの条件を満たしたうえで、地方厚生(支)局へ「届出」を行います。つまり、届出数の推移を見ると、どの体制整備が現場に広がっているかがわかります。
オンライン診療(情報通信機器を用いた診療)の届出は、2年で約1.6倍に増えました。 診療所の届出は、令和5年の7,713件から、令和6年に10,988件、令和7年に12,598件へと増えています。病院の届出も、818件から1,305件、1,434件へと増えました。診療所全体(89,094施設)で見ると、およそ7施設に1施設がオンライン診療の体制を届け出ている計算です。
医療DX推進体制整備加算の届出は、1年で診療所が約1.4万件増えました。 この加算は、オンライン請求の実施や、オンライン資格確認で得た診療情報を診療に活用する体制などを評価するものです。診療所の届出は、令和6年の33,169件から、令和7年に47,166件へ増えています。病院の届出も、3,780件から4,622件へ増えました。
外来感染対策向上加算の届出も、診療所で増加が続いています。 この加算は、診療所が院内感染対策や発熱患者の診療体制を整えた場合に算定できます。届出は、令和5年の17,868件から、令和6年に25,736件、令和7年に27,170件へ増えました。
かかりつけ医機能を評価する機能強化加算も、緩やかに増えています。 診療所の届出は、13,518件(令和5年)、14,133件(令和6年)、14,630件(令和7年)と推移しました。
なお、医療機関の総数は、病院と歯科医療機関で減少が続いています。病院は8,139施設(令和5年)から8,019施設(令和7年)へ、歯科医療機関は69,182施設から67,594施設へ減りました。一方、診療所は88,632施設から89,094施設へ、薬局は61,059施設から61,841施設へ増えています。施設数が減る病院の側でも、オンライン診療などの届出は増えている点に注目してください。
2. 差額ベッドの病床が1年で約2.3万床増え、総病床の23%に
差額ベッドの病床数は、令和7年に大きく増えました。差額ベッドとは、個室など特別な療養環境の病室に入院したときに、患者が診療報酬とは別に料金を支払う病床です。このような保険外の追加料金を認める仕組みを「選定療養」と呼びます。選定療養の報告状況からは、患者の自己負担がどこで生じているかがわかります。
差額ベッドの病床数は、令和7年に約28.8万床へ増えました。 病床数は、令和4年から令和6年まで約26.5万床前後で横ばいでした。しかし、令和7年には287,598床となり、前年から約2.3万床増えています。報告医療機関の総病床数に占める割合も、20.8%から23.0%へ上がりました。
差額ベッド病床数の推移(カッコ内は報告医療機関の総病床数に占める割合)
* 令和4年7月1日:266,756床(20.3%)/総病床数 1,315,107床
* 令和5年7月1日:266,024床(20.1%)/総病床数 1,320,748床
* 令和6年8月1日:264,707床(20.8%)/総病床数 1,275,612床
* 令和7年8月1日:287,598床(23.0%)/総病床数 1,252,229床
増加分の大部分は、1人室(個室)です。 1人室は、令和6年の182,544床から、令和7年に202,592床へ約2万床増えました。総病床数に占める1人室の割合は16.2%です。報告医療機関の総病床数は減っているため、病床に占める差額ベッドの比重が一段と高まっています。
1日あたりの平均徴収額(推計)も、令和4年から毎年上がっています。 差額ベッド全体の平均は、6,620円(令和4年)、6,714円(令和5年)、6,862円(令和6年)、7,026円(令和7年)と推移しました。令和7年の1人室の平均は8,710円で、2人室は3,161円、3人室は2,815円、4人室は2,894円です。最低額は50円、最高額は1日385,000円でした。
3. 大病院の紹介状なし受診は、7,000円前後の定額負担が主流に
大病院を紹介状なしで受診したときの初診の定額負担は、7,000円前後の設定が大半を占めるようになりました。この定額負担は、病床数200床以上の病院で、紹介状を持たずに受診した患者などから徴収する選定療養の料金です。外来の機能分化を進めるため、一定の要件に該当する病院には一定額以上の徴収が求められています。
