世界には名前がついていないものが、まだたくさんある。
「ニッション」は「一番好き」という意味だ。4歳のせいちゃんがそう決めた。辞書には載っていないし、誰も教えてもいない。でもその言葉には、既製品の語彙では追いつかない何かがちゃんと宿っている。英語話者が “my favorite” と言うように、せいちゃんには「ニッション」がある。言語とはそうやって、誰かの内側から生まれてくるものだったはずだ。
今回、せいちゃんは30個の「技」を持ってきた。アルニッション、ステロッコニッション、筋肉体操の膝漏れ。それぞれに手順があり、身体の使い方があり、名前がある。大人が「遊び」と呼ぶものを、せいちゃんは体系として持っている。技には正式名称があって、派生がある。股が痛くなって中断する父、それは真剣な実演だった。
お金の話は外でしない。せいちゃんはそれを覚えていた。誰から聞いたかも、なぜそうするのかも。4歳が社会のルールを内側に取り込んでいく瞬間というのは、こんなにさりげなく訪れる。
モバイルバッテリーに貼られたホタルイカのシール。逆さまに貼られたそれを「イカってこうだろ」と言うせいちゃんに、「水中だからどっちが上かわからないよね」と返す父。正しさより、視点の話をしている。
エンディングは、せいちゃんの「聞いてくれてありがとう」だった。登録を呼びかける声は、もうすっかり配信者のそれだった。