5回にわたり「平成・令和の日本を代表する経営者から学ぶ」というテーマでお話しています。前回から日本電産という電機メーカーの永守重信さんについてお話をしています。今は電気自動車向けの駆動システムとして、非常に重要なモーターを生産している会社です。今回は、経営者永守重信さんのユニークな所として、自分自身の平易な言葉でわかりやすく経営方針を表現して、社内の誰もが心の拠り所に出来るようにしていること、そして、その結果として皆が動けるようにご自身が誰よりも方針を大事にして日々行動しているということをお話したいと思います。
永守さんは、「永守三大経営手法」という経営手法を導入しています。
1.井戸掘り経営
2.家計簿経営
3.千切り経営
「井戸掘り経営」は、ビジネスを井戸掘りに例えています。井戸は掘れば水が出てくるけれども、枯れてしまうこともあります。だからこそ、新しい井戸を掘り続けないと新しい水は手に入らないのと同様に、ビジネスでも常に改革改善のためのアイデアを出し続け、貪欲に新しいことに挑戦し続けましょうという教えです。
2つ目の「家計簿経営」は、収入に見合った生活をしましょうということです。つまり、家計のやりくりと同様、景気が悪くなり収入が下がったら、買っている物を変えるなど収支に見合った生活をすること。ただし、将来に向けての教育などの出資はキチンと必要な範囲で実施するという教えです。まさに、家庭でやりくりしているのと同様な心持で会社のコストを使い、経費を必要に応じて出しながら、いざというときに備えた投資は目を配りながら継続してやっていくという方針です。これは言うのは簡単ですが、会社経営での"家計簿経営"は非常に難しいのです。
コストを下げようと思っても取引先との関係もあるため、当然相手は嫌な顔をします。家計のやりくりと同じで生活を変えるというのは自分だけのことではなく、相手にも関わってくるため、特にいろいろなギブアンドテークのある企業間取引では難しい側面もあるのです。
3つ目の「千切り経営」は、細かく刻んで問題を見ていけば解決できる問題も見えてくるという教えです。難しい問題も千切りにして、問題を分けて1個1個対処していくと問題は解決できるという日常生活でも使えそうな言葉を使いながら社内に浸透させていくことを考えるのが、永守さんの特徴です。
これらは何か本に書いてあったり、外部のコンサルタントに言われたりしたのではなく、永守重信さん自身が経営の実践活動の中で効果があると感じたことを伝えたいという思いから、「井戸掘り」や「千切り」「家計簿」など誰にでもわかる言葉に変えてお話しされています。
どの会社にも「標語」はありますが、この会社の凄い所は、そういった会社経営の基本を社長以下社員全員が徹底して繰り返している点ではないかと思います。人はそもそも本質的に疑り深い側面があります。だから、上の人から「毎日唱和しましょう」と言われても、「とりあえず言っておけば良い」という風に流してしまうことがあると思います。これを解決するためには、社長と役員が誰よりもこれを心から信じて100%の行動で示すしかないのですが、この会社の標語は究極的には分かりやすいだけでなく、全員が信じている所に、この会社の凄さがあるのではないかと思います。
ここで一つそう感じた具体例をお話ししたいと思います。
私が日本電産の本社に行った際のお話です。入口から私有地の中に入ったところに、横断歩道の白線が書いてありました。私は私有地だったこともあり、間を突っ切って対角線に行けば良いと思って歩き始めました。すると、警備員の方が「すみません、白線の上をちゃんと歩いてください」と言いにやってきました。私は初めての経験だったため、「なぜですか」と聞くと、「私たちは安全のための部品や物を作っているので、全員がしっかりとルールを守ることがとても大切なんです」と申し訳なさそうにお話されました。私有地だし社外の人だし横断歩道を通らなくても良いや、と思ってしまいそうなところを、そう思わずきちんとルールを守るために警備の人が即座に行動に移すという社風、しかもそれを警備の人がお話になるという所に、私はこの会社は凄いなと感心しました。
この会社は国内外で60社以上の買収をしています。実は、そのいずれでも成功してきているということが数字で証明されているのですが、組織として競合を深く理解して理念を徹底して実践しているからこそ、このような会社が出来上がったのではないかと思います。
では、今日のまとめです。
戦うべき市場を決めて徹底的に資源を集中投下する姿勢、そして経営理念を徹底する姿勢があるが故に、他社以上の成長を続け、今まさに新しい電気自動車市場の台風の目になっています。そういった会社の姿勢を永守重信氏が作り上げたのではないかと思います。