初診の定額負担は、報告した医科の病院の約4分の3が6,601~7,700円の階級に設定しています。 報告した病院は1,132施設で、そのうち851施設(75%)がこの階級に入りました。7,701円以上に設定している病院も61施設あります。令和4年は4,951~5,500円の階級が最多でしたが、令和5年以降は6,601~7,700円の階級が最多となっています。参考値として、平均は6,770円、最高額は13,200円でした。
再診の定額負担は、報告した医科の病院の約86%が2,751~3,300円の階級に設定しています。 令和7年に報告した病院は991施設で、そのうち853施設がこの階級に入りました。報告した病院の数は、745施設(令和4年)から991施設(令和7年)へ増えています。
その他の選定療養では、新しい項目の報告が増えました。 主な項目の動きは、次のとおりです。
* 間歇スキャン式持続血糖測定器の使用:報告医療機関数は54施設(令和6年)から392施設(令和7年)へ増えました。平均徴収額は7,771円です。
* 多焦点眼内レンズの支給(白内障手術):報告医療機関数は1,000施設(令和4年)から1,261施設(令和7年)へ増えました。
* 患者の都合による精子の凍結・融解:報告医療機関数は160施設(令和6年)から215施設(令和7年)へ増えました。平均徴収額は21,839円です。
* 入院期間が180日を超える入院:報告医療機関数は584施設(令和4年)から377施設(令和7年)へ減りました。
まとめ:体制整備の拡大と自己負担の拡大が同時に進む
令和7年8月1日時点の届出・報告データは、外来の体制整備が進む一方で、患者の自己負担となる保険外の料金が広がっていることを示しました。
* オンライン診療と医療DX:診療所の届出が急増し、オンライン診療は12,598件、医療DX推進体制整備加算は47,166件に達しました。
* 差額ベッド:病床数は約28.8万床に増え、報告医療機関の総病床数の23.0%を占めました。平均徴収額(推計)は1日7,026円です。
* 大病院の定額負担:初診は6,601~7,700円、再診は2,751~3,300円の階級に設定する病院が大半を占めるようになりました。
これらの数字は、地方厚生(支)局で閲覧できる届出状況の全国集計です。自院の届出状況を地域や全国の傾向と比べることで、次の診療報酬改定に向けた体制整備の優先順位を考える材料になります。
参考資料
* 中央社会保険医療協議会 総会(第653回)議事次第(令和8年7月22日)
* 中医協 総-4-1「主な施設基準の届出状況等」
* 中医協 総-4-2「主な選定療養に係る報告状況」
令和8年7月22日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第653回)で、歯科用貴金属価格の随時改定案が示されました。歯科用貴金属の告示価格は、金やパラジウムの市場価格に連動して年4回見直されるため、歯科医療機関は改定のたびに新しい価格を把握する必要があります。本号では、令和8年9月の随時改定について、仕組み・改定結果・実務上の注意点を解説します。
令和8年9月の随時改定では、対象の9品目すべてで告示価格が引き下げられます。1つ目のポイントは、告示価格が「平均素材価格の変動幅×1.1」で補正される仕組みです。2つ目のポイントは、保険診療で広く使われる金銀パラジウム合金(金12%以上)が、1gあたり5,746円から5,232円へ514円引き下げられることです。3つ目のポイントは、引下げの背景にある金とパラジウムの素材価格下落と、それに伴う在庫管理の注意点です。
随時改定の仕組み:素材価格の変動幅×1.1で補正
歯科用貴金属の随時改定は、素材価格の変動を年4回、告示価格に反映する仕組みです。この仕組みでは、前回改定からの素材価格の変動幅だけを、現在の告示価格に上乗せまたは差し引きします。
随時改定は、診療報酬改定時以外の3月・6月・9月・12月に実施されます。この実施月は、令和6年6月から適用されているものです。令和4年4月から令和6年5月までは、1月・4月・7月・10月に実施されていました。また、令和4年4月以降は、変動幅の大小にかかわらず毎回見直しが行われます。
