4回に渡り、アメリカから有名な経営者がトップとして"降臨"してから会社がどのように変化していったのかについてお話ししています。前回は、役員会でそのトップがどのような話をしたのかについてお話しました。
今日は、私が「赤字事業」そして「クライアントとの赤字の契約」を見直すときのお話です。
実は、このトップが降臨してから私が担当したのは「赤字事業の見直し」でした。いくつかの大きなお客さまとの契約が大きな赤字を出しており、これを解決するというテーマを与えられていました。私は直接そのお客さまのところへ出向いて契約の見直しをお願いしますが、かなり強硬に反対されました。そもそも契約を交わしたのは昔のことで、既に決まったことを今更言われても、とお叱りを受け、そのことをトップに報告した時のお話です。
役員会の中でそのアメリカから来たトップは顔を真っ赤にして次のように言いました。
「サトシ!(私の名前)今から取引先に行って"この契約をすぐに変えてもらえなければ、うちはもう御社との取引は止める。私達は自分の会社の企業価値を壊すようなビジネスをやる気は一切ありません"と言って来い。」
彼はそう言うと、私に向かって契約書を投げつけてきました。そして、彼は次のように続けました。
「サトシ!お前は大学院でファイナンスの講師をしているのだろう?それでいて企業の価値を日々壊していくような取引を経営者として受け入れてしまう"負け犬"なのか?お前、それで本当に教壇に立って、学生の前であるべき経営を語れる資格があるのか。」
彼は更に、こう続けました。
「この契約は我々にとって厳しいと分かっていながら、彼らは敢えてサインしたんだ。極端に言えば騙したのは相手側なんだと相手に言ってこい!」。
「闘え。契約内容を変えてもらうか、うちが全部降りるかだ。うちがすぐに全部降りると言ったら相手は困るはずだ。相手もそもそもこういうことが起き得るということは分かった上でサインしているはずなんだ。何をもたもたしている。早く客先へ行け、闘え。闘うんだったら最後まで支援する」
と言われました。厳しいですが、闘うということをやはり求められたわけです。
日本のビジネスの風習として、例え短期的に赤字だったからとしても、長期的には相手は考えてくれるだろうという想定をしがちです。この契約を交わしたときには(当時私の担当ではありませんでしたが)、このお客さまとこういう契約をしてしばらくの間赤字を出しても、将来的にはきっと黒字になってくれるだろう、相手はそういう風に我々のことを信頼してくれるだろう、と考えていたのではないかと思います。
ただし、これは昔の考え方なのかもしれません。特に、今のような国際的に安いコストの国にどんどんビジネスを移転していくような時代では、このような甘い姿勢を見せると逆にとことんつけ込んでくることもありうるということを、おそらくこのトップはアメリカやヨーロッパ諸国等、世界中の国でビジネスをしてきた経験から理解していたのだと思います。そして、私を通してこのことをこの会社に染みこませたいと考えたのではないかと思います。
そこまで言われた私は、その後闘いに行かせざるを得なくなったわけですが、言われた通りに文句を言ってもしょうがないので、徹底的に分析・計算をしました。このビジネスは私達にとって価格がいくらになったら黒字になるのか、そして相手はどういう契約だったら社内で通しやすいだろうかということを徹底的にExcelで分析解析をし、その上で先方のトップと役員の皆さんにお会いしました。
そうは言っても、話をしても当然相手先の役員室で私に対する非難の雨嵐になるわけです。「一回約束したことを変えるとは何事だ!」、「むしろコストを下げて利益が出るように努力するのはあなた方なのに、なぜ顧客である私達が犠牲にならなければならないのだ」などなど。罵詈雑言とはこういう事だなと感じる時間がしばらく続きました。
しかし、こちらもアメリカからきたトップに言われていため、次のように言い返します。
「私にとって自分の会社の価値を壊すような取引は、自分が経営者として罪を犯すことと同じです。あなた方が取引先とそういう取引を結んだ責任もゼロではないと思います。こういう取引をしたら取引先がどうなるか、サプライヤーがどうなるかということをあなた方は分からないはずはない。だから、我々はもうトップの決断として、もし皆さんが条件を飲まなければすぐに取引を降りさせていただきます。私達も苦しみますが、皆さんも苦しんで下さい」
そう言って席を立ちました。それから1時間後です。私の携帯が鳴り「どこの契約をどのように変えたいの?」とお客さんの方から言ってきて、最終的には契約の見直しが成立することになります。
結果的に見て、こちらも主張をして闘うことによって、相手も飲んでくれたということです。私はここで色んなことを学びました。一つは、経営者は妥協してはいけないということ、そして経営者の責任というのはちゃんと利益(価値)を残すこと、それが結果的には大切な社員の皆さんをお守りするということだということ。
実は後で教えてもらったことですが、私が席を立った後に、アメリカ人のトップが裏で相手方の社長に電話をかけてきてくれていたそうです。私が厳しい議論をするということを分かった上で、実はかなり丁重にまとめてくれるような交渉をしてくださっていたようでした。
大切なことは最初から妥協せず、しっかりと会社のために戦うこと、そうすると周りはサポートしてくれますし、合理的であればお客さまも納得してくれるということを私自身ここで学ぶことが出来ました。