朗読少年

ウミガメの恩返し


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朗読少年 ウミガメの恩返し 
昔々あるところに清六という若い男が住んでおりました。
 海沿いの小さな村に一人で住んでいた清六は 村人達に知らない者はいないというほど 魚釣りが上手くて 、清六がすーっと海に竿を垂らすと すぐにアジやメバル、 タイやヒラメそしてタコやイカなんかどんな魚でもすぐにパクっと食いつくのでした 。
清六は毎朝早くから片手に釣竿 そして背中には大きな籠を背負って 海に出かけます。
 そして夕方になると背中のかごがいつも魚でいっぱいになるのです。
 「清六どーん 今日もたくさん釣れたようじゃの」村人は清六に声をかけると
「今日はの太いアジが釣れたんでな」と清六は大きく太ったアジをポイッと渡して
「清六さんご苦労さんじゃったのう」村のばあ様が声をかけると 
「ばぁ様これこれ」と清六はばあさまに小さなカレィを両手に余るほど渡しました 。
海からの帰り道で清六は 村人たちに声をかけられるごとに 
ほれ、ほれ、ほれ~と釣れた魚を 渡していくもんですから、家に着く頃には小さな魚が2、3匹しか残っていません。
 それでも清六は残った魚を小さな鍋に入れて くつくつと煮立たせてからなんとも嬉しそうに 食べるのでした。
そして その日も朝から清六は海に出かけて行って たくさん魚を釣っていたら
 なんといきなり 釣竿がピーンと張ってものすごい力でひきがありました。
あまりにも力強い引きなので清六は海に落っこちそうになったんですが、何とか踏ん張って 強く引っ張ったりたまに力を抜いてみたりしていました。
 しかしなかなか魚は顔を出してくれません。
「 こいつは困った、よほどのでっかい魚なんだな。ゆっくり焦らず竿を引いていくとするか」
  そう呟いた清六は焦らずゆっくり 少しずつ竿を引いて、そしてやっとこさ釣り上げて陸にあげてみると なんと大人の背丈ほどもあろうかというでっかいでっかいウミガメが釣れたのです。
 びっくりして尻もちをついてしまった清六は
「ウミガメの あんたを持って帰ってもわし一人で到底食べきれんから、海へ帰ってくれや 」と優しくつぶやいて 大きな大きなウミガメを海へ帰してやりました。
 何とも大きなウミガメのいるもんじゃのぉと独り言を言いながら、その日もいつもと変わらず釣れた魚を村人たちに配って帰りました。
 清六は半日大きなウミガメと戯れて 疲れてしまったので、その夜はいつもより早めに 眠ってしまいました。
 大きないびきをかきながら眠っていると コンコンコンと誰かが玄関の戸を叩く音で清六は目が覚めてしまいました 。
もう 夜中で真っ暗で 、フクロウもうとうと寝てしまおうかと言うほど、そんな夜更けに
 「あれ誰だろうかこんな夜更けに」清六は不思議に思いながら 玄関の戸を開けてみると そこには 黒い服を着た 大きく真っ白の髭を蓄えた おじいさんが立っていたのです。
「 清六さん、今日はウミガメを逃してくれてありがとうございました。ワシはそのウミガメの父親で 海の長老です 」
清六は眠たい眠たい目をこすりながら 半分寝ぼけた頭で 何とも信じられないというふうな顔をしていますと
 「逃がしてくれたお礼にこれを差し上げます。 困った時は こいつを思いっきり吹いてください きっと清六さんの役に立つはずです」
 海の長老の差し出した手を見ると 手のひらくらいの小さなホラ貝の貝殻でした。
 その貝殻をそぉっと清六の手に渡すと 軽く頭をぺこりと下げて 海の長老のおじいさんは その場ですっと消えてしまいました。
 夜中に急に起こされた清六はもう眠たくて眠たくて 仕方なかったので 手の中にあった貝殻を枕元に置いといて またすぐにグゴグゴとイビキをかきながら 深い眠りに落ちて行きました 。
それを屋根裏で見ていたのは ネズミの親子です。
 この二匹はいびきをかき始めた清六を見て 、枕元に転がっている貝殻をそぉっと持ち上げて、えっちらおっちらと 屋根裏へ持って行ってしまったのです。
やがて朝になって
清六が目をさますと 
「しかし 不思議な夢を見たもんじゃ」 と貝殻のなくなっている枕元を見つめて一人呟きました 。
昨夜の出来事が夢だと思ってしまった清六は またいつものように 釣竿を持って大きなかごを背中に担いで海へ出かけて行ったのです。
 そして
かれこれ10年の月日が流れ 清六の家には働き者の嫁さんと 生まれて間もない可愛い可愛い赤ちゃんが授かっておりました。
 しかし その年の夏、 半年以上も雨が降らず 日照りが続いたもんで作物のすべて枯れてしまい とうとう井戸の水まで枯れ果ててしまったのです。
 しかし一向に雨雲の気配もなくて 村にも 食べ物 や飲む水さえもなくなって、とうとう 清六の家の赤ちゃんへ飲ませる 嫁さまの乳さえ出なくなってしまったのです 。
「わしらの可愛い赤ちゃんや」 泣きながら子供を抱えている母親を見つめ 、途方に暮れていた清六の頭に、コツンと片手ほどの貝殻が落ちてきたのです 。
その貝殻を見た清六は
「あんれ? どこかで見た貝殻じゃの」
とつぶやきましたが、 どこで見たのかは思い出せません。
 清六はにわかにその貝殻を拾って 
「もしかしたら中に水が溜まっているかもしれんの 」そう思って そのホラ貝を赤ちゃんの口も取り寄せてみました 。
するとその赤ちゃんは 貝殻の先をパクッと口にくわえ 
「ブーブーブーブー」と言い始めました。
 するとなんとしたことでしょう、村じゅうにいや海の向こうにまで響き渡るような
ブゥオー、ブゥオー、ブゥオーという大きな大きな音が そのほら貝から響いたのです 。
すると急に、 あたり一面真っ暗になったかと思うと、ゴロゴロと雷が鳴り始め ザザーっと雨が降り出したのです。
 半年以上もお目にかかれなかった大粒の大粒の恵みの雨です。
 その雨は三日三晩続いて作物も 井戸の水も溜まって 清六の嫁様や赤ちゃん 、村人たちも元気を取り戻しました。
「そういえばっ!」
 ここでやっと清六は そのホラ貝の貝殻を見て 昔逃がした大ガメのことや 、夜中に訪れた白い髭のおじいさんの事を思い出しました。
「なんとまぁ、あれは夢ではなくて本当のことだったんだのぉ」そして元気を取り戻した清六は 、また次の日から海へ出かけ 帰りには たくさん釣れた魚たちを村人たちに くばる 毎日を過ごし始めました。
 清六の家には 働き者の嫁様と 可愛い赤ちゃん、 それから屋根裏には10匹に増えたネズミの家族が 暮らしています 。
おしまい
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