今、台湾である一人の女性が台湾の人気YouTuber 「Howhow」の番組に登場し、それをきっかけに注目を集めています。
もしかしたら、あれ?この名前、どこかで聞いたことあるぞ…という方もいらっしゃるかもしれませんね。「黑嘉嘉」さんは、日本でも活躍する台湾棋院七段の女性囲碁棋士です。
囲碁の世界では日本でも台湾でもすでに有名だったのですが、人気YouTuberの番組に出演したことで、その囲碁の才能と、そこにプラスされた可愛らしさや彼女の気質に注目が集まり、一般にも広く知られ、人気となっています。
そんな「黑嘉嘉」さんは、1994年、オーストラリア人の父と、台湾人の母のもと、オーストラリアのブリスベンで生まれました。英語名は、ジョアン・ミシンガムといいます。
小さい頃は、両親から「好きなことは何でもやってみろ」と言われていたことから、体操やピアノ、琵琶、バレエ、囲碁、小学校に入ってからは水泳チームに入るなど、様々な習い事をしていました。
4歳の時に台北市に移った「黑嘉嘉」さん、5歳の時に母親が碁盤を買ってきて、家族で五目並べをした際、「黑嘉嘉」さんはなんと、家族全員を打ち負かしたそうです。そして、「五目並べを習いに行きたい!」と言い出しました。しかし、母親は、囲碁の教室は聞いたことあるけれど五目並べの教室は聞いたことがないと説明。そして「黑嘉嘉」さん6歳の時に囲碁を習い始め、台湾の囲碁棋士・周可平氏に師事。8歳の時には、同じく台湾の囲碁棋士・林聖賢氏に師事しました。
「黑嘉嘉」さんは、囲碁を学び始めると、囲碁の無限のバリエーションに魅了されていきました。
当時、台湾でも囲碁を題材にした日本のアニメ「ヒカルの碁」が放送されていて、それを見てプロ棋士という存在を知り、囲碁のプロ棋士になろうと決めたんだそうです。
その時、「黑嘉嘉」さんはまだ8歳。母親も囲碁の世界のことはよくわからなかったことから、師事していたプロ棋士の周可平氏に尋ねたところ、周可平氏からの回答は、「よく考えた方がいい」というものでした。
というのも、この頃、「ヒカルの碁」を見た多くの子供たちが将来はプロ棋士になりたいと言っていましたが、周可平氏は、この道が決して楽なものではなく、台湾の囲碁業界には100人以上のプロ棋士がいるものの、そのうち賞金で食べていけるのはわずかに上位数名だけであるという事を知っていたからでした。
そのため、囲碁だけでなく、学業の成績もよく多才な「黑嘉嘉」さんがプロ棋士だけを目指すのはもったいないと語ったそうです。
11歳の時、父親の仕事の都合で家族でアメリカに引っ越しますが、引っ越し先では囲碁教室や先生に出会えず、囲碁環境を失ったことで、「黑嘉嘉」さんはさらに囲碁への“愛”を認識したそうです。
そこで、毎日2時半に学校が終わってからは囲碁の練習を重ね、ネット上で対戦相手を探し対戦。ただ実力ある棋士の多くはアジアにいて、アメリカとは時差があることから、週末になると夜中に起きて対戦したりしていました。
そして2年後、ネットの六段から九段に昇段するなど、確実に進歩が見えたことから、「黑嘉嘉」さんは再度、母親にプロ棋士になりたいと夢を語りました。
それを聞いた母親は、娘の夢をかなえるため、2006年、中国の入段戦に申し込み、「黑嘉嘉」さんは初めて出場。最初の挑戦は失敗に終わりましたが、2008年、再び入段戦に挑み、2位となって14歳で入段を果たしました。
これは、台湾で初の、そして唯一の中国大陸で入段したプロ女流棋士でした。
「黑嘉嘉」さんは、この時のことを振り返り、対局の時の心構えが成功につながったと語っています。
というのも、その入段戦で失敗に終わった多くの女の子がトイレで泣いているのを見たそうです。彼女たちは人生の全てを囲碁にかけているかのように、この入段戦に全力を注いでいたようでしたが、「黑嘉嘉」さんは、両親からプレッシャーを受けたことはなく、その代わり、「囲碁を楽しんでおいで」と言われたんだそうです。
ちなみに、「黑嘉嘉」さんは中華民国国籍とオーストラリア国籍の二つを持っていますが、その二つを保持することを選択したため、中華人民共和国国籍は申請せず、中国棋院にも登録しませんでした。
そうして14歳でプロ棋士となった「黑嘉嘉」さんは、母親と共に台湾へ戻り、2010年に台湾棋院に初段として所属。台湾を拠点に様々な大会に出場し活躍します。
2019年には、日本で開かれた「第2回 SENKO CUPワールド碁女流最強戦」で世界4強に入りました。その時の落ち着いた集中力と、真剣なまなざしが多くの人を魅了し、日本の囲碁界から「千年に一度の美人棋士」と呼ばれ、2019年、2020年と、NHK Eテレの「囲碁フォーカス」という番組でレギュラーコーナーを担当しました。
台湾囲碁界を代表する女性囲碁棋士、「黑嘉嘉」さん。実は、囲碁棋士としての顔の他に、タレントとしての顔も持っていて、2016年に台湾の芸能界デビュー。2020年に台湾で上映され、その年の台湾版アカデミー賞「金馬奨(ゴールデンホースアワード)」で監督賞と脚本賞を受賞した映画「消失的情人節(邦題:1秒先の彼女)」で、主人公の女性と同じ郵便局に勤め、“あざとかわいい”振る舞いでみんなを虜にするキュートな後輩の役を演じています。
昨年(2021年)の10月から、オンラインで参加できる「囲碁教室」を始めています。
毎日10分、30日のオンライン授業で、専門のアプリのテストに合格すれば、プロが認定する十級の証明書を得ることもできるそうで、このオンライン「囲碁教室」も注目を集めています。
台湾でも「囲碁の女神」と呼ばれ、最初はそのかわいらしさから注目されることも多い「黑嘉嘉」さんですが、彼女のその囲碁の実力と、囲碁愛の深さを知ってますます虜になる人も多いようです。
これからも囲碁の楽しさや奥深さを多くの台湾の人たちに伝えていくことで、彼女がきっかけとなって囲碁に興味を持つ人も増えていくかもしれませんね。