Interview Baton #16 “Misato_Winchester”
ピンクのロングヘアーにアートスティックな衣装。ギブソンのアコースティックギターを肩に掛けステージに上がるシンガーソングライターの“美里ウィンチェスター”さん。
メンバーは彼女ただひとり。アイドルのように手を振りながら、キャピキャピとした女性特有の声で観客に笑顔で挨拶をする。同時に、観客たちが、彼女の演奏を少しでも近くで観ようとステージを取り囲む。セッティングが完了し、歌う喜びを味わうかのように満面の笑みを浮かべマイクに向かう。それまで、会場全体を照らしていたライトがステージ上の彼女だけを照らす。一呼吸置いたと同時に、おっとりとした優しい目付きから、鋭い目つきに変わり、別人格が乗り移ったかのように、体全体で激しくリズムを取りながら弾き奏でるアコースティックギターの音色と、アバンギャルドな彼女の歌声が一瞬にして会場を興奮のルツボへと変える。歌っている姿は、演奏前とのギャップがスゴイ。アーティスト独特のオーラを放ち、誰しもが憧れるカッコよさを感じる。アコースティックギターは、彼女の体に取り込まれたかのように彼女自身の歌声とシンクロし、会場全体をウィンチェスターワールドへと引き込む。
楽曲は全て彼女自身のオリジナル。ギターで作曲を行い、日常の中で得たインスピレーションを歌詞にしている。彼女の父親でもあるマネージャー “パパウィンチェスター”さんに聞いてもらい、練習やリハーサルは自宅で行う。
彼女の父親自身もミュージシャンだったこともあり、ギターや歌のアドバイス等は受けたものの、一方的な押し付けではなく、彼女が14歳の時にギターを教えてほしいと自らお願いしたらしい。「曲作りのセンスがとてもいいんです」とパパウィンチェスターさんは教えてくれた。隣で聞いていたその時の彼女は、照れくさい表情を浮かべていたのがとても印象的だった。実の父親に褒められること程、嬉しいことはなく、同時に一人前のシンガーソングライターとして認めていることだと分かる。
また、偽りのない自然な口調で褒める父親の姿は、自分の子供に絶対的な自信と敬意を払っているようにも見える。時々、親子喧嘩はするようだが、決して仲が悪い分けではない。お互いの意見がぶつかることで、共に高め合い、信頼し尊敬し合っている素晴らしい親子関係だ。親子で出演する時もある自身のYouTubeチャンネル「とるねーどきゃわぷるこーん(略:とるきゃわ)」で、その様子を垣間見ることができる。
作り上げる曲はジャンルの枠に捕らわれる事なく、ポップス以外にもブルース、ロカビリー、ロックなど幅が広い。父親の影響もあるようだが、他の出演アーティストに教えてもらったBostonやRolling Stones、T.REXなど、彼女が生まれる前の往年のロックスターの影響も大きい。今の彼女のスタイルを作る上で重要な要素となっている。教えてくれたバンドの曲をいくつか聞いてみたが、今の時代にはない新鮮で刺激的な曲ばかりだ。JazzやR&B/Soulが中心で、ロックを好んで聴くことは無かったぼくだが、今では彼女のおかげで、ほぼ毎日聴いている。
以前は事務所にも所属していたようだが、現在は完全にフリーでライブハウスを中心に活動し続けている。ライブ終了後、また彼女の曲を聴きたくなり、配信サイトやCDを探したがみつからない。以前、2000枚限定で東京の渋谷にある某有名レコードショップで発売されていたようだが、現在では全て完売してしまい、彼女の曲を聴けるのがYouTubeとライブハウスのみ。しかし、2022年のCD化の案件があると教えてくれた。実現すればファンにとっては待望のCD発売であり、多くの人に彼女の発信する曲をより知ってもらうことができるので、とても嬉しい。
この投稿をInstagramで見る 美里ウィンチェスター@本垢(@mst_winchester)がシェアした投稿
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メジャーデビューの話も舞い込んでくるようだが、所属してしまうと制限が掛かり、自分たちが想う音楽活動ができなくなってしまうため、今では全部断っている。「『売れる』という言葉は使いたくない。大事なのは『美里ウィンチェスター』というアーティストの存在を知ってもらうことで、ひとりでも多くの人に自分たちが発信する音楽を届けたい」と語る彼女と父親には、自分たちが作り上げる楽曲の絶対的自信が満ち溢れている。現に彼女のファンは多く、他のアーティストや様々な業界関係者からも注目されている。
事務所なりレーベルなりに所属すると、利益優先の活動になってしまうと教えてくれた。ぼくらのような一般的サラリーマンに例えるなら、「あの会社に入って、この商品を作りたい」と思い入社しても、利益を得らなければならない営利活動では、売れるための商品作りは必要不可欠であり、自分が思い描いていた「作りたいモノ」と掛け離れることは大いにある。仮に、自分が作りたいモノと一致した仕事であったとしても、組織が大きければ大きいほど、部品の一部だったり、希望する部署でなかったりと、やりたいことの実現はなかなか難しい。それは組織に所属している以上、組織が最優先となり、自己の実現は奇跡に近い。だからといって、独立してフリーとな...