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眼鏡
著者:織田 作之助 読み手:堀口 直子 時間:5分59秒
三年生になった途端に、道子は近視になった。
「明日から、眼鏡を掛けなさい。うっちゃって置くと、だんだんきつくなりますよ」
体格検査の時間にそう言われた時、道子はぽうっと赧くなった。なんだか胸がどきどきして、急になよなよと友達の肩に寄りかかって、
「うっちゃって置くと、ひどくなるんですって」
胸を病んでいると宣告されたような不安な顔をわざとして見せたが、そのくせちっとも心配なぞしていなかった。むしろいそいそとした気持だった。
その晩、道子は鏡台の傍をはなれなかった。掛けてははずし、はずしては掛け、しまいに耳の附根が痛くなった。
――風邪を引いて、首にガーゼを巻いた時めたいに[#「めたいに」はママ]、明日はしょんぼりうなだれて学校へ行こうかしら。そしたら、みんな寄って慰めてくれるわ・・・
【青空朗読】とは
青空朗読はインターネット上の図書館「青空文庫」の作品を朗読するプロのアナウンサーによる社会貢献活動としてスタートしました。近年は、朗読を学ぶ一般の方々からも作品を提供していただいています。2016年5月に一般社団法人となりました。
https://aozoraroudoku.jp
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青空朗読は、「青空文庫」の蔵書を朗読で味わうことができる公共空間を目指しています。
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#朗読 #読み聞かせ #日本語 #学習 #青空文庫 #見ながら #青空朗読 #アナウンサー
おいしいおかゆ
著者:グリム兄弟/金田 鬼一 訳 読み手:阿部 みゆき 時間:3分26秒
むかし昔、あるところにびんぼうな信心ぶかい少女がありました。少女はおかあさんと二人ぎりでくらしていましたが、食べるものがもうなんにもありません。それで、少女は、(野いちごでもさがすつもりでしょうか、)郊外の森へ行きました。森の中で少女にであったのは、見たことのないおばあさんです。このおばあさんは少女の心配をちゃんと承知していて、少女に、つぼふかいお鍋を一つやりました。このお鍋は、少女が、「おなべや、ぐつぐつ!」と言うと、上等のおいしい黍のおかゆをぐつぐつこしらえます、それから、「おなべや、おしまい!」と言うと、おかゆをこしらえるのをやめるのです。
少女はこのお鍋をおかあさんのとこへ持ってかえりました・・・
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名人伝
著者:中島 敦 読み手:江刺 祐一 時間:24分39秒
趙の邯鄲の都に住む紀昌という男が、天下第一の弓の名人になろうと志を立てた。己の師と頼むべき人物を物色するに、当今弓矢をとっては、名手・飛衛に及ぶ者があろうとは思われぬ。百歩を隔てて柳葉を射るに百発百中するという達人だそうである。紀昌は遥々飛衛をたずねてその門に入った。
飛衛は新入の門人に、まず瞬きせざることを学べと命じた。紀昌は家に帰り、妻の機織台の下に潜り込んで、そこに仰向けにひっくり返った。眼とすれすれに機躡が忙しく上下往来するのをじっと瞬かずに見詰めていようという工夫である。理由を知らない妻は大いに驚いた・・・
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眠い町
著者:小川 未明 読み手:緒方 朋恵 時間:14分23秒
この少年は、名を知られなかった。私は仮にケーと名づけておきます。
ケーがこの世界を旅行したことがありました。ある日、彼は不思議な町にきました。この町は「眠い町」という名がついておりました。見ると、なんとなく活 気がない。また音ひとつ聞こえてこない寂然とした町であります。また建物といっては、いずれも古びていて、壊れたところも修繕するではなく、烟ひとつ上 がっているのが見えません。それは工場などがひとつもないからでありました。
町はだらだらとして、平地の上に横たわっているばかりであります・・・
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ペンとインキつぼ
著者:ハンス・クリスチャン・アンデルセン/矢崎 源九郎 訳 読み手:Peg 時間:9分40秒
ある、詩人の部屋の中でのお話です。だれかが、詩人の机の上にあるインキつぼを見て、こう言いました。
「こんなインキつぼの中から、ありとあらゆるものが生れてくるんだから、まったくもってふしぎだなあ! 今度は、いったい、なにが出てくるんだろう? いや、ほんとにふしぎなもんさ」