改定後の価格は、次の算式で計算されます。
改定後の価格 = 改定前の告示価格 +(X − Y)× 1.1
算式のXとYは、どちらも平均素材価格です。Xは、前回改定以降の平均素材価格を指します。Yは、前回改定で用いた平均素材価格を指します。平均素材価格とは、金・銀・パラジウムそれぞれの取引価格の平均値に、合金ごとの含有比率を掛けて算出した値です。なお、算出には改定の2か月前までの取引価格が使われます。
今回の9月改定では、Xに令和8年4月〜6月の平均値、Yに令和8年1月〜3月の平均値が使われました。たとえば金銀パラジウム合金(金12%以上)の場合、Xは4,432.6円、Yは4,900.3円です。この差額−467.7円に1.1を掛けた−514.47円が、改定前の5,746円から差し引かれます。計算結果の5,231.5円(試算価格)を1円単位に丸めた5,232円が、告示価格案となります。
告示価格のうち、製造流通コストなどの部分は固定されています。随時改定で動くのは、素材価格に相当する部分だけです。
改定結果:対象9品目すべてが引下げ
令和8年9月の随時改定では、対象9品目すべての告示価格が下がります。引下げ率は、品目によって約5.1%から約9.5%です。なお、以下の9月改定の価格は、第653回総会で示された告示価格案です。
価格はすべて1gあたりで、「6月改定 → 9月改定(案)(増減)」の順に示します。
14カラット金合金系(4品目)
* 2 歯科鋳造用14カラット金合金 インレー用:16,789円 → 15,871円(−918円)
* 3 歯科鋳造用14カラット金合金 鉤用:16,954円 → 16,036円(−918円)
* 4 歯科用14カラット金合金鉤用線:16,958円 → 16,040円(−918円)
* 5 歯科用14カラット合金用金ろう:16,425円 → 15,507円(−918円)
金銀パラジウム合金系(2品目)
* 6 歯科鋳造用金銀パラジウム合金(金12%以上):5,746円 → 5,232円(−514円)
* 10 歯科用金銀パラジウム合金ろう(金15%以上):8,250円 → 7,770円(−480円)
銀合金・銀ろう(3品目)
* 11 歯科鋳造用銀合金 第1種:327円 → 296円(−31円)
* 12 歯科鋳造用銀合金 第2種:414円 → 383円(−31円)
* 13 歯科用銀ろう:353円 → 335円(−18円)
14カラット金合金系の4品目は、いずれも1gあたり918円引き下げられます。4品目の引下げ額がそろっているのは、同じXとYを用いて補正幅を計算しているためです。引下げ率は約5.4%〜5.6%です。
金銀パラジウム合金系の2品目は、1gあたり480円〜514円引き下げられます。保険診療で広く使われる金銀パラジウム合金(金12%以上)は、5,746円から5,232円となり、引下げ率は約8.9%です。
銀合金・銀ろうの3品目は、1gあたり18円〜31円引き下げられます。金額は小さいものの、銀合金第1種の引下げ率は約9.5%で、9品目の中で最も大きくなっています。
今回の引下げは、資料に掲載された直近の改定の流れが転換したことを示しています。金銀パラジウム合金(金12%以上)の告示価格は、令和7年12月の3,802円から、令和8年3月の4,779円、6月の5,746円へと上昇が続いていました。9月改定は、この上昇局面から一転した引下げです。
素材価格の下落と歯科医療機関の実務対応
今回の引下げの背景には、金とパラジウムの素材価格の下落があります。この下落は、高値で購入した在庫を抱える歯科医療機関にとって、収支面の注意点となります。なお、本節の素材価格の数値は資料のグラフから読み取った概算値です。また、実務対応は資料の記載ではなく、編集部による一般的な解説です。
金の素材価格は、令和8年3月頃に1gあたり約25,000円でピークを迎えました。その後は下落に転じ、令和8年6月には約22,000円まで下がっています。パラジウムの素材価格も、令和8年1月頃の約9,400円をピークに、6月には約6,700円まで下がりました。これらの値動きを反映し、12%金銀パラジウム合金の素材価格も、約5,000円から約4,100円へ下落しています。
