病院帰りの夜、せいちゃんの熱はもう下がっていた。聴診器は冷たかったけど、怖くはなかった。リンパが腫れて、耳の中が炎症を起こして、それでもせいちゃんは咳をするとき口を手で押さえる。どこで覚えたの、と聞いた。礼儀は、誰かから誰かへと手渡されていく。
今回のエピソードは、そういう「手渡し」の話に満ちている。
近所の研介くんからもらったチョロQ(プログラミングで動かせる)。タイヤが取れて、電池が切れかけて、それでも走ろうとする。10円玉をお尻に乗せられる。
そして、もう一つの「手渡し」は「サビタ ミノリ」の話だ。せいちゃんが1〜2歳の頃から名乗っていた謎のキャラクター。目がビーンと伸びて、トゲが爆弾になる。そのせいちゃんは、ある日まっさに言った——「とうとうに会いたくて、こうなったんだ」と。前世から今世へ、子どもが親を選んで生まれてきたという、子ども口から出た宇宙論。まっさはそれをまだ覚えている。
ガレージバンドで一緒に音楽作ろうって言ってから、ずっと作っていない。なぞなぞレシピという歌を、せいちゃんは休みの日に練習している。バナナジュースにはバナナが要る。それはそうだ。パイナップルはポンポンポンポン前と後ろにつく。なぜかは分からない。
マイクは二人の間に置かれて、咳も笑い声も波形になった。10年後、おじいになったまっさがこれを聞いて、せいちゃんが咳してたな、と思い出す。それで十分だ、という夜。