「そうなのよ」と、インキつぼは言いました。「それが、あたしには、どうしてもわからないの。いつも言ってることなんですけどね」と、インキつぼは、鵞ペンだの、そのほか、机の上にのっている、耳の聞えるものたちにむかって、言いました。
「この、あたしの中から、どんなものでも、生れてくるのかと思うと、ほんとにふしぎな気がするわ。ちょっと、信じられないくらいよ。
人間があたしの中から、インキをくみ出そうとするとき、今度は、どんなものが出てくるのか、あたし自身にもわからないの・・・
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ねずみの冒険
著者:小川 未明 読み手:中田 真由美 時間:7分20秒
一匹のねずみが、おとしにかかりました。夜中ごろ天井から降りて、勝手もとへ食べ物をあさりにいく途中、戸だなのそばに置かれた、おとしにかかったのです。空腹のねずみは、あぶらげの香ばしいにおいをかいで、我慢がしきれなかったものでした。ねずみは、そのせまい金網の中で、夜じゅう出口をさがしながら、あばれていました。夜が明けると、ねまきを着た、この家の主人が、奥からあらわれました。
「大きいねずみだな。こいつだ、このあいだから、そこらをガリガリかじったのは。」
主人は、しばらく立って見ていました。
「どうしてくれようか。」
ものぐさな主人は、自分の手で殺さずに、ねこに捕らえさせることを考えました・・・
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ペンとインキ
著者:夢野 久作 読み手:イトー ゲンヤ 時間:1分
ペン先がインキにこう言いました。
「お前位イヤなものはない。私がいくら金の衣服を着ていても、お前はすぐに錆さして役に立たなくしてしまう。私はお前みたいなもの大嫌いさ」
インキはこう答えました。
「ペンは錆るのが役目じゃない。インキはなくなるのがつとめじゃない。一緒になって字を書くのが役目さ。錆るのがイヤなら鉄に生まれて来ない方がいいじゃないか。インキがイヤなら何だってペンに生まれて来たんだえ」・・・
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ヘンゼルとグレーテル
著者:グリム兄弟/楠山 正雄 訳 読み手:古澤 里沙 時間:36分13秒
一
まずしい木こりの男が、大きな森の近くにこやをもって、おかみさんとふたりのこどもとでくらしていました。ふたりのこどものうち、男の子がヘンゼル、女の子がグレーテルといいました。しがなくくらして、ろくろく歯にあたるたべものを、これまでもたべずに来たのですが、ある年、国じゅうが大ききんで、それこそ、日日のパンが口にはいらなくなりました。木こりは、晩、寝床にはいったものの、こののち、どうしてくらすかかんがえると、心配で心配で、ごろごろ寝がえりばかりして、ためいきまじりに、おかみさんに話しかけました。
「おれたち、これからどうなるというんだ・・・
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鼠小僧次郎吉
著者:芥川 龍之介 読み手:水野 久美子 時間:48分59秒
一
或初秋の日暮であつた。
汐留の船宿、伊豆屋の表二階には、遊び人らしい二人の男が、さつきから差し向ひで、頻に献酬を重ねてゐた。
一人は色の浅黒い、小肥りに肥つた男で、形の如く結城の単衣物に、八反の平ぐけを締めたのが、上に羽織つた古渡り唐桟の半天と一しよに、その苦みばしつた男ぶりを、一層いなせに見せてゐる趣があつた。もう一人は色の白い、どちらかと云へば小柄な男だが、手首まで彫つてある剳青が目立つせゐか、糊の落ちた小弁慶の単衣物に算盤珠の三尺をぐるぐる巻きつけたのも、意気と云ふよりは寧ろ凄味のある、自堕落な心もちしか起させなかつた・・・
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返事
著者:太宰 治 読み手:滝川 ゆきえ 時間:10分34秒
拝復。長いお手紙をいただきました。
縁というのは、妙なものですね。(なんて、こんな事を言うと、非科学的だといって叱られるかしら。うるさい時代が過ぎて、二三日、ほっとしたと思ったら、また、うるさい時代がやって来ました。縁などというのは迷信である。必然的と言わなければならぬ、なんて、一言一言とがめられる、あの右翼のやっかい以前の左翼のやっかい時代が、また来るのかしら。あれももう私は、ごめんです)あなたも作家、私も作家、けれども今まで一度も逢った事は無し、またお互いにその作品を一度も読んだ事のない者どうしが、ふっとした事で、こうして長い手紙を交換する。縁と言ったってかまやしません・・・
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