素材価格の下落局面では、購入価格と告示価格の差に注意が必要です。随時改定には、素材価格の変動が告示価格に反映されるまでにタイムラグがあります。そのため、高値の時期に仕入れた合金を、引き下げられた告示価格で請求すると、購入価格が告示価格を上回る「逆ざや」が生じるおそれがあります。実際に逆ざやになるかどうかは、各医療機関の仕入れ価格によって異なります。
逆ざやを避けるには、在庫の量と仕入れ時期の管理が有効です。具体的には、仕入れ単価と現行の告示価格を定期的に照らし合わせることが考えられます。また、相場の動きを見ながら、必要量に応じた発注を心がけることも有効です。
まとめ:9月改定は全品目引下げ、在庫管理の見直しを
令和8年9月の歯科用貴金属価格の随時改定では、対象9品目すべてで告示価格が引き下げられます。告示価格は、前回改定からの平均素材価格の変動幅に1.1を掛けて補正されます。金銀パラジウム合金(金12%以上)は、1gあたり5,746円から5,232円へ514円引き下げられます。引下げの背景には金とパラジウムの素材価格下落があるため、仕入れ単価と告示価格の差を確認し、在庫管理を見直しましょう。
(出典:中央社会保険医療協議会 総会(第653回)資料「総-3 歯科用貴金属価格の随時改定について」令和8年7月22日)
令和8年7月22日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第653回)で、iPS細胞由来の心筋細胞シート「リハート」(クオリプス株式会社)の保険適用が了承されました。リハートは条件及び期限付承認を受けた製品であり、通常の承認品とは異なる診療報酬上のルールが適用されます。本号では、医療機関や医療事務の担当者が押さえるべき価格と算定ルールを整理します。
リハートは、令和8年9月1日に償還価格5,320万円で保険収載される予定です。第一に、価格は原価計算方式で算定され、市場性加算(Ⅰ)10%が適用されました。第二に、材料の算定は「1人につき1回」に限られ、移植手技と前処置には既存の技術料を準用します。また、移植後の免疫抑制剤の管理が特定薬剤治療管理料1の対象に加わります。第三に、本品は条件及び期限付承認製品のため、有用性系加算と費用対効果評価の判断は「改めて承認を受けた際」に持ち越されます。
リハートとはどのような製品か
リハートは、標準治療で効果不十分な虚血性心筋症による重症心不全に使う、ヒト(同種)iPS細胞由来の心筋細胞シートです。本品は全身麻酔下の左側開胸手術で心臓の表面に移植されます。
作用の仕組みは、移植した心筋細胞からの分泌物質による心筋の改善です。移植した細胞はサイトカインや成長因子などを分泌します。これらの物質が血管新生を促し、線維化を抑えることで、心機能と運動耐容能の改善・維持が期待されています。
有効性は、8例を対象とした国内臨床試験(非盲検・非対照)で「推定」されました。主要評価項目である移植後26週の左室駆出率(LVEF)は、8例中2例で5%以上改善しました。副次評価項目では、NYHA心機能分類が8例全例で1度以上改善しています。この結果から、有効性を推定できる一定の基準を満たすと判断されました。
安全性は、臨床試験で死亡率0%と報告されています(追跡は移植後3年が5例、移植後5年が3例)。iPS細胞特有の腫瘍化リスクには、未分化細胞を除去する製造工程で対応しています。他人の細胞を移植することによる免疫拒絶には、移植翌日から90日間の免疫抑制剤投与で対応します。
承認後の検証として、全例を対象とした使用成績調査が実施されます。目標症例数は75例です。この調査では、外部対照との比較により有効性を検証的に評価します。
価格:原価計算方式で5,320万円
リハートの償還価格は、原価計算方式により5,320万円と決まりました。区分はC2(新機能・新技術)で、類似する機能区分がないため原価から積み上げる方式が採られています。
補正加算は、市場性加算(Ⅰ)10%が適用されました。市場性加算(Ⅰ)は、一般に希少疾病用として指定された製品に適用される加算です。加算係数は1.0であり、これは原価の開示度が高いことを示します。
企業希望価格との差は、20万円です。企業は5,340万円を希望していましたが、了承された価格は5,320万円でした。外国平均価格との比は、資料上「-」となっています。
市場規模は、ピーク時(10年度)に使用患者96人、販売金額51.1億円と予測されています。なお、推定適用患者数(ピーク時)は初年度の690人です。この690人は対象となりうる患者数であり、実際の使用患者数(96人)とは異なります。
算定ルール:1人1回、2つの準用技術料と管理料の対象追加
リハートの算定は「1人につき1回まで」に限られ、移植手技と前処置には既存の技術料を準用します。新たに「248 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート」という機能区分が設けられます。
材料の算定条件は、関連学会の適正使用指針に従って使用することです。対象は、虚血性心筋症による重症心不全患者のうち、薬物治療や侵襲的治療を含む標準治療で効果不十分な症例に限られます。使用時には、診療報酬明細書の摘要欄に理由と医学的根拠を詳しく記載する必要があります。
関連する点数は、移植手技・前処置・術後管理の3つです。このうち移植手技と前処置は「準用」、術後管理は既存の管理料の「対象追加」という違いがあります。
* 移植手技:K605-5 骨格筋由来細胞シート心表面移植術(準用)9,420点
* 移植の前処置:K920 輸血 注12 血小板洗浄術加算(準用)580点
* 術後の免疫抑制剤管理:B001 2 イ 特定薬剤治療管理料1(対象患者に追加)470点
移植手技は、K605-5の所定点数を準用します。企業はK539心膜切開術(9,420点)の準用を希望していましたが、案では細胞シートを心臓表面に移植する手技であるK605-5とされました。点数はどちらも9,420点です。
前処置は、K920輸血の注12「血小板洗浄術加算」の点数を準用します。K920の留意事項に、新たに(27)として追記されます。
術後管理は、特定薬剤治療管理料1の対象患者に追加されます。対象は、移植後に拒絶反応を抑えるため免疫抑制剤を投与している患者です。血中濃度を測定して投与量を精密に管理した場合、月1回に限り算定できます。
条件及び期限付承認製品としての取扱い
リハートの価格算定には、令和8年1月14日に中医協が了解した「条件及び期限付き承認を受けた再生医療等製品」のルールが適用されています。このルールは、有効性が「確認」ではなく「推定」の段階で承認されたことを前提にしています。
算定時の取扱いでは、有用性系加算の該当性を判断しません。原価計算方式の場合、営業利益率は平均的な営業利益率に0.5を乗じた値を使います。一方、有用性系以外の補正加算は算定時に判断されます。リハートに市場性加算(Ⅰ)が適用されたのは、このルールに沿った結果です。
収載後の取扱いでは、費用対効果評価の該当性判断が先送りされます。分析に必要なデータが不十分と想定されるためです。一方、市場拡大再算定は通常の承認品と同様に扱われます。
改めて承認を受けた際には、価格が再検討されます。具体的には、営業利益率の係数や補正加算の適用・控除を専門組織で検討し、中医協総会の了承を経ます。つまり、使用成績調査の結果次第で、リハートの価格は将来見直される可能性があります。
まとめ:9月1日収載に向けて押さえる3つのポイント
iPS細胞由来の心筋細胞シート「リハート」は、令和8年9月1日に償還価格5,320万円で保険収載される予定です。
* 価格:原価計算方式で算定され、市場性加算(Ⅰ)10%が適用されました。
* 算定ルール:材料は1人1回に限られます。移植手技(9,420点)と前処置(580点)は既存の技術料を準用し、免疫抑制剤管理は特定薬剤治療管理料1(470点)の対象に追加されます。
* 承認後の対応:条件及び期限付承認製品のため、有用性系加算と費用対効果評価は改めて承認を受けた際に判断されます。
対象となる医療機関では、関連学会の適正使用指針の確認と、摘要欄への記載体制の準備を進めておきましょう。
参考資料:中央社会保険医療協議会 総会(第653回)資料「総-2 再生医療等製品の保険適用について」「総-2参考 条件及び期限付き承認を受けた再生医療等製品に対する対応について(概要)」(令和8年7月22日